【最終話】「役立たず聖女」はしあわせをつかむ
アロイージ王国の王都を攻めることになった。
とはいえ、アロイージ王国の軍務大臣は戦うつもりはないらしい。
正確には、王族をどうにかする為に、フランコとカストが訪れるのである。
婚儀は、フランコとカストがアロイージ王国から帰国してから行うことになった。
フランコとわたし。それから、カストとエルマ。
カストとエルマは、「結婚しちゃった」ではなく「結婚しちゃう?」ってことになったらしい。
とはいえ、四人ともたいそうな式は望まない。
だから、皇宮付きの司祭に祝福してもらった後、大広間でパーティーを行うことになった。
ボルディーガ侯爵夫妻にバルナバ、それから侯爵家の使用人たち、皇宮で働いている人たち。内輪だけで食べたり飲んだりする。
一国の主としては型破りな式だけど、すっごく楽しみにしている。
アロイージ王国に出発する前、フランコと書斎で会った。
見送りはするけれど、二人っきりになりたかったからである。
「行ってくるよ」
「フランコ様、処分はご随意に。わたしのことはお気になさらないでください。ですが、私情は……」
「ナオ、わかっている。だが、きみに傷を負わせたのは事実。これは、きみにかぎらない。他人を傷つければ、それなりの罰が科せられる。だが、やはりダメかな。きみの腕や足の傷が脳裏を横切れば、きっと剣を抜いてしまうよ」
彼には、侯爵夫人がそれとなく話をしてくれた。
どうせいつかわかること。彼を驚かせないように、わたし自身では言いにくいことを告げてくれたのである。
彼は怒り狂ったらしい。それこそ、すぐにでもアロイージ王国に飛んで行きそうな勢いで。
侯爵夫人は、それも宥めてくれた。
「ナオ、結婚してくれてありがとう」
「結婚はまだですよ。この間に何かあるかも」
「おいおい、やめてくれよ。まさか浮気とかないだろうね」
「わたしは大丈夫です。ですが、フランコ様は?」
「おれも大丈夫」
彼は、わたしを抱き寄せた。
「それに、たったの十日間だ。いや、それほどもかからせない。急いで戻ってくる」
わたしの耳にささやく。
「エルマと待っています」
「ああ」
わたしを見下ろす彼を見上げるわたし。
彼の美しい顔が近づいてくる。
ここは、瞼を閉じるところね。
だから、瞼を閉じて……。
彼の唇がわたしのそれに触れるだろうか、とドキドキしながら待っている。
「うわっ、押すなよ」
「キャッ!」
その瞬間、叫び声とドサッという音がしたものだから、飛び上がってしまった。
フランコとともにそちらを見ると、書斎の扉が開いていてエルマとカストが重なるようにして倒れている。
「もうっ! せっかくの見せ場だったのに。あなたがしっかり支えないからよ」
「きみが押したり乗ったりしてくるからだろう?まったく、重いったら」
「なんですって、カストッ!」
どうやら、二人でのぞき見をしようとしていたみたい。
「まったくもう。仕方がない。続きは帰国してからだな」
「え?なんとおっしゃいました?」
フランコがつぶやいたけど、エルマとカストの言い合いできこえなかった。
「いや、なんでもない。では、行ってくる」
口づけは、お預けね。
わたしったら、一応元聖女なのにはしたないわね。
でも、いいわよね。これくらい望んでも。
「役立たず聖女」なんだし。
(了)




