ボルディーガ侯爵家
「まあっ、いらっしゃい」
「いらっしゃい」
バルナバが迎えに来てくれ、ボルディーガ侯爵家へ向かった。
ボルディーガ侯爵夫妻は、エントランスの外に迎えに出てくれた。
「子どもたちからきいて、心待ちにしていたのよ」
「まさかうちの子どもたちが、こんなにお淑やかで可愛らしいお嬢さんと友達になるとはね。というよりか、友達が出来るとは」
「お父様、ちょっと待ってよ。それはどういう意味?まぁたしかに友達はすくないけど、実の娘や息子をいったいなんだと思っているの。ねえ、お兄様?」
「そうだとも。友達が出来ないわけじゃない。友達に似合う奴がいないってだけのことさ」
不貞腐れているエルマとバルナバが可愛いわ。
たったこれだけのやり取りを見ただけで、侯爵一家がすごく仲が良くって素敵な家族だってことがわかる。
エルマとバルナバは、ご両親のことを心から愛している。そして、ご両親は息子と娘を心から愛している。
やっかんではダメよ。うらやましいって思わないようにしないと。
と思いつつも、うらやましくてならない自分がいる。
「ロメオ・ボルディーガです。こちらは、妻のマルタ」
「ボルディーガ侯爵、侯爵夫人。はじめまして。ナオ・バトーニと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「ナオ、わが家へようこそ。それから、バリオーニ帝国に来てくれてありがとう。ここでの生活を気に入ってくれているといいんだが」
「はい。とっても」
侯爵に問われ、即座に答えていた。
侯爵と視線が合って驚いてしまった。
エルマにそっくり。
五十代前半くらいかしら?スラッとしていて渋カッコいい。ちょっとだけブラウンの髪がすくない気がしないでもないけれど、それは年齢相応に違いないわね。
「それはよかったわ。子どもたちのせいでこの帝国を嫌いになってもらったら困るから」
そして、侯爵夫人はバルナバにそっくり。
メガネこそかけていないけれど、若々しくて美しい。
なにより、すごくやさしそう。
彼女がフランコやカストの乳母を務めていたのね。
「さっ、入って。夕食の準備は出来ているわ。だれかさんがお腹をすかせているから、暴れ出す前に食事にしましょう」
「はい。お邪魔します」
「だれかさんってだれのこと?ああ、エルマのことだね」
「お兄様、違うわよ。お父様でしょう?」
「わたしのことではないぞ、愛するエルマ。バルのことだろう」
「もうっ、お父様。お兄様もだけど、ナオの前で『愛する』をつけないでちょうだい。わたし、いい年をしているのよ」
「なにを言っているんだ、ハニー。おまえは、いつまで経ってもおれの愛する妹にかわりはない」
「『ハニー』もやめてちょうだい。そういうことは、恋人や婚約者や奥さんに言うことでしょう。それに、そういうことをわたしが八十のおばあさんになっても言うつもり?」
「もちろん。そうですよね、父上?」
「あー、さすがにその年齢では呼べないな」
「そうですよ。エルマが八十まで生きるとしたら、わたしたちは幾つになっているの?長生きをしすぎたら、世間様にご迷惑だわ」
「たしかにそうだな、ハニー。だけど、きみには長生きしてもらわないと」
「いやですわ、ロメオ。長生きするなら二人で一緒に、ですよ」
「あー、ごちそうさま」
「ほんとよね。いつまででも熱々なんだから」
廊下を歩きつつ、侯爵一家は談笑している。
ほんとうにいい家族ね。
うちもわたし以外の三人は、こんな微笑ましい一家なんだけど。




