ディアランの想い
ヴィヴィアンヌが助け出される前に戻って、ディアランがヴィヴィアンヌの行方を追うところから始まります。
ディアランは躊躇うことなく、ヴィヴィアンヌの後を追った。
空気が流れてくる。
愛しい、大切な女性が連れ去られた。怒りで全てを壊しそうになるのを、壊したらヴィヴィアンヌまで死んでしまう、その思いだけで押し止めていた。
ヴィヴィアンヌに出会って、苦しみも喜びも知った。ヴィヴィアンヌだけが、ディアランの世界で鮮やかな色で生きている。
軍馬で駆けるディアラン達は、程なくして大勢の男達が馬で伴走する馬車を見つけた。何よりヴィヴィアンヌの空気がある。たが、馬車の中でヴィヴィアンヌがどういう状況であるかわからないので、強硬手段にはでれない。まずは馬車を止め、周りの男達を排除する。
ディアラン、レベックと精鋭騎士達には、手応えのなさすぎる相手だった。
傭兵達であろうが、一方的な殺戮になる。
『どうした!?』
馬車の窓から男が覗いて、中にはヴィヴィアンヌと男が一人以上いるとわかった。
突入するべく、レベックに目配せをする。ヴィヴィアンヌを盾にとられることはわかっているから、同時に反対側の扉と窓からも突入するようにする。
ヴィヴィアンヌに傷つけることは、絶対に避けねばならない。
突入しようと身構えた時、馬車の扉を跳ね飛ばすかのようにヴィヴィアンヌが飛び出してきた。
一瞬、絡まる視線。
元気な姿を見て安心すると同時に、こんな時なのに嬉しい。
開いた扉から落ちていくヴィヴィアンヌを受け止めようと、手を伸ばす。
絶対に間に合わせる。
ヴィヴィアンヌの後ろから男が刀を振り上げ、ヴィヴィアンヌが落ちて来るのが、ゆっくりに見える。そして、目の端には、レベックが飛び込んで行くのが見えた。
自分とレベック以外の人間の動きが遅い。
望んでこのような身体に生まれた訳では無いが、今はこの身体でよかったと思う。
こんな力があるとは知らなかった。
8年前、ディアランの血をレベックとオーデンに与えた。
だから今、ディアランだけでなくレベックも動けるのだろう。
ディアランがヴィヴィアンヌが地面に叩きつけられる前に受けとめた。
ボトッ。
横に刀を握りしめたままの腕に落ちてきた。
ヴィヴィアンヌに吹き出す血飛沫がかかり、急いで腕に抱き込む。
ヴィヴィアンヌを斬ろうとした男は、レベックに腕を斬り落とされ、叫びながらのたうちまわっている。
ヴィヴィアンヌに見せまいと抱き上げようとしたら、か弱い女性には刺激が強すぎたのだろう、ヴィヴィアンヌは意識を失った。
抱き上げた時に、僕に何か言おうとしてのは、僕の名前を呼ぼうとしたのではないか。
なんて、可愛いのだろう。
ディアランは自惚れているが、ヴィヴィアンヌは違う事を言いたかったのを知らないほうが幸せ、とはこういう事なのだろう。
ディアランはレベックに指示を出して、ヴィヴィアンヌを休ませようと誰もいなくなった馬車に乗り込んで、椅子にヴィヴィアンヌを寝かす。
騎士の一人が馭者席に乗って、馬車を動かして王宮に向かう。
レベックと残りの騎士達は、生きている犯人達を引き連れて後から戻ってくるだろう。
王宮では公爵令嬢の誘拐に大騒ぎであったが、ディアランがヴィヴィアンヌを連れ戻ると、すぐに医者が手配され、トラファルガー公爵夫人が意識を失くしたままのヴィヴィアンヌに付き添うことになった。
王に報告をしたディアランは、軍施設の地下に向かった。
すでにレベックが犯人達を連行して戻ってきていることは報告が来ている。
カツン、カツン、とディアランが地下の廊下を歩く音が響く。その後ろをトラファルガー公爵が続く。
オーデンが尋問室と札のある部屋の扉を開けると、ディアラン、公爵と部屋の中に入る。
虫の息のザイールがそこには転がっていた。
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