妹と兄
「兄は、一応陛下の側近なの」
「妹とおれは、陛下とブルーノの乳母子なんだ」
知的な美貌に浮かぶ笑顔もいいわね。
って、わたしってば何を言っているの?
バリオーニ帝国にやって来て、苦手な男性と喋る機会が急に増えた。だから、動揺しているのかしら。
もっとも、男性だけでなく女性と喋ることも増えたけど。
男女問わず、人と接する機会が多くなったわ。
「お兄様。それにしても、よくここに来るってわかったわね」
「そんなこと、お見通しさ。朝食のとき、『デボラにお茶会に招待されたから行くつもりなの』って言っていただろう?」
彼は、妹の真似をして言った。
すごくエルマに似ている。
ボルディーガ侯爵家の人たちって物真似がうまい家系なのかしら。
というくらい、エルマのデボラの物真似もバルナバのエルマの物真似もうますぎる。
「その時点で胡散臭いって思ったんだ。でっ先程、公爵令嬢に、って、ナオって呼んでもいいかい?おれのことは、バルって呼んでくれ」
「もちろんですとも、バル」
「ナオに挨拶に行ったら、執事長と侍女長からガンドルフィ公爵家に行った、ときかされた。陛下から、ナオは馬が好きで、愛馬を連れてきているときいていたからな。愛馬がいるってことは、ナオは筋金入りの馬好きってことだ。それで、おまえがお茶会に行った理由に思いいたったというわけだ」
バルナバは、腰に手をあて「フフン」と鼻を鳴らした。
「イヤなお兄様ね。馬好きどうし、いいお友達になれると思ったのよ。いいえ。運命を感じたわ。こんなこと、これまでになかったもの。ほら、よく異性にそういうものを感じるっていうでしょう?でも、わたしは違うみたい」
「当然だ。どこぞの生意気な腑抜け野郎にそんなものを感じる必要なんてない」
「ナオ、いまのお兄様の発言をきいた?お兄様ったら、いつもこうなの。わたしがどこかの生意気な腑抜け野郎と飲みに行ったりしようものなら、酒場に乗りこんで来るの。でもね、生意気な腑抜け野郎と二人っきりなんてことはないのよね。複数人で飲むことが多いから。結局、お兄様も加わって、おごってもらうことになるんだけどね」
「エルマ、それはあなたがバルに愛されているからよ」
「だろう?さすがはナオ。よくわかっているよ。きいたか、エルマ?お兄様はな、おまえのことが心配で心配でならないから気にかけているんだ。それを、無鉄砲に野郎どもと飲み歩いたり遊びまくったりして」
「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。ナオに誤解されるでしょう?違うのよ、ナオ。ほら、さっきのガンドルフィ公爵家の使用人の人たちと飲みに行ったりしているだけよ。行きずりとかひっかけてとかじゃないから」
必死に言い訳をするエルマが可愛いと思った。
「エルマ、わかっているわ。あなたは、そんな人には見えないもの」
最初、彼女はカストといい仲なのだと思った。彼女がカストのことを言ったとき、口調がやさしく感じられたからである。
だけど、どうやら違ったみたい。カストとは、ただの幼馴染なのね。
それはともかく、彼女が愛馬を皇宮の厩舎に預けることが許されているのは、フランコとカストの乳母子子だからね。
「お兄様、デボラの誕生日パーティーに誘われているでしょう?」
「そういえば、そうだったな」
「ナオも誘われたのよ」
彼女はそう切り出し、先程のお茶会の様子を伝えた。
「なるほど。それはデボラの意地悪が炸裂って感じだな」
「そうなのよね。そうだわ。三人で行きましょうよ。お兄様も誘われているから、二人で行くつもりだったの。どうせなら、三人で行って美味しものを食べながら盛り上がりましょう」
「それはいい。両手に花というやつだ」
「お兄様を間にはさんではしゃぎまくるのよ。すくなくとも、ナオはそれで体裁が整うわ」
「でも……」
いくらなんでも、それではバルナバだけでなくエルマにも申し訳ない。




