想いの温度差
ゴクン、ヴィヴィアンヌの喉が嚥下する。
白かったヴィヴィアンヌの顔色に色が注してくる。
「きれいだ」
自分の力がヴィヴィアンヌに流れ、ヴィヴィアンヌの睫毛が震え、頬が薄いピンク色に染まる。
僕のヴィヴィ、ディアランはヴィヴィアンヌの生命力を感じる喜びで夢中になって口づけしていた。
ヴィヴィアンヌは悪夢を見ていた。
熱い何かが身体の中に流れ込んできて、息が苦しい。
しかも、身体に違和感がある。まるで小さな虫が身体を這いまわっているかのよううな不快感。
いや、いや、いやっ!
叫ぶのに声にならない。藻掻こうとする手も動かない。
身体に流れる熱さが不快感を上間っていく。
熱い。
誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「ヴィヴィ」
目を開けると至近距離に・・・ディアランがいる。
キスされている。
認識するよりも早く、ディアランが覆い被さるようにヴィヴィアンヌを抱きしめた。
「よかった。どこか痛いところはない?」
そっとヴィヴィアンヌから身体を外して、ディアランはヴィヴィアンヌを確認する。
「痛いところは、ないと思う」
声も普通に出る、よかった、とヴィヴィアンヌは思う。
「ヴィヴィが目を覚ましたと、夫人を呼んでくるから。待っていてくれ」
ヴィヴィアンヌの額にキスを落とすと、ディアランはベッドから離れた。
ぼー、とディアランの後ろ姿を見送って、自分がベッドに寝ている事や、薄暗い部屋を確認する。
ゆっくり戻ってくる記憶。
ザイールに誘拐されて、逃げようとしたこと。
馬車から出た時に、ディアランと目があったことは間違いない。
開いた扉から落ちそうになって、ディアランが受け止めてくれた。
でも・・ザイールの腕が落ちてきて、血が・・・。
ディアランの声が聞こえて、抱き起されそうになって・・それからどうしたのだろう、思い出せない。
助かった、それはわかる。
記憶がないのは、意識がなかったからかも。気がついたら、ここにいるのだから。
ディアランが助けに来てくれた。助けてくれた。
嬉しい。
コロンと寝返りを打てば、顔がにやける。
王太子殿下は、あまり接点なかったけど、常に冷静で感情の起伏が少ない人と聞いていた。
でも、私に向ける視線は優しさを感じる。
すごく大事にされている。愛されていると思える。
なのに、何故、私は気持ちを返せないのだろう。
好きって、応えられないのだろう。
私にも大切な人になると思う。嫌いじゃない。
ジェラルディン殿下には、あんなに好きって言ったのに、どうしてディアラン殿下には言えないんだろう。
もう好きになっているのかな? これから好きになるのかな?
わからない。
「こんな気持ちで結婚していいのかな? 私、ジェラルディン殿下みたいになっていないかな?
気持ちを伝えてくれるディアラン殿下に嫌な思いをさせたくない。
私も好き、って自信ない」
自分で呟いた言葉の罪悪感で、圧迫されそうになる。
この間まで、ジェラルディン殿下を好きって言ってたのに、すぐにディアラン殿下を好きになるなんてありえないよね。
周りから、薄情な人間のように思われたらどうしよう。
これからずっと一緒にいるディアラン殿下を、好きになってもいいの?
支離滅裂だ、私。
そういえば、夢で見た熱い何か。
あれは、ディアラン殿下がなにかしたんだ。確信できる。
あの虫が這うような感覚、それを焼き尽くしてくれた。
「ヴィヴィアンヌ、目が覚めたと聞いたわ」
母親の公爵夫人が侍女や医師と、寝室に入って来た。
ディアランの事を考えていたのが、母親の声で現実に戻る。
「お父様は、犯人の取り調べにいかれているの。
無事でよかったわ」
ヴィヴィアンヌの手を握る母親の手は震えている。
高位貴族として生まれ公爵家に嫁ぎ、娘を産み、穏やかな公爵夫人として生きて、娘が誘拐されたのは耐え難い苦しみを与えたのだろう。髪は乱れ、目は真っ赤に充血している。何度も泣いたに違いない。
愛されていると感じる。
「お母様、大好き」
愛は、こんなに温かい。
ヴィヴィアンヌは、母の手を握り返した。
私を愛してくれている人を不安にさせちゃいけない。
王太子妃になる私は、もっと気をつけないといけない。
ヴィヴィアンヌは、家族やディアランの為に強くなりたいと思った。
お読みくださり、ありがとうございました。




