表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2番目の恋物語  作者: violet
14/50

歩み寄るための一歩

ヴィヴィアンヌにとって、条件のいい適齢期の男性はすでに売約済みである。

トラファルガー公爵家の後継者となるべく、婚約者を捨ててヴィヴィアンヌの結婚相手に名乗りをあげるような人間も出て来るかもしれない。それほど、次期トラファルガー公爵の地位というのは魅力的なのである。


その点、ディアランは婚約者もなく、血筋も問題ない。

問題があるのは、ヴィヴィアンヌが嫁がねばならない相手ということだ。そうなるとトラファルガー公爵家の後継問題がでてくる。それと、元婚約者の兄と言う点も外聞が悪い。


だが、父であるトラファルガー公爵と王が決めたなら、様々な問題も考慮しての結婚だ。

それに、王太子はヴィヴィアンヌを好きなようだし、条件は最高である。

こっちから歩み寄るしかない、とヴィヴィアンヌは覚悟をする。


「殿下、お願いがあります」

ヴィヴィアンヌが胸の前で手を組むと、ディアランが身体を乗り出してくる。

「世界征服でも叶えてやる」

何でも叶える例えに出したのだろうが、完全に失敗である。世界が欲しい女の子なんて、ごくわずかだということにディアランは気がつかない。


「そんなものはいりません」

ツーンとヴィヴィアンヌが横を向くと、オーデンと目が合った。


ヴィヴィアンヌもこうなってみるとわかる。オーデンはディアランの指示で動いていたのだ。

オーデンがジェラルディンに対する態度と、ディアランに対する態度が違う。ジェラルディンには優秀な侍従であったが、ディアランにはもっと近い存在のように感じる。


オーデンは、ディアランがヴィヴィアンヌに手玉に取られているのに驚いていた。

ディアランが言葉の通り、世界征服が出来る人間なのを知っているからである。抵抗する国や人民がいたら、容赦なく壊滅させる人間であることも知っている。

オーデンとレベックは、ディアランに血の契りを結んでいる。未来永劫にディアランの(しもべ)である。だからこそ、ディアランの力をはかり知ることができる。

いつもジェラルディンの顔色を(うかが)っていたヴィヴィアンヌが、ディアランには表情をよく変える。これが本来の姿、トラファルガー公爵令嬢なのだと確信していた。


「あんなことを、使用人とはいえ他人が見ている前でするなんて、恥ずかしすぎます。

二人の事は殿下お一人で決めないでください。

嫌だというのを強要しないでください」

怖かった、というのは言わないヴィヴィアンヌである。それは奥の手としておいておくつもりである。


「わかった」

と答えながらもディアランは、ヴィヴィアンヌの言う二人の事、という範囲がはっきりしない。


ヴィヴィアンヌが手を延ばして、ディアランの服の袖を少しつかむと、ディアランがその手に手を重ねる。

「殿下のお仕事の邪魔をしたくはないのです。何かお手伝いできるようになりたいの。

それには、お互いに尊重できるようでありたいです」


「気持ちは嬉しいが、僕はヴィヴィアンヌには心穏やかに過ごして欲しい。

趣味をしたり、美味しいものを食べたりして、僕の側にいてくれるだけでいい」


殿下、それを軟禁といいます、とオーデンは声にせず心の中で言う。


「私はいろいろな勉強した自負があります。私の価値を証明させてください」

ね、とヴィヴィアンヌはキュッとディアランの袖を掴む指に力を入れると、ディアランが小さく息を吐いた。

「僕は、君の願い事は何でもききたい。でも心配なんだ」

ディアランの言葉が、ヴィヴィアンヌにはよくわかる。

つい最近まで、ヴィヴィアンヌもジェラルディンにこれ以上嫌われたくない、と不安だらけだったのだ。


「殿下、時々来ていいですか? 殿下の事をもっと知りたいし、私の事も知って欲しいです。

執務の邪魔にならないように、お昼の時間はどうでしょう? 休憩されますでしょう?

私がサンドウィッチを作って持って来ていいでしょうか?」

ヴィヴィアンヌが微笑めば、ディアランが陥落するのがオーデンにも見える。


ヴィヴィアンヌがジェラルディンの為に、料理を練習していたのをディアランは知っている。

今日はタルトを持って来た、キッシュを持って来た、と毎回報告をしたのはオーデン自身だ。その時のディアランの表情は、感情を押し殺した顔だった。

ジェラルディンがヴィヴィアンヌの料理を嫌そうに食べて、まずくない、と言ったと報告した時は、ディアランは手に持っていたペンをへし折った。


「それは楽しみだ。昼の時間を決めるから、毎日来てもいい。毎日ヴィヴィアンヌに会いたい」

ディアランは、ヴィヴィアンヌの手を取りキスしようとして・・・ヴィヴィアンヌに振り払われた。


ヴィヴィアンヌは立ちあがり、あっけに取られているディアランを見下ろした。

「それでは、また来ますわ」

あー、気持ちいい!


部屋から出て行こうとするヴィヴィアンヌを、オーデンが慌てて追いかけた。

王太子の私室のサロンから出ると、馬車寄せに向かう。

2年間、何度も通った王宮である。オーデンに案内されなくとも道は知っている。


読んでくださり、ありがとうございます。


ディアランは『待て』を覚えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ