第二話 幼馴染
城に凱旋した私たちを待ち受けていたのは、民衆や兵たちからの賞賛と尊敬の眼差し、そして父母からの説教。
あーあ。マジめんどくせぇ。
「聞いているのですか!? ラミリア!」
「……ええ。聞いてますよ」
「あなたは洗礼の儀式で聖女と認定されたんですよ!? 人々を守り癒す役割を得たんです! それなのにまた戦場へ出るなんて……!」
いや、知らねえし。だってマジ興味ないんだもん。
私は十六歳の成人を迎えるにあたり、教会で洗礼を受けた。儀式では洗礼の水晶に手を触れ、そこに称号だかスキルだかが表示される。
んで、その結果が聖女だったわけだ。
ちなみに、称号やらスキルは誰でも得られるもんではないらしい。現に幼馴染のヴァンは何も得なかった。
あ、ちなみに私とヴァンはいわゆる転生者だ。
しかも、転生前の世界でも幼馴染だった。なんつー奇跡だよマジありえねー。
転生前の私は古流剣術を教える道場の一人娘。ちょっぴりやんちゃなJKだった。
いや、ほんとちょっぴりな。絡んできたヤンキーを木刀で半殺しにしたり、暴走族を一人で潰したりしたくらいだ。
こっちの世界で子どものころから剣が強かったのは、単純に転生前の経験だ。そりゃガキのころからあんな稽古させられてりゃ誰でも強くなるっつーの。
「……まったく! ヴァン、あなたという者がついていながら……」
お。どうやら矛先が変わったようだ。ヴァンには悪いがラッキー。
ラミリアは少し俯くと広角をにんまりと吊り上げる。
「まあまあ、マリーよ。ヴァンを詰めても仕方あるまい。ラミリアの決定をヴァンが覆せるわけないではないか」
国王であり父親、イングリド八世が王妃マリーを嗜める。
いや、私が詰められてるとき助け舟出してくれなかったよね? どゆこと?
「いえ、陛下。すべては我が不徳のいたすところ。責めるのであればラミリア様ではなく私を責めてください」
片膝をつき、キリッとした表情を見せるヴァン。
もちろんそんなこと一ミリも思っていない。口から出まかせである。
ラミリアもそれを理解しているため、横目でじろりとヴァンを睨みつけた。
こいつは昔から要領がいい。転生前も転生後もだ。
そして、父と母はそんなヴァンを心から信頼している。まあ、そのおかげで私が自由にできているところもあるのだが。
「ああー、今日の説教は一段と長かったわ〜」
「ラミの自業自得だけどね」
父母からの説教を終えたラミリアは、ヴァンを伴い練兵場へ足を運んだ。
「うるせーよ。さあ、やるぞ」
ラミリアが木刀を構える。
「……手加減してよね」
ヴァンは転生前の世界で、彼女の父が師範を務める古流剣術の道場に通っていた。幼いころから稽古を積んできたため、ある程度ならラミリアの相手もできる。
あくまである程度だが。
片手に木刀を持ち、だらりと両腕を下げて構えるラミリア。隙だらけに見えてまったく隙がない。
一方、ヴァンは木刀を下段に構え、腰を落とした低い体勢でじりじりとラミリアとの距離を縮める。
半歩でも彼女の間合いに入れば、即座に雷のような斬撃が飛んでくるため迂闊に動けない。
が、均衡は意外な形で破られた。
ラミリアのほうからヴァンに歩み寄ってきたのだ。
剣術の基礎を無視するかのように、スタスタと普通に近づいてくるラミリア。その顔にはニヤニヤとした意地悪い笑みが浮かんでいる。
「……くっ! ほんっと性格悪っ!」
ラミリアは何の躊躇もなくヴァンの間合いに足を踏み入れた。
刹那、ヴァンは低い姿勢から鋭い突きを放つ。首元を狙ったが、ラミリアは予測していたかのように上体を後ろへ逸らして回避した。
が、ヴァンの攻撃はこれで終わりではない。最初の突きがかわされることは折り込み済みである。
ヴァンは軽く木刀を引くと、瞬時に半歩踏み込み同じ部位へ突きを放った。ラミリアの上体は反ったままである。
高速の二段突き。
二人の立ち合いを見守っていた兵士たちも、ヴァンの木刀がラミリアを捉えたと疑わなかった。
が、ラミリアはさらにその上をいく。喉への追撃が来ると察知したラミリアは、上体を反らした状態から後ろへ宙返りし、同時に足でヴァンの木刀を蹴り上げた。
宙に舞った木刀が練兵場の地面にカランと転がる。
気づけば、ヴァンの首元に木刀が突きつけられていた。ヴァンの完敗である。
「あーあ。やっぱり勝てないかー。いや、勝てるわけないんだけどさ」
大きくため息をついて項垂れるヴァン。実は転生前の世界でもヴァンはラミリアに一度も勝ったことがないのだ。
「でも、今回はまあまあよかったじゃん。まああたいに勝つにゃ百万年はえーけどな」
ニヒヒといやらしく笑ったラミリアは、ヴァンの背中をバシバシ叩いた。
「……痛いんだけど」
「男が女の子に叩かれて情けねぇこと言うなよ」
「女の子……ねぇ」
再度大きなため息をつく。
ラミリアはどこからどう見ても美少女の部類に入る。それは間違いない。大きな胸にくびれた腰とスタイルも抜群だ。
だが、ラミリアには致命的なマイナスポイントがある。
言葉遣いが乱暴すぎるうえにガサツなところだ。あと、キレたら何をするか分からない。口さえ開かず大人しくしていれば、誰もが結婚したいと口にするだろう。
まあ、なかにはそんなこと気にせず彼女を手に入れたいと考える者もいるのだが……。
と、そのようなことを考えていると、一人の兵士が慌てた様子で駆けてきてこう告げた。
「姫様! 勇者様の御一行がお見えになっています!」
出た。何が何でもラミリアを手に入れたい男の代表格だ。
「ちっ。また来やがったのか。うざってぇな」
ラミリアはこれみよがしに舌打ちすると、手にしていた木刀を地面に放り投げる。
「ほんと飽きもせずに何度も何度も……。しつこいったらねぇや」
「でもまあ追い返すわけにもいかないでしょ。仮にも勇者なんだしさ」
ラミリアは忌々しげな表情を隠しもせず、兵士に「ここへ通せ」と命じた。
部屋でも謁見の間でもなく、練兵場に呼びつけられた時点で勇者パーティが無事に帰れる保証はなくなった。
ラミリアがやりすぎませんよーに。
ヴァンは静かに心のなかで合掌した。
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「森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜」連載中!
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