友人に……
「もちろん。この恰好だから乗馬は出来ないけれど、厩舎に行くのはお付き合いしたいわ」
「よかった。来た甲斐があったわ。それで、さらに厚かましいんだけど、なってくれる?」
「はい?」
なってくれる、ってなにに?
「小説にでてきそうだし、まさか自分がこんな気恥ずかしいことを言うことになるなんて思わなかったけど、一応了承を得たいのよ。迷惑だったらはっきり言ってくれていいから。ほら、友達ってやつ?」
彼女の斬新なお願いごとを理解するのに、しばらくかかってしまった。
「友達?わたしと?」
「ええ。あなたよ。ダメ?そうよね。わたしってばこんなでしょう?お兄様やカストに、気が強いってよく言われるのよね」
「そ、そんなことはないわ。って、カスト?」
「あ、彼は幼馴染なの。陛下もね」
なんてこと……。
あの可愛らしくて控えめなカストと彼女が……。
悪いけど、カストが使い走りさせられている光景しか思い浮かばない。
「やっぱり迷惑よね?」
「ううん。そんなことないわ。わたしの方こそ、祖国では虐められたりしていたからちょっと驚いてしまっただけ。こちらからお願いしたいくらいよ」
「じゃあ決まり。よろしくね、ナオ」
「こちらこそ」
いつの間にか、敬語じゃなくなっている。
その後二人でスイーツを完食し、お土産までいただいてガンドルフィ公爵家を後にした。
エルマは、ほんとうにかわっている。もちろん、それはいい意味でだけど。
ガンドルフィ公爵家には、歩いて来たらしい。わたしといっしょに皇族専用の馬車に乗って皇宮に行くつもりだったので、馬車は必要ないと思ったらしい。
「厚かましくってごめんなさいね。まぁあなたに断られたとしても、歩いて屋敷に帰るか、皇宮に歩いて行くつもりだったの」
四頭立ての立派な馬車の中で、彼女はそう言ってペロリと舌をだした。
「馬車って好きじゃないのよね。荷馬車ならともかく、こういう馬車って大げさでしょう?いかにもって感じがするのよ。わたしったら、乗せてもらっていながらなにをエラそうなことを言っているのかしらね。いつもお兄様に怒られるの」
「いいのよ。わかるような気がするわ」
移動するのに馬車は必要である。みんながみんな乗馬が出来るわけではないのだから。だけど、大げさな馬車はどうかしら、と思う。
とはいえ、それが特権階級の象徴だから仕方がないのかもしれない、とも思う。
「そうそう。馬に会うとすぐに忘れちゃうからいまのうちに言っておくわね。デボラが最後に言っていた、彼女の誕生日パーティーなんだけど……」
向かい合わせの座席で、彼女はこちらに身を乗りだしてきた。
「一応わたしも招待されているんだけど、彼女の意図は明白よ。パートナーと同伴で来なさいってこと」
「なるほど」
だからこそ、彼女はわたしを誘ったのね。
パートナーがいないことがわかっている。
みすぼらしい身なりのわたしが、ガンドルフィ公爵家の広間の片隅で一人寂しく立っているのを見たいのね。
そんな幼稚なかんがえ方も、どこのご令嬢もおなじよね。
「『見てごらんなさい。彼女たち、エスコートをしてくれる殿方もいらっしゃらずに寂しいことね。だれか、お相手をして差し上げたら?』。なーんて言うに決まっているわ」
エルマがデボラの声真似をした。それがあまりにも似ているから、思わずふきだしてしまった。
「似ているでしょう?彼女を見て、日々研究しているの。いつか、本人の前で披露するつもり」
おどけたように言う彼女が楽しすぎる。
馬車は、そんな話をしている間に皇宮に到着した。
そのまま厩舎に向かってもらった。




