お姉様にざまぁを
「まさか、竜帝?あの仮面の下は、こんないい顔だったの?これだったら、わたしがバリオーニ帝国に来ればよかった。こっちの国の方が裕福じゃない。それに、皇宮だって立派だわ。ケチで猜疑心が強くってバカなアデルモより、竜帝の方がずっとマシかもしれないし」
わが姉ながら恥ずかしすぎる。
「親衛隊っ、こいつらを放りだせ」
「はっ」
皇帝付きの親衛隊の隊員のウベルトとトーニオが駆けて来た。
「すこしは参っているかと皇宮に入れてやったが、愚か者はやはり愚か者にすぎん。アロイージ王国がどうなろうと、おれやナオの知ったことではない」
「なによっ!あなたもケチなわけ?ナオを連れて帰るついでに、金貨とか物資とかくれたっていいじゃない」
お姉様の金切り声が、静かな庭園に響き渡る。
彼女のうしろにいるアロイージ王国の外交官たちは、気の毒なほど慌てふためいている。
彼らは、お姉様を黙らそうとしているけれどうまくいくはずもない。
「ナオッ。あなた、捧げものでしょう?それならそれで、ちゃんとそれなりの仕事をしなさいよ」
金切り声が耳に痛いわ。というよりか、捧げものの仕事っていったい何?
心の中でツッコまずにはいられない。
「ナオは捧げものなどではない。おれが彼女を連れて帰ったのは、彼女を妻にする為だ。心配するな。アロイージ王国はもうすぐ滅びる。いや、失敬。国が滅びるのではない。貴様ら王族が滅びる。各地で起こっている災害に対しては、すでにわが帝国が援助をしている。その分では、王都も危なさそうだな。王都にも援助を開始しよう。国民は、わが帝国に感謝している。そして、何もしない貴様ら王族を恨みに思っている。貴様らの国民が、貴様らを滅ぼすだろう。それに、個人的にも許すつもりはない。愛するナオを、肉体的にも精神的にも痛めつけてくれた。あー、国王は誰だったかな?」
「フランコ様、アデルモ・ブラマーニです」
控えめに伝える。
「そう、アデルモだ。アデルモとバトーニ公爵家は、おれみずから首を刎ねてやる。戻ってそう伝えろ。親衛隊、話は終わりだ。つまみ出せ」
「ちょっちょ、ちょっと待ってください」
「竜帝、聖女様、お待ちください」
お姉様を突き飛ばし、外交官たちがわたしに迫ってきた。
「悪いが、話を聞く気はいっさいない」
フランコは冷笑を浮かべつつ、わたしの肩に腕をまわした。
人がいる前ではそういうことをしない彼も、いまは演出している。
「お姉様、わたしは戻りません。「役立たず聖女」だと言われ続け、あなたたち家族にもアデルモにも捨てられ、捧げものにされたのです。ですが、そんなわたしを拾ってくださったのが竜帝です。そのお蔭で、わたしには愛することの出来る人たちが出来ました。わたしには、わたしを愛してくれる人たちがいます。いま、わたしはとてもしあわせです。そして、これからもしあわせであり続けます。聖女の力などかけらもないあなたに、アロイージ王国を守ることなど出来ない。それどころか、あなた自身を守ることすら出来ない。国に戻って、フランコ様に首を刎ねられるのを待っているといいわ」
これまでの想いの丈を、お姉様に叩きつけてやった。
お姉様はわたしを非難しつつ、外交官たちは慈悲を乞いつつ、親衛隊に連れて行かれてしまった。
これでよかったのよ。
アロイージ王国を救う為には、宿痾を取り除かなけれなばならない。
ちょうどいい機会だったのよ。
そう何度も自分に言いきかせる。
フランコは、お姉様や外交官たちの叫び声がきこえなくなってもずっとわたしの肩を抱き続けてくれた。




