ついに竜帝に会う
「彼らは、いつもケンカばかりしています。なのに、なぜか組んで任務にあたるのです」
「ケンカするほど仲がいいって言いますよね」
「ええ、おっしゃる通りです」
カストと二人、顔を見合わせてさらに笑ってしまった。
そのとき、大きな扉が軋み音ともにすこしだけ開いた。
「いつになったら入ってくるんだ、カスト?」
すこしだけ開いた扉の向こうから、聞き覚えのある声がきこえてきた。
「あっ、しまった。公爵令嬢。さあ、どうぞ」
カストが大扉を開けてくれたので、二人の衛兵に会釈してから慌てて中に入った。
すると、そこは控えの間だった。
まぁ、当然でしょうけど。
カストが奥の扉を開けてくれた。
一気に緊張感が増す。
竜帝とは、アロイージ王国の宮殿で「不要だ」とはっきり言われて以来はじめて会うのである。
緊張せずにはいられない。
手も足も体もかすかに震えている。
それでも、入らなければならない。
勇気を振り絞り、一歩また一歩と進む。
そして、冷酷無慈悲と名高い竜帝の部屋に足を踏み入れた。
大国の主の部屋に入るなんて、はじめてのことである。
どんな豪勢で煌びやかな部屋かと思っていたけれど、意外とシンプルなので驚いてしまった。
視覚出来る範囲内に、華美なものや豪華なものはいっさいない。
ローテーブルと長椅子のセットがあって、執務机があって、天蓋付きの寝台がある。その寝台も、年代物というくらいで、特に豪華な作りではない。
奥はテラスになっているのか、一面ガラス扉である。ただ、いまはカーテンで閉ざされているけれども。
朝に目覚めてカーテンを開けたら、室内が朝の光に溢れるって素敵じゃないかしら?
残念ながら、方向音痴なので太陽がどちらから上がるのかがわからない。だから、実際にはこの部屋が朝の光に溢れるのかどうかはわからない。
それはともかく、一番目をひいたのは壁一面の本棚である。
棚が何段あるのかしら?とにかく、本、本、本、って感じで本がいっぱい並んでいる。
素敵だわ。
無意識の内に、本棚の前まで行ってじっくり見ていた。
「本が好きなのか?」
「はい、大好きです」
尋ねられて反射的に答えてから、ハッとした。
振り向くと、腰を抜かしそうなほど美しい青年がすぐ近くに立っている。
金髪碧眼。顔の造形は、神の最高傑作といっていいほど整っている。
わたしを捨てた、というよりかは竜帝への捧げ物にしたアデルモも美しかったけれど、いま目の前にいる青年はそんな美しさなど凌駕している。
室内の淡い灯火の中、彼の存在は神々しすぎる。
ボタンを一つ開けた白いシャツに黒いスラックス姿も、彼には似合いすぎている。
「それはよかった」
彼は、やわらかい笑みを浮かべた。
「執務室にもたくさんあるし、宮殿の図書にも何万冊ある。どこにあるものでも好きなときに好きなだけ読むといい」
彼がなんのことを言っているのかわからなかったけれど、すぐに本のことだと思いいたった。
「ありがとうございます」
すごいわ。宮殿内に図書室まであるのね。
感心してしまったけれど、いまはそこじゃないわよね?
「バトーニ公爵令嬢、フランコ・ベニーニだ」
彼が手を差し出してきた。
「ナオ・バトーニです」
一瞬、ためらった。だけど、すぐにその手を握った。
大きくて分厚い手だと思った。
なにより、あたたかい。
彼の手に軽く力が加わり、すぐにはなれた。