なにか様子が違うかも
「ナオ、と呼んでも?」
「もちろんです」
「では、ナオ。そちらにかけてくれ」
さきほど握手したおなじ手が、長椅子を示した。
「兄上、ぼくはこれで」
カストが言った。
兄上?兄上って?
兄上よね?えっ、まさか兄弟?カストって竜帝の弟なの?
「おいおい、カスト。おまえは、いつも愛想がないな」
「皇宮が好きではないですからね。それに……」
「なんだ、なぜ途中でやめる?」
「いえ、別に」
そんな二人の会話をききながら、ようやく美貌の青年がだれなのかがわかった。
「りゅ、竜帝?」
驚きすぎて、思わず叫んでしまった。
二人が同時にこちらを見た。
「ああ。わからなかったかな?」
「兄上、当り前です。素顔で鎧やマントもありません。竜帝の仮面の下は、見るに堪えない醜い顔というもっぱらの評判ですからね」
「ちょっと待て。おれの素顔は、そこまでひどいことになっているのか?」
「あなたがわざと流す噂に、勝手に尾ひれがついてしまうのです。もうすぐしたら、目が三つに鼻が四つに口が二つあって、尻尾が生えている。なーんてことになりますよ。カッコをつけて仮面などつけるものじゃないですね。しかも銀仮面だなんて……。古典小説を読みすぎなのではありませんか?」
「おまえ、ふだんからそんなことを思っているのか?」
「おや?他人の心をのぞくことの出来るあなたが見抜けなかったと?」
「おまえの心をのぞくほど、おれは嫌な兄じゃないつもりだがな。というよりか、おまえの心はおれの力でものぞけん」
ニヤニヤ笑いのカストに、必死の表情の竜帝。いえ、フランコの言い合いを見ていると笑いが込み上げてきた。
口に手を当てたけど、笑いを止めることは出来ない。
クスクスと笑いはじめると、今度はそれを止めることが出来ない。
「ほらみろ、カスト。彼女に笑われているぞ」
「それは兄上が、です」
笑いは伝染してしまう。二人も笑いはじめた。
三人でしばらくの間笑い続けた。
「アロイージ王国の王宮ではすまなかった」
フランコは、みずから淹れた紅茶を一口すすった。
結局、カストは残ることになった。
正直、ホッとした。
初対面のときよりかはマシになったけど、それでもフランコのことが正直怖い。
カストがいてくれれば、間がもつかもしれない。
「いいえ。謝罪するのは、わたしの方です。王宮では、国王が非礼きわまりないことを……。アロイージ王国の王族と廷臣たちになりかわりまして、心より謝罪いたします」
遠い東の方の大陸には、土下座という謝罪の仕方があるらしい。お詫びの方法の最高峰ってところかしら。
アデルモのしたことは、その土下座でも足りないくらいの非礼だわ。
ただただ謝罪するしかない。
あのとき、本来なら王都外で待機していたバリオーニ帝国軍が王都に攻め入ってもおかしくなかった。
だけど、フランコはそうはしなかった。
これは、アロイージ王族にとっても王国にとっても幸運以外のなにものでもない。
「ナオ、きみが謝罪する必要はない。さあ、飲んで。冷めてしまっているがね」
紅茶を勧められるままに一口飲んでみた。
ジャスミン……。
気分が落ち着く。
「彼は、きみに寝首を掻かせるつもりだと思ったんだ。聖女と言えば、おれが油断するだろう。そこで、きみが……」
ローテーブルをはさんだ向かい側で、フランコは手刀で自分の首を斬る仕草をした。
「まさか、わたしが?わたしが陛下の首を?」
小さな虫を殺すのもためらうわたしが、フランコの寝首をかくですって?
まったく想像がつかないわ。
わがことながら驚いてしまう。




