基本、乗馬服なの?
彼女の寝室にあるクローゼットは、いまのわたしが住まわせてもらっている宮殿の寝室のクローゼットよりかは小さいけれど、お姉様のとおなじくらいの広さはあるかしら。
驚くべきことに、そのクローゼットのラックにかかっているほとんどが乗馬服なのである。
それこそ、驚きで腰を抜かしてしまうかと思った。
こんなに乗馬服が並んでいると、いっそ清々しい。圧巻すぎる。
乗馬服の専門店でも、これほど並んでいるかしら。
それにしても、乗馬服、乗馬服、乗馬服、乗馬服。 はたして乗馬服以外の服はあるのかしら。
とにかくすごすぎるわ。
「ナオ、口、口。あんぐりと開いたままよ。わかっている。だから、何も言わないで」
エルマに体を揺すられ、やっと意識が戻った。
「呆れるでしょう?」
侯爵夫人が隣に立って尋ねてきた。
「わたしのせいね。乳母として、二人の王子たちを最優先にしたわ。王子として恥ずかしくないよう、自分なりにがんばったつもり。言い訳になるけど、その分わが子に対してはなにもしなかったの。愛情もしつけもね。ロメオが子守りを雇わず、出来るだけ屋敷の使用人たちと面倒をみると言ってくれたの。だから、お言葉に甘えたのよ。結局、彼よりかは使用人たちに負担をかけてしまい、迷惑をかけてしまったけれどね。うちの使用人は、勤続三十年以上の人も多いのよ」
そういえば、執事もメイドも料理人もわりとベテランの人が多いわね。比率的には、若い人と半々くらいかしら。
「ロメオもがんばってくれたけど、彼も外交官として様々な国を飛び回っていたから。なかなか屋敷にいて、子どもたちの面倒をみるなんてことが出来なないわよね。あら、ごめんなさいね」
侯爵夫人は、苦笑した。
「何が言いたいかっていうと、うちの子たちは自由奔放すぎるっていうことね。その一つが、いま目の前にぶら下がっている乗馬服の数々というわけ」
侯爵夫人は、乗馬服の数々を示した。
「侯爵夫人。わたし、心の底からこの国に来てよかったと思っています。お聞き及びと思いますが、わたしは、家族や国に捨てられたようなものです。そんなわたしに手を差し伸べてくれたのが、フランコ様やカスト、それからエルマとバルです。それは、やさしくしてくれたとか親身にしてもらったとか、そんなありきたりな言葉で片付けられるものではありません。わたしにとって、彼らは命の恩人と言っても過言ではありません。侯爵夫人は、その四人を育てられたお母様です。申し訳ありません。うまく伝えることが出来ないのですが、とにかく、四人とも素晴らしい人たちです。フランコ様とカスト同様、エルマとバルを尊敬しています。彼らを見習わねばと、心から思っています
」
「ナオ、ありがとう。そう言ってくれてうれしいわ」
「生意気で申し訳ありません」
「そんなことないわ」
侯爵夫人の手が、わたしの頬をやさしく撫でてくれた。
そのあたたかい手に、思わずジンときてしまった。
「ねえ、ナオ。ドレスっぽいものって、こんなに派手なんだけど」
そのタイミングで、エルマが一着のドレスを持ってやって来た。
胸元にド派手な色合いと奇抜なデザインのドレスを抱えている。
「ちょっとわたしには派手かも。それと、胸元が……。わたし、エルマみたいに出ていないといけない所が出ていないから」
「ナオ、わたしだってそうよ。出ちゃいけないところが出ているんですもの。それはともかく、お母様。このドレスは、お母様のお下がりだったかしら?」
「そんなわけないわ。それはたしか、従姉のだれかのお下がりね」
「きっとそうね。奥の方に突っ込んでいたから」
あっけらかんと言うエルマ。
侯爵夫人と顔を見合わせ、同時に苦笑してしまった。
「この調子なら、ナオに着てもらうどころかあなた自身着用するものがないじゃない。二人ともいらっしゃい。わたしのを見てみましょう」
「はーい。困ったときのお母様頼みよね。ナオ、安心して。お母様のドレスだったら確実よ」
エルマに腕を取られ、彼女の部屋を出た。
侯爵夫人は、「ひと昔前のドレスよ。だから、デザインも色合いもいまどきの流行ではないけれど」と言って、クローゼット内を見せてくれた。
そんなことはなかった。
すぐに気に入るものが見つかった。だけど、袖や腰回りがじゃっかん長かったり大きかったりする。
そうしたら、手直しもしてくれると言ってくれた。
だけど、時間がない。応急処置的にしてもらうことになった。
だから、厚かましくお願いをした。
そのあとは、ボルディーガ侯爵家で賑やかなひとときをすごした。




