竜帝登場
「ふんっ!陛下は、いまごろドラーギ国で駆けずり回っている。だから、直接言いたくても言えぬな」
宰相は、鼻を鳴らした。
宰相は、フランコが駆けずり回っている要因が宰相自身の推しのジルド皇子であることを忘れてしまっているのね。
「いいや、ここにいるぞ。遠慮なく言うがいい」
そのとき、見物人たちが左右に分かれて道が出来た。
フランコである。驚くべきことに、彼がカストを従えて現れた。
「へ、陛下」
「陛下」
宰相とデボラとジルドは口をあんぐり開け、周囲で成り行きを見守っている人たちは、口々に陛下と呼んでいる。
フランコは、銀の仮面をかぶっている。
ということは、彼はいま本気なわけね。
以前きいた、銀の仮面にまつわる話が思い起こされる。
「これはいったい、なんの騒ぎだ?カスト、おまえは知っているか?」
「さあ、なにも知らされておりません。陛下のいらっしゃらない間に、舞踏会の予定はいっさいなかったはずです」
フランコの問いに、カストが答えた。
しばらく会っていないけれど、銀仮面のフランコはあいかわらず威厳があるし、カストは可愛すぎる。
「バル、どういうことか教えてもらおうか?俺のあずかり知らぬところで舞踏会が行われ、大切な客人が貶められていることについてな」
フランコは、銀仮面の下から宰相をにらみつけた。それから、側近のバルナバに尋ねた。
人々をかき分け、バルナバが現れた。
「はい、陛下。宰相閣下から、『陛下の大切なお客人であるバトーニ公爵令嬢の歓迎会を行いたい。すでに陛下から賛同を得ており、ジルド皇子も出席される』ときいております。ですので、念のため陛下に照会の使者を送りました」
バルナバが答えた。
大広間内は、異様なほど静まり返っている。
フランコが現れるまで演奏されていた音楽も、当然中断されてしまっている。
「ジルド皇子から、陛下から許可を得ていると。ですので、歓迎会を開催いたしました」
フランコに睨まれた宰相は、平気で嘘をついた。
「なにを言うかっ!おまえが勝手にやったんだろう?デボラにせがまれてな。おれのせいにするな」
「なにを言うのよ、このへっぽこ皇子。せがんでなんていないわ。『生意気なよそ者に恥をかかせたいわ』ってつぶやいただけよ。あなただって『正当な皇帝であるおれをさしおいてふんぞり返っているあいつに目に物みせたい』って、いつも言っているでしょう?」
「このバカなクソ女っ!顔がいいだけの悪女のおまえをおれの女にしてやっているのは、おまえのハゲ親父を利用する為だ」
「なんだと、このバカ皇子っ!娘を侮辱するばかりか、わたしをハゲ呼ばわりしよって」
まぁ、なんてことかしら。
見苦しい内輪もめが始まったわ。
「だまれっ!」
フランコの怒声で、醜い言い争いをしている宰相たちの動きがピタリと止まった。
「ジルド。帝都へ更迭したのは、おれに代わって好き放題させる為ではない。ドラーギ国の統治を失敗した罰として、謹慎させる為だ。これまで異腹の兄としてかばってきたが、もうダメだな」
「いや、フランコ。宰相だ。そう、宰相が……」
「宰相にそそのかされたりだまされたとしても、それはそれで大問題だ。貴様はそれだけの器しかないわけだからな」
フランコの仮面の下の視線は、ジルドを突き刺しているの。
ジルドは、黙りこくった。
「宰相、権勢を誇りたかったのか?」
「あ、いえ、陛下……」
「やりすぎたな。ガンドルフィ公爵家の栄誉の為、これまでは目をつむってきたのだ。だが、それも限界だ。ジルド同様やりすぎたな」
「陛下、どうかおききください」
フランコは、言い訳をするつもりらしい宰相の顔前に手を上げそれを制した。
「デボラ、きみはあいかわらず嫌なレディだな」
フランコは、デボラの方に体ごと向き直った。




