10回目の告白
失恋したての公爵令嬢ヴィヴィアンヌには、新しい恋が必要。政略で王太子の婚約者になったと思っているのはヴィヴィアンヌだけ。新しい婚約者の王太子は執拗にヴィヴィアンヌをかまうが、婚約解消した元婚約者の様子も変。私を嫌いだから冷たかったのですよね?違うっていっても、周りもそう思う程、冷たかったですよ。執着が恐いんですが・・
いつまでも、前の恋にしがみついるなんて思わないで!
恋から冷めたヴィヴィアンヌが恋を見つめ直す、お話です。
「殿下、お慕い申し上げています」
ヴィヴィアンヌ・トラファルガー公爵令嬢は、婚約者の第2王子に想いを告げた。
手作りクッキーを用意して、二人でお茶をするというシチュエーションを設定しての最高の演出だ。
「ああ、ありがとう」
さも当然とばかりに、ジェラルディン王子はソファに座りクッキーをつまみ、ヴィヴィアンヌを見もしない。
「ヴィヴィ、俺がアーモンドの菓子の方が好きなのはわかっているだろうに」
口に入れるが、美味しいという言葉はでない。
向かいに座るヴィヴィアンヌの表情がどうなっているか、なんてジェラルディンは気にすることもなく、注文を付ける。
「こういうのを用意する時は、甘さに気を付けてくれ」
「わかりました」
なんとか声を振り絞り、ヴィヴィアンヌは席を立つ。
「今日は、これで失礼します」
それでも引き留めてくれるのでは、と期待するも、ジェラルディンはソファに身を預けて横にある本を手に取っている。名残惜しいのはヴィヴィアンヌだけなのだ。
王子の私室を出て、扉を閉めるとヴィヴィアンヌの頬に涙が伝う。衛兵に気づかれまいと、少し顔を伏せてヴィヴィアンヌは王子の部屋から遠ざかった。
2年前、ヴィヴィアンヌはデビュタントの夜会でジェラルディン王子に一目惚れした。父公爵に言うと、ヴィヴィアンヌが第2王子の婚約者となった。
トラファルガー公爵家は王国の重鎮、第2王子の希望を無視した形の婚約であったために、最初から第2王子の好感は低かった。
夜会で、ヴィヴィアンヌは飛び抜けて美しかった。公爵令嬢ということもあり、第1王子の王太子も第2王子のジェラルディンもヴィヴィアンヌを気に入っていた。
ヴィヴィアンヌが兄の王太子ではなく、自分を選んだことはジェラルディンにとって、兄に勝った気になり優越感があった。
だがジェラルディンとしては自分が選ぶ側であって、公爵の権威で婚約者を押し付けられた形はプライドが許せなかった。
それで素直に慣れず、ヴィヴィアンヌに冷たい態度を取ってしまうのだ。
ヴィヴィアンヌは公爵家の総領娘という地位にあるうえに、聡明で明るく美しかった。それが、入り婿に入るジェラルディンには腹立たしくもあった。
だから、自分より目立つことのないように事細かに注意するようになり、ヴィヴィアンヌはジェラルディンに従うという構図が出来上がった。
それにともない、ヴィヴィアンヌからは表情が消えていき、顔色も悪くなっていった。
ジェラルディンはヴィヴィアンヌの忍耐を試すかのように、幾人かの令嬢を侍らすようになった。
兄の王太子からも注意されているし、父の王からは婚約解消の話さえされたことがある。
ジェラルディンはヴィヴィアンヌが嫌いではないが、好きを言葉にするのは負けたような気がするのだ。
自分が好むと言えば、ヴィヴィアンヌが髪型や服もそれに合わしているのも分かっている。
嬉しい反面、負担に思う。
今更ヴィヴィアンヌにかまうのも恥ずかしいし、ヴィヴィアンヌは自分の事が好きなのだから、このままの方が有利である、と思っている。
公爵邸に戻ると、部屋に閉じこもり、ヴィヴィアンヌは泣いた。
告白は、今日で10回目。
10回告白しても、受け入れてもらえなかったら、諦めようと決めていたのだ。
好きな婚約者に相手にされないことは、とても辛い。
そのうち、きっと好きになってもらえる。そう信じて、ジェラルディンの好みや行動を把握して来たけど、疲れてしまったのだ。
最近では、本当に好きなのかさえ分からない。
自分の事を嫌っているような態度の王子に、好きでいられる女の子は少ない。ヴィヴィアンヌも普通の女の子である。
それに、ジェラルディン王子が他の令嬢と一緒にいる噂も耳に入る。
婚約者という柵から、解放してあげた方がいいと思うようになった。
「1、2、3、4・・・・」
ベッドに仰向けになり、100まで数えてヴィヴィアンヌは起き上がった。
決めていたではないか、10回で諦めようって。
自分で自分に言い聞かす。
ジェラルディン殿下以外にも、ステキな男性はいっぱいいる。
今度は、私を好きになってくれる人を探そう。
2年間の片思いは、ヴィヴィアンヌに楽しい出来事は少なかった。
社交界では第2王子に嫌われている婚約者と言われ、地位の高さもあって令嬢達からは煙たがれた。
王子に近づく令嬢に嫌がらせをしたこともある。
自分の茶会に呼び出して恥をかかせたり、その令嬢の家に圧力をかけたこともあった。
それが、余計にヴィヴィアンヌの評判を落としていることも分かっていた。
分かっていても、王子の心が他の令嬢に向かう事は許せなかった。
明るかった娘が暗くなっていくのを、公爵夫妻はこの婚約は間違いだったと、娘であるヴィヴィアンヌに婚約解消を勧めもした。
『お父様、お母様、もう少しだけ待ってください。それでも殿下が私を受け入れて下さらなければ、諦めますから』
トラファルガー公爵家を任すにあたって、王子の態度は乗っ取られるのと同じだとヴィヴィアンヌも分かっている。
もう、今までの私にサヨナラするのよ!
「サリー」
ヴィヴィアンヌは、侍女のサリーを呼ぶとドレスの着替えの指示をする。
ベッドで泣いていたせいで、ドレスも化粧もぐちゃぐちゃである。
「パーカスに、お父様のお帰りを聞いて来てくれる?」
家令のパーカスは父親の帰宅時間を知っているだろう。
読んでくださり、ありがとうございます!
前作から、ずいぶんご無沙汰してしまいました。なんだか忙しくって、こんなに間が空いてしまいました。
これから、頑張りますので読んでくださると嬉しいです。
violet