2度目の誘拐
下衆な男がでてきます。
暴力的な表現がありますので、お気を付けください。
衣装箱に何かが当てる音がする。
ポツ、ポツ、それは雨音だった。
ヴィヴィアンヌは、狭い箱の中で身を屈め、穴に耳を当てる。小さな穴は外を見れないが、音は拾える。
馬車の車輪の音、馭者が鞭を振るう音、馬の蹄の音。
雑多な音がする。人の声もある。
ここは街なのかもしれない。
王都を出て、一番近い間違い?
箱の中では、どの方向に走っているのかもわからない。
雨音が強くなる。人々が雨を避けて走る音。雨が建物に当たって跳ね返る音。
その雨が、ヴィヴィアンヌを追うディアランに取って、ヴィヴィアンヌの手がかりを消しているなどと、ヴィヴィアンヌが知るはずもない。
雨はヴィヴィアンヌの気配を消してしまっていたのだ。
人のいる街を離れたのたろうか、馬車が爆走しだした。
雨で泥濘んだ泥がはねる音がする。
当然、舗装された道より振動も大きく、狭い箱の中でヴィヴィアンヌの身体がはねて、あちらこちらに当たる。
きっと探してくれている。
こんな時に、思い浮かぶのはディアランだ。なんとか時間をかせげば、ディアランが来てくれる。
どうして、王宮から誘拐出来たのか、ヴィヴィアンヌは考える。
火事と蜂で王宮は騒乱としていて、兵士達は蜂の対応に追われ、薬を嗅がされぐったりしているヴィヴィアンヌを運んでも、蜂に刺されて治療に向かうと周りは見ていたのかもしれない。
これが計算されたものなら、緻密な計画と行動が要求される。
馬車で襲撃された時も、狂犬病の危険のある犬に注意を向けさせ、倒れ込んだ馬車を壁にして人目を避け、ヴィヴィアンヌの馬車に乗り込んできたザイール。
きっと計画を考えている人間がいる。
そんな人間の裏をかいて逃げようとしても、絶対に無理だ。
イレギュラーを待つ?
そんな不確定な様子に頼ることはできない!
ガタン!
馬車が停まり、箱が馬車の屋根から降ろされる。
二人の男に持たれて、衣装箱が運ばれる。ヴィヴィアンヌは、逃げる時の為に何人いるのか数える。
衣装箱は建物のの中に持ち込まれ、部屋に入ったのだろう、扉の閉まる音がする。
「ご苦労だった、もう下がれ」
聞き覚えのある声に、ヴィヴィアンヌに緊張がはしる。
衣装箱の鍵が開けられ、蓋が開けられる。
そこには、ヴィヴィアンヌが想像したとおり、ジェラルディンがいた。
「相変わらず太いままなのだな」
ニヤニヤ笑いながら、ヴィヴィアンヌを立ち上がらせようと箱の中に手を入れてくる。
その手を払いのけて、ヴィヴィアンヌは一人で立ったが、狭い箱に長時間入れられていたせいで、ふらついてしまった。
ガシッ、ジェラルディンがヴィヴィアンヌを抱きかかえた。
「肉付きが良くなって、これはこれでいいか」
ジェラルディンの視線を胸に感じて、ヴィヴィアンヌは身をよじる。
「離してください!」
ヴィヴィアンヌが抵抗するも、男の力に敵うはずもない。
「抵抗しても無駄だ。
ジェラルディン様が好き、って言ってたろうが」
ジェラルディンの言葉に、ヴィヴィアンヌは羞恥で赤くなる。
こんな男が好きだったなんて、男を見る目がなさすぎ、ヴィヴィアンヌは自分に呆れる。
ヴィヴィアンヌは力任せに、ジェラルディンの足を踏みつけた。
「うわぁ!」
痛みで、ジェラルディンはヴィヴィアンヌを放すが、逃げようとしたヴィヴィアンヌに手をあげた。
バシッ!
ジェラルディンの平手がヴィヴィアンヌの頬を打つ。
勢いでよろけて、後ろに尻餅をつくヴィヴィアンヌをジェラルディンが見下ろして立っている。
「俺に逆らうな!」
もう一度、ジェラルディンの平手がヴィヴィアンヌを打つ。
「お前は俺のものなんだ! よく覚えておけ!」
叩かれた頬を押さえながら、ヴィヴィアンヌが床に倒れ込んだ。
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