デボラと宰相の意図
翌日にはボルディーガ侯爵にアポイントが取れた。でっ、泊まりに行った。アポイントを取ったというよりかは、泊まりにいく約束をとりつけたようになってしまった。
前回のように、侯爵夫妻はエントランスの外で出迎えてくれた。
この日は、夕方までエルマと乗馬をしていたので、そのままボルディーガ侯爵家の馬車で連れて行ってもらった。
バルナバも皇宮から帰宅し、夕食をいただいた。
「なんですって?お兄様、どうして断わらなかったのよ。そんなの、宰相の差し金に決まっているじゃない」
「エルマ、宰相の差し金ということはわかっている。だが、直接申し込みがあったんだ。しかも、ご令嬢の方からだ。無碍に断れば、バルの、というよりかは陛下の心証が悪くなる」
その際、バルナバがエルミーニ侯爵家のご令嬢から舞踏会のパートナーになってほしいと申し出があったと報告した。
憤ったのはエルマである。それを、侯爵が窘めた。
エルミーニ侯爵家もまた名門らしい。皇都からほど近くに領地を有していて、ご令嬢もその領地からわざわざ出てくるとか。
「お兄様にナオのパートナーになってもらうつもりだったのに。だから、わたしは自分のパートナーにドスケベのダレッシオ伯爵子息を誘ったのよ」
「あいつはダメだ」
「どうしてあいつなんだ?ダメだ。ダメダメ」
侯爵とバルナバが気色ばんだ。
「どうして?ドスケベなだけの中身のない男よ」
「だからダメなのだ」
「だからダメなんだよ」
エルマは、侯爵とバルナバに全力で拒否されても気にしていないみたい。
「とにかく、宰相の意図は明確だ。ナオに恥をかかそうというわけだ。おれも出来れば見たことのない侯爵令嬢より、ナオをエスコートしたいんだが……」
「バル、ありがとうございます。ですが、わたしなら大丈夫です。この国に来て何年も経っているわけではありません。公の場にいっしょに出席出来るパートナーがいなくても仕方がありません。そう割り切ります。ですが、フランコ様の客人として彼に恥をかかせてしまうことが心苦しいのです」
「ナオ、わたしたちといっしょにいて。あなたは、子どもたちの大切な友人で、なおかつ陛下のお客様だわ。ボルディーガ侯爵家がお世話をするということにすれば、不自然でもなんでもない。実際、他国の貴賓をお連れする場合があるの」
「さすがはハニー。そうしよう」
侯爵夫人の申し出は、わたしにとってありがたすぎる。
侯爵も乗り気になってくれている。
だけど、ボルディーガ侯爵家に迷惑がかかってしまうかもしれない。だから、心配だということを素直に伝えた。
「そんな心配はいらないわ」
侯爵夫人がやわらかい笑みとともに言った。
「わたしたちが心配しなければならないのは、バルとエルマのこと。これまで、公の場でどれだけやらかしてきたことか」
「ナオ、妻の言う通りだ。子どもたちのせいで仕事をクビになりそうになったことが一度や二度ではないからね」
「大げさですね、父上。愛する妹にちょっかいを出す不埒者を懲らしめただけです」
「そうよ、お父様。レディはレディで面倒くさいし、ジェントルマンはジェントルマンで面倒くさいのです」
エルマは、こちらを向いて舌をペロリと出した。
「お仕事をクビ?」
そういえば、侯爵がなにをしているのかきいていない気がする。
「一応、外務卿だよ」
侯爵がさらっと言った。一瞬、彼の言葉が理解出来なかった。
「が、外務卿?」
そんなにすごい方だったのね。
わたしの中では、外務卿は他国を相手に活躍するやり手の官僚というイメージがある。




