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2番目の恋物語  作者: violet
18/50

救援

残酷な表現があります。気を付けてお読みください。

寝ている振りをしながら、ヴィヴィアンヌは周りの情報を得ようと感覚を研ぎ澄ます。


ザイールに答える声はしない。馬車の中はヴィヴィアンヌとザイールの二人のようだ。

ザイールが油断している隙をついても、走っている馬車から逃げ切れる気がしない。当然、帯剣はしているだろうし、走って逃げるなど非現実である。増えた体重は少ししか減っていない、走るには負荷が大きい。


食事制限だけで痩せようとせずに、運動も増やして、もっと体重を減らしておくべきだった。

ヴィヴィアンヌが後悔しても、今更である。

ディアランに昼食を持って行くようになって、ディアランがヴィヴィアンヌに食べさせようとするのだ。食事制限も思うようにできていない。


生きて帰れたら、絶対に体重を元に戻す!

どんなにディアランが甘やかしてきても、断って必要以上に食べない!


今は逃げようとせず、機会を待つべき。そう判断して息を殺して様子見に徹する。


馬車の急ブレーキで、ヴィヴィアンヌは椅子の背もたれに大きく打ちつけられる。

痛い、けど声を出さない、我慢、我慢、と気がついていない振りを続ける。


「どうした!?」

ザイールが声を荒げて馬車の窓から外を覗いたが、すぐにヴィヴィアンヌの腕を掴んだ。

気がついていない振りのヴィヴィアンヌの身体はぐったりしていて、ザイールはヴィヴィアンヌの腰に手を回して抱きかかえるようにして、立ち上がらせた。


うわぁ、触られるのが気持ち悪い。

きっとなにかあったんだ。ヴィヴィアンヌはされるがままに身体の力を抜いている。


馬車の外では、もめている音がしていて、剣の音や叫び声が聞こえる。

ザイールに気づかれないように薄っすらと目を開けると、窓の外にたくさんの人間の姿が見える。


「くっそ! 何てついてないんだ!

お前があの王子に惚れなければ、俺が婿になって公爵家を継ぐはずだったのに!

そうだ、ここで殺してしまおう。

そうすれば、公爵も嫁にいくお前の子供を後継にするなんて言えなくなる」

ザイールの言葉に、ヴィヴィアンヌは全てを悟った。


ヴィヴィアンヌが嫁いだら、トラファルガー公爵家は血統の男子を養子に取ると思っていたが、ヴィヴィアンヌとディアランの子供に継がせるつもりらしい。

自分がトラファルガー公爵になると期待していたザイールは、ヴィヴィアンヌを誘拐するという凶行に及んだのだ。


ザイールが剣を抜くために、ヴィヴィアンヌを抱える手の力が抜けた瞬間、ヴィヴィアンヌは振り返った。


ガン!!

思いっきりザイールの股間を蹴り上げたのだ。ザイールが身体を丸めて股間を抑えた瞬間、ヴィヴィアンヌは扉に向かう。

その勢いのまま、馬車の扉を体当たりで開けた。


開いた扉からディアランが見えて、視線が重なる。

勢い余ったヴィヴィアンヌの身体が馬車から転げ落ちるのが、ヴィヴィアンヌにはスローモーションのように感じた。

後ろから痛みに呻きながら、ザイールが剣を振り上げてヴィヴィアンヌに斬りつけてくる。

ディアランが手を延ばし、ヴィヴィアンヌを受け止めようと駆けて来るが間に合いそうにない。


ヴィヴィアンヌの背中に血しぶきがかかる。それがどういうことか分かったのは、地面に叩きつけられる前にディアランに拾い上げるように抱きしめられた後だった。

ディアランはヴィヴィアンヌの誘拐犯達と交戦していて、ヴィヴィアンヌが馬車から転がり落ちるのに間に合う距離にいなかったはずだが、結果的にはヴィヴィアンヌは地面に落ちる前にディアランに受け止められた。

そして、ヴィヴィアンヌにかかった血しぶきはザイールのものだった。

ゴトンと剣を持つザイールの腕が落ちてきた。

驚きと恐怖で、ヴィヴィアンヌは声も出せずに身体が硬直する。


「うわぁぁあぁぁ!!」

片手になったザイールが痛みにのたうち回っている。

ザイールを斬ったのは、レベックだ。


レベックがどこにいたかは気がつかなかったが、後ろから斬りつけてくるザイールの剣に間に合うはずがないのに、ザイールの腕を斬り落としたのだ。

ディアランもレベックも、まるで瞬間移動したかのように間に合ったのだ。


「ヴィヴィアンヌ、無事でよかった」

ディアランが強く抱きしめるから、ヴィヴィアンヌもやっと助かったのだと思えた。

後ろから浴びせられたザイールの血しぶきが気持ち悪い。

誘拐犯達であろう、多くの人間が血の海となった地面に倒れている。


「レベック、簡単に殺すな。

犬のことも、こいつが単独でできるはずがない」

ヴィヴィアンヌの頭の上から聞こえるディアランの声は、聞いたこともないほど低く冷たかった。


誘拐された時にかがされた薬が完全に切れてなかったのか、ヴィヴィアンヌの意識が遠のいていく。

力が抜けていくヴィヴィアンヌを、ディアランが横抱きに抱き上げようとするのがわかる。


やめて、重いなんて思われたくない。

それがヴィヴィアンヌが覚えている最後の思考だ。

お読みくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 非常に非常にシリアスな場面なのに体重を気にしてるヴィヴィアンヌちゃんがかわいいです♪ いいんだよ、無事に帰れたらケーキ屋さんで「ここからここまで全部ください」しちゃっても( *´艸`) ダ…
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