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フランコが体裁を整える

「デボラ。おれもレディにたいして失礼なことは言いたくないが、きみには心底ムカついているよ。一方的に婚約者になり、婚約破棄をしてきたときもそうだ。きみみたいなクソみたいなは、クソみたいなジルドがピッタリだ」

「陛下。いまのは、いくらなんでもひどすぎるわ」

「ひどい?きみは、これまでそれ以上のことをやっているんだ」

「ご不快な思いをさせてしまったのでしたら謝罪いたします」

「いまさら詫びられてもな。それに、謝罪ならおれではなく彼女にすべきだ」


 フランコは、不意にわたしの方に向いた。こちらに近づいてくる。


「彼女にパートナーがいないというのなら、それはきみたちの勘違いだ。ナオ、遅れてすまなかった」


 フランコは、銀仮面をさっと外してそれを厳めしい将校服のポケットにしまった。それから、こちらに右手を差しだしてきた。


「きみの歓迎会なのに、一人にさせてしまったね」


 フランコのやさしい言葉をききながら、彼の美しい顔に魅入ってしまった。


「踊ってくれないかい?」


 急な展開に思考能力が追いつかない。それでも、なんとか小さく頷くことは出来た。


 差しだされている彼の手を取ると、彼の美貌がドキッとするほどやわらかくてやさしい笑みで彩られた。


「デボラ。ナオは、皇妃になってもらいたくて招いたんだ。聖女とか押し付けられたとか、そんなことはいっさい関係がない。アロイージ王国の宮殿で彼女を一目見た瞬間、運命の女性ひとだと確信した。だから、招いたんだ」


 フランコも大変ね。こんなふうに演じなければならないんですもの。


 そう思った瞬間、彼が間を詰めてぴったりくっついてきた。


「ナオ、おれは本気だ。こんなところでなんだけど、いま言ったことは本心だ」


 彼は、そう右耳にささやいてきた。


 だけど、信じられない。疑う以前に、そもそもそんなことがあるはずがない。


「というわけだ」


 彼は、デボラに勝ち誇ったような笑みを浮かべてみせた。


「カスト。おまえもエルマに挨拶をしないか」


 それから、フランコはカストに声をかけた。


「エルマ、お待たせした……」

「遅いわよ、もうっ!あなたが陛下をはやく連れてこないから、ナオに寂しい思いをさせてしまったじゃない」

「これでも大急ぎで……」

「いいからいいから、ほら」


 エルマが腕を差しだすと、カストは可愛い顔に苦笑を浮かべてその腕を取った。


「ジルド、宰相。いますぐ、ここから出て行け。処分は、追ってする」


 フランコは、わたしを連れて大広間の中央部分に向かって歩きながら冷たく言い放った。


「さあっ、紳士淑女諸君。わが愛する女性ひとの為に集まってくれたのだ。存分に楽しんでくれ」


 フランコは、大広間内に響き渡る声で宣言をした。そのタイミングで、また音楽が再開されて人々が踊りはじめた。


 フランコのエスコートで踊りながら、夢のようなひとときをすごした。


 エルマとカストも踊っている。だけど、エルマは踊りつつカストにこれまでのことを話し続けている。


 その一方的な話をきいているカストの可愛い顔はやさしく、彼がエルマを愛しているのだということがひしひしと伝わってくる。


 やはり、ただの幼馴染の関係などではなかったのね。


 わたしの最初の直感は、けっして的外れではなかったのよ。


 必死にフランコについていきながら、そんなことをポーッとかんがえている。


 先程、フランコが言ったことは、たとえ体裁上であったとしてもすごくうれしかった。


 だからこそ、あくまでも体裁上であることが悲しくもある。



 この夜舞踏会で彼と踊ったことは、一生の思い出になった。


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