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ドレスを貸してもらう

「大したことはないよ。わたしの場合は、口だけしか武器はないからね。陛下やカストのように、命を懸けるわけではない。のほほんとしたものさ」


 侯爵は、謙遜した。だけど、そうではないことは想像に難くない。


 彼はフランコやカスト同様、様々な国を相手取って戦い、勝利を掴んでいるに違いないわ。


「ナオ、ちょうどいいタイミングだ。いま、アロイージ王国は大変なことになっている。陛下からきかされていたからね。諜報員や軍と連携し、情報を集めたり援助の準備をしている最中なんだ。入ってきている情報だけでも、すさまじい水害で王国内のいたるところに被害が出ている」


 侯爵の表情は、これまでとは違って真剣である。


 あれほど、「自分はもう関係はない」と言いきかせていた。でも、実際に被害が出ていることをきくと胸が痛み、責任を感じてしまう。


「なあに、このことも心配はない。出来うるかぎりの援助はする。ナオ、きみのせいじゃない。と言っても、なかなか割り切れるものではないな」


 いつの間にか、全員の食事の手が止まっている。


「ナオ、気に病まないでと言っても難しいわよね。何もいますぐに答えを出す必要はないわ。アロイージ王国の多くの人たちの為に、もう一度聖女の力を使う手もある。それを心に留めておくといいわ」

「侯爵夫人……」


 たしかにその通りだわ。


 気に病むくらいなら、再度聖女の力を有効にして祖国に加護を与えられる手段もある。


 少しだけ気がラクになった。


 とりあえず、いまは目の前の問題に向き合わなければならない。


「すまなかった。こんなときに伝えるべきではなかったね」

「いえ、侯爵。教えていただいてよかったです。ありがとうございました」


 それから、また食事を再開した。


 食後、居間で舞踏会に着用するドレスの話になった。


 ありがたいことに、侯爵夫人とエルマにドレスを貸してもらうことになった。

 ありがたいことである。



 あらためて、エルマは変わっていると思った。というよりか、ぶっ飛んでいるって感じかしら。


 彼女にはこれまで何度か会ったけど、すべて乗馬服を着用していた。


 それは、乗馬を楽しむ為に会ったから当然なんだけど。だからこそ、わたしも乗馬服を着用していた。

 乗馬服だけは、ドレスなどとは違って新品から着用している。


 というのも、お姉様が「着ない」と言って放り捨てたから。


「やっぱり、馬になんて乗らないわ。だから、乗馬服なんて必要ない。どうせ乗るなら、馬よりジェントルマンでしょう?お父様。こんなものより、ドレスの方がよかったわよ」 


 お父様がお姉様に乗馬服をプレゼントしたとき、お姉様は恥ずかしげもなくそんなことを言ってのけた。


 そもそもその乗馬服は、お姉様が「乗馬は貴族のたしなみだから、乗馬服を作ってちょうだい」って言って、お父様にねだってオーダーメイドした最高級品だったのに。


 しかも「ジェントルマンに乗る方がいい」って、レディが言うことかしら?しかも、お姉様は聖女なのに。


 それもほんとうは、資格も力もない「偽聖女」なんだけど。


 でもまぁ、そのお蔭でわたしが乗馬服を得ることが出来た。その乗馬服は、わたしの一生の宝物。すぐにルーポに見せびらかしに行ったのを、覚えている。


 それはともかく、エルマは初対面以降、ずっと乗馬服姿だった。その姿しか見ていない。ただ、毎回、乗馬服のデザインや色が違っていた。


 乗馬服って、いろんなデザインや色があるんだ。


 毎回微妙に違う彼女の乗馬服を見、シンプルに驚いた。


 が、この光景を見てさらに驚いてしまった。


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