婚約解消の男と新しい婚約の男
王の謁見室には、多くの人間が揃っていた。
王、王妃、第二王子、大臣達である。
ジェラルディンの視線を受けると、ヴィヴィアンヌにはディアランにエスコートされているのが悪い事のように感じる。
なにより違う男性の婚約者となった自分を見ても、平然としているジェラルディンに落胆している自分が嫌だ。まだ、諦めきれてないと痛感させられる。
そして、大臣達は第ニ王子の婚約者が王太子にエスコートされているのを、声には出さないが驚きで見ていた。
公爵夫妻が王の近くに立ち、正面にディアランとヴィヴィアンヌが立つと、王が椅子から立ち上がり、周りを見渡した。
「ここに、王太子ディアランが、トラファルガー公爵令嬢ヴィヴィアンヌと婚約した事を公布する」
王の言葉に大臣達は、ジェラルディンとディアランを見る。
「ヴィヴィアンヌ嬢の前の婚約は、正式に解消となっている」
そう言うディアランがヴィヴィアンヌの腰を引き寄せると、小さな悲鳴をヴィヴィアンヌがあげる。
顔を真っ赤にして、されるがままになっているヴィヴィアンヌに、ディアランが囁く。
「恥ずかしがって、可愛い」
確かに恥ずかしい、だがそれは、ディアランに引っ付かれたことだけではない。
腰を引きよせたディアランの手は、ヴィヴィアンヌのお肉をプリっとしたのだ。
腰についた贅肉をさとられたのである。
淑女としてあるまじき腰の贅肉。
コルセットで締め付けたドレスはもう古いファッションであるが、今はコルセットが欲しいと、切に願うヴィヴィアンヌだ。
トラファルガー公爵令嬢を抱き寄せ、耳元で囁く王太子の様子に、第二王子の態度とは違うと、王もトラファルガー公爵も安堵をするのだったが、王妃はそうではなかった。
ジェラルディンの婿入先として、トラファルガー公爵家が最高であるからだ。
二人の息子を別け隔てしてはいけない、と分かっているが王妃にはジェラルディンの方が可愛い。
ディアランは王になるのに、トラファルガー公爵家まで奪うのか。
他国から嫁いできた王妃には、王の言う始祖返りが理解できない。
生まれた我が子の黒髪、赤目を見た時の絶望。王に不貞を疑われるのではないか、と咄嗟に思った。
それが、これこそ王家の血筋と言われて安堵したが、初めて目を開けた時は、赤目に蛇のような縦の瞳孔だった。
自分で産んだのに恐ろしくって仕方なかった。
あの瞳孔はあれ以来見ないが、忘れることはない。
「陛下、僕はヴィヴィアンヌ嬢と庭に出てきます」
ディアランが王に挨拶をして、ヴィヴィアンヌの手を引く。
二人が出ていくのを、ジェラルディンは苛立ちを抑えて見送った。
ヴィヴィアンヌは、俺の方を見なかった。
ジェラルディンは自分がヴィヴィアンヌを見ていたのに、視線が返されなかったのが腹立たしい。
ヴィヴィアンヌが俺に助けを求めたら、兄を見返してやれたのに。
あんなに、俺を好きだと言ってたのに、僅かな期間で兄に乗り換えたのか。
様々な想いが倒錯して、思考がまとまらない。これも全部ヴィヴィアンヌのせいだ。
冷たい態度だけでなく、他に女性がいることを隠していなかった。
ジェラルディンも、自分に非があるのは分かっている。
それにしても、ヴィヴィアンヌは丸々していたな。俺と離れたら気が楽になって太ったということか。
王、王妃、第二王子が謁見室を出ていくのを見送って、大臣達はそれぞれの陣営に情報を流す。
トラファルガー公爵家が、王太子側についた。
そして、総領娘が王家に嫁ぐということは、トラファルガー公爵家の跡目争いが始まるのだ。
優秀な血縁を養子に迎えるなら、その配偶者の選定に各家の興味はつきない。
トラファルガー公爵家と縁続きになる、自家の娘を売り込むの為の情報収集が始まる。




