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お泊まり会決定

「ナオ、そんな顔をしないで。デボラからケンカを売ってきているんですもの。それ相応の対処は必要でしょう?楽しみだわ。そうだわ、ナオ。それまでにうちに泊まりに来ない?」

「泊まりに?でも、ご迷惑だわ」

「遠慮はいらないさ。おれたちの友人なら、両親もおおよろこびするよ」

「なにせわたしたち兄妹はちょっと個性的だから、貴族子女に見向きもされないの。あなたが来てくれれば、わたしたちも両親に自慢出来るわ」

「決まりだ。おれから、執事長と侍女長に話をつけておくよ」


 わたしが口をさしはさむ間もなく、お泊まり会が決定していた。


 だけど、ちょっと楽しみ。


 生まれて初めて出来た友人の屋敷に遊びに行けるんですもの。


 この国に来てよかったと、もう何度目かに実感した。


 姉の身代わりで竜帝の捧げものになってよかった、と。



 その後、エルマの愛馬を見せてもらった。


 白一色の牝馬で、ローザ・ビアンカという名前である。


 それはもう美しい馬で、白いバラという名前がピッタリ。


 鬣を編んでいるのが可愛らしい。


 あいにくわたしがドレスだったので、ルーポに乗ることは出来ずに彼を紹介するにとどめた。


 エルマは馬場でローザに乗り、バルナバと二人でそれを眺めた。


 バルナバのエルマへの愛が止まらない。ずっと称讃したり揶揄ったりしている。


 近くで作業をしている厩舎の責任者のガリレオや厩務員たちは、そんな様子は慣れっこに違いない。


 にこやかに見守っている。


 バルナバほどではないにしろ、気にかけてくれるお兄様、というよりかは家族がいてくれればよかったのに。


 などと、いまさら思っても仕方がないわよね。


 だけど、これからは違う。


 気にかけてくれる友人が出来たんだし、そういう人たちを想い、大切にしよう。


 エルマのきれいな乗馬フォームを見つつ、そう誓った。



 あらためてお泊まり会の約束をエルマとバルナバとし、この日は宮殿に戻った。


 お茶会でのことを、フィオレに夕食時に報告した。すると、彼女は大笑いしてくれた。


 笑い話じゃないんだけどって苦笑してしまった。


 フランコがいるときには、彼と食事を摂っていた。だけど、彼がいなくなってから一人で食事をすることが寂しく感じるようになった。


 アロイージ王国では、さんざん一人で食事をしていたのに。


 かえって一人で食事をする方がよかったのに。


 食事も、家族が終って残り物や自分で作った料理を厨房の片隅で食べることが多かった。


 使用人からも「役立たず」聖女と認識されていたので、わたしの分まで準備してくれなかったのである。


 ここに来て、はじめて食事が楽しくなった。フランコは、話し上手だし聞き上手でもある。彼の話は、面白くて楽しくなる内容ばかりである。


 おそらく、彼がそういう話題ばかりを選んで話をしてくれているに違いない。


 逆に、わたしが出来る話は面白い内容がほとんどない。


 だから、彼は面白くないはず。それどころか、不愉快になっているかもしれない。


 それでも、彼はポーカーフェイスできいてくれている。


 宮殿の小食堂のテーブルは、大食堂のそれよりもずっと小さい。それでも、十人は座れる長テーブルが三つある。


 その一つに向かい合わせで座り、彼はかならずわたしの目を見る。もちろん、わたしも見る努力はするけれども、彼が美しすぎてキラキラしすぎるからつい目を逸らしてしまう。


 そういう気恥ずかしくも楽しい食事に慣れてしまったのはすぐだった。そしていまは、フランコがいなくなって、寂しい思いをしている。


 だから、フィオレにいっしょに食べてくれないか、とお願いをした。



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