右竜将軍は可愛い系
荷物は、トランクが三つだけである。すでに荷馬車に積んでいる。
荷馬車をひっぱるのは、わたしの親友のルーポ。黒馬で、本来は乗馬用の馬である。だけど、どうしても連れて行きたいので荷馬車を準備してもらってルーポにひいてもらうことにした。
すぐに出発である。
そもそも、竜帝たちは、馬を厩舎に預けてさえいなかった。
正殿の前に居並んでいる。
正殿前の長い階段を降りつつ、左右の兵士に視線を送った。
それから、わずかにうしろを見てみた。
だれも追いかけてこない。
当然、見送りもない。
家族ですら……。
あらためて、捨てられたんだなと実感する。
それから、左右の兵士にお願いをした。
「荷馬車に荷物を積んでいるから、荷馬車をひいてきたい」、と。
ちょうど階段を降りきったところである。
二人とも足を止め、同時にうなずいた。
「お待ちを」
一人が言い、すぐに先頭を行く竜帝に伝えに行ってくれた。
そして、すぐに戻ってきた。
「バトーニ公爵令嬢、荷馬車はどちらに?ぼくが同道いたします。本隊とは、王都外で合流いたしますので」
彼が合図を送ると、もう一人の兵士は小走りに竜帝たちを追いかけていった。
お言葉に甘え、その兵士に付き合ってもらった。
厩舎に行き、顔見知りの厩務員にルーポの様子を見てもらった礼を言った。
それから、荷馬車に乗り込んだ。
兵士が馭してくれるという。
彼の隣に座り、王宮から出る近道を案内した。
王宮から街へ。そして、王都の外へ出た。
「あの……」
馬車に揺られながら、隣で手綱を握っている兵士が言いかけた。
「カスト・ベニーニです。一応、右竜将軍です」
彼は、そう言ってペコリと頭を下げた。
いままで、緊張や不安で彼の兜の下にある顔をよく見なかった。眩しい陽光に目を細めつつよく見てみた。
か、可愛い……。
こんな、って失礼よね。可愛いし、小柄でまだ若いのに右竜将軍?それがどれほど凄い地位かはピンとこないけれど、まず将軍というところで「おおっ」ってなっていいわよね?右、ということは左も存在するわけで、たいていは左右で竜帝の右腕と左腕をあらわす称号よね?
だったら、この可愛いお坊ちゃんってすごいんじゃない?
もっとも、皇族とか上位貴族だったら、あたえられて当然の地位かもしれないけれど。
「ナオ・バトーニです」
すこしだけ緊張がほぐれたような気がする。
ニッコリ笑ってみた。だけど、ひきつった笑みになってしまった。
カストと目が合った。
すると、彼は真っ赤になって慌ててそれを伏せてしまった。
か、可愛すぎるわ。
実際の年齢は、わたしとおなじくらいか上のはず。だけど、小柄で童顔だから、年少に見えなくもない。
というよりか、こんなに可愛い顔の男性って見たことがないわ。
それが顔を真っ赤にして恥ずかしがるなんて、ずるくないかしら?
いやだわ、わたしったら。
まるでおばさんよね。まだそんな年齢じゃないはずなのに。しかも、家族や仕えていた主やその他もろもろから捨てられたばかりなのに、そんな呑気なことを言っている場合じゃないのに。
そうよね。呑気なことを言っている場合じゃないわ。
王都だけでなく、このアロイージ王国そのものが貧困に喘いでいる。
わたしが守ることが出来るのは、天災や悪意ある脅威に対してである。だから、人間のあらゆる欲からこの国やこの国の民を守ることは出来ない。
たとえわたしが守護を続けようと、この国は遠からず滅びてしまう。
欲深き特権階級によって……。
ついさきほど通過してきた王都も、人々だけでなく王都じたいが力を失っていた。
気力や活力、生命力、すべてが失われている。
それを、わたしはこの目に焼き付けた。
そのすべてを忘れない為に。