勘違いしているわ
なかなか眠りにつけなかったけど、いつの間にか眠ってしまっていた。
早朝、小鳥の囀りがきこえはじめたころ、フィオレが寝室の扉をノックした。
いつもより大分と早いので、何かあったのかとドキッとした。
「ボルディーガ侯爵令嬢がおみえです」
エルマがこんなに朝早く?
とはいえ、早朝に馬に乗って駆けることもあるのでありえないことではない。
それでも、今朝は早すぎる。
とりあえず最低限の身繕いする間待ってもらい、彼女に会った。
「ナオ―ッ」
彼女は、寝室に入って来るなりわたしに抱きついてきた。
「昨夜はカッコよかったわよね。まさか、陛下が公であんな暴挙、ってこれはいい表現じゃないわね。大胆なこと、かしら?とにかく、あなたにプロ―ポーズまがいのことをするなんて。神様もビックリだったわよね」
「はい?プロポーズ?」
わたしったらまだ寝惚けている?
彼女の言った意味が理解出来ない。
「そうよ。レディに対して不愛想で不機嫌で無遠慮な彼がよ。ほんと、素敵だったわ」
ああ、フランコの体裁上の言動のことね。
エルマの言っていることが、やっと理解出来た。
「ああ。あれは、わたしに気を遣って。それと、体裁を整える為……」
「ナオ。あなた、まさか気がついていなかったの?」
彼女はわたしをいったん解放し、ジッと見つめてきた。
「あなた、勘違いしているわ。なんてことなのかしら。陛下、あなたにゾッコンよ」
「はい?そんなわけはないわよ」
「あるのよ。彼、あなたと食事をしたり本を読んだりしたわよね?」
「ええ」
「それよ、それ。あぁイヤだわ、ナオ。あなた、彼をすっかり虜にしちゃって。陛下、ちゃんと話をしていた?あなたの目を見て話をしたり、あなたの話をきいてくれた?」
「ええ」
「よかったわ。あなたにすっかりゾッコンだからこそ、彼もがんばっているのね」
「ちょちょちょっと、意味がわからないわ」
「あらやだ。約束の時間だわ」
エルマは当惑しまくっているわたしを置いてけぼりにし、扉の方に駆けて行った。
「いまからカストと朝の乗馬なの」
彼女は扉を開けて出ようとしたタイミングで、顔だけこちらに向けてウインクをした。
そして、出て行ってしまった。
いまのはいったいなんだったの?
というよりかは、フランコのあれってほんとうだったというの?
寝台に戻ると、そこに腰をおろした。
どれだけかんがえても納得が出来ない。
エルマがわたしを揶揄うわけはない。それはわかっている。
だけど、彼女が勘違いしているということはかんがえられる。
だから、鵜呑みにしちゃダメ。
彼女の言葉をそのまま鵜呑みにしたら、きっとガッカリすることになる。
期待しない。夢をみない。信じない。
いままでそうしてきた。
いまもそうよ。
立ち上がるとガラス扉に近づき、それを開けた。バルコニーへ出、石製の手すりに両肘をついて広々とした森を眺めた。
ゆっくりと明るくなっていく中、ようやく小鳥たちが起きだしてきた。
どのくらいボーッとしていたのかしら。フィオレがまた扉をノックした。
「皇帝陛下がいらっしゃっています」
なんてこと……。
当然、断れるわけがない。
途端に心臓がドキドキバクバクしはじめた。
フランコはすぐに入って来て、せかせかとバルコニーまでやって来た。
エルマから何も話をきいていなかったら、こんなに緊張することはなかったはずなのに……。
とにかく、口から飛び出してしまいそうなほど、心臓が飛び跳ねている。




