バリオーニ帝国へ
「公爵令嬢、すごく腹が立ちました」
カストは、可愛い顔をパッと上げた。
手綱をギュッと握りしめている。
「玉座に駆け寄り、傲慢きわまりないクソッたれ、失礼しました。とにかく、国王をぶん殴ってやりたかったです」
可愛い顔は、先程とおなじように真っ赤になっている。
だけど、今度のそれは怒りによるもの。
「ぼくだけでなく、部下たちもおなじ気持ちです」
彼は、また気恥ずかし気にうつむいた。
「申し訳ありません。これだけは伝えておきたくて……」
そして、彼はもう何もしゃべらなかった。
涙が出てきた。
他国の人で事情を何も知らず、当然わたしのことも何も知らない。何も知らないはずのに、わたしの為に怒ってくれている。
いわれのない理不尽な出来事に、怒りをあらわにしてくれている。
それがうれしかった。
「ありがとうございます」
それだけしか言えなかった。
本隊と合流することが出来た。
カストから、バリオーニ帝国へ向けて出発する前にちゃんとした馬車を準備すると言われた。荷馬車ではなく、豪華な馬車を。
だけど、丁重に断った。
ただ、馬車をひっぱる馬は、わたしの相棒のルーポから荷馬車用の馬にかえてもらった。
ルーポは荷馬車にくくりつけ、わたしのすぐ側にいてもらうことにする。
カストは、こんなわたしのわがままを笑顔のまますべてかなえ、手配をしてくれた。
そして、バリオーニ帝国へ向けて出発をした。
アロイージ王国の領土は大きくはない。だから、アロイージ王国から出るのにさほど時間はかからない。国境を越えてバリオーニ帝国の領土に入るまでは、行軍を急いでもらうようカストにお願いをしてもらった。
そんなわたしの不確かで謎めいたお願いも、カストは快く伝えてくれた。
それが竜帝に伝わり、実行に移されたかどうかはわからない。
だけど、この規模の軍のわりにはかなりはやい行軍である。休むことなく夜通し行軍し、翌朝には国境を越えていた。
わたしの願いは、かなったのではないかなと思っている。
もっとも、眼前に自分の国があれば、ちょっとでもはやく領土に入りたいと思うのはだれしも同じこと。だから、わたしのお願いによるものかどうかはわからない。
バリオーニ帝国の領土は、アロイージ王国のそれの三倍?いえ、四倍はあると記憶している。
資源は豊富で土壌は肥沃、人口はアロイージ王国より少し多いくらい。つまり、バリオーニ帝国はずっとずっと豊かというわけ。
通過するほとんどが森や山だけれども、人間のいる町や村は、どこもきれいで活気がある。
行軍する兵士たちに手を振る人々。兵士たちもそれに手を振って応えている。
バリオーニ帝国に入ってから三日かかり、やっと帝都に到着をした。
三日間、カストをはじめ兵士たちはみんなやさしく親切にしてくれた。
一人用のテントを設営してくれたので、初めての野営だったけれど問題も不安もなくすごすことが出来た。
帝都に到着し、別れ際に彼らに心からお礼を伝えた。
みんな、笑って再会を約束してくれた。
カストだけは、その後もいろいろ手助けをしてくれた。
まず、皇宮に連れて行ってくれた。それから、皇宮の執事と連携し、ひと足先に荷物を運ぶようにしてくれた。
相棒のルーポを厩舎に預ける為、宮殿の近くにある厩舎へも案内してくれた。