お茶会への誘い
数日の間、フランコと読書三昧ですごした。
皇宮の図書室は、想像をはるかにこえていた。
アロイージ王国の王立図書館がみすぼらしく思えてくる。
ここの図書室にある無数の本の数々は、あくまでも皇族が所蔵する書物。皇都内にある帝国図書館は、かなりの規模だという。
フランコの寝室や執務室にある本だけでも、どれを読もうかと迷ってしまう。だから、図書室の本ともなると選ぶだけで一苦労。だけど、それはわたしにとっていい苦労であることにかわりはない。
食事、庭園の散歩、厩舎への訪問、睡眠。これら以外は、読書三昧。
急遽、フランコがカストのもとに行かねばならなくなった。
彼がいなくなってから、自室や森や庭園で本を読んだ。
そんなある日、デボラ・ガンドルフィという公爵令嬢からお茶の誘いを受けた。
ええ、わかっているの。彼女がわたしをどうにかしてやろうという魂胆なことくらい。
アロイージ王国でも散々されたから。
お姉様の引き立て役として、お茶会やパーティーに参加させられた。
そこでは、よくあることをされた。つまり、ありとあらゆることを言われたりされたりした。
またおなじことよね。
わかっているからこそ、行くのが嫌でならない。
しかし、フランコの顔がある。行かなければ、なにを言われるかわからない。
わたし自身のことだったらかまわない。わたしのことが理由で、フランコのことをとやかく言われたくない。わたしのことで、彼の評判を落としでもしたら……。
行くしかない。しばらくの間、ガマンすればいいだけのこと。
侍女のフィオレに公爵令嬢のことを尋ねてみた。それから、着ていくドレスのことも。
すると、フィオレはすぐに侍女長のアーダと執事長のジェラルドを連れてきた。
三人そろって「やめた方がいい」、と言われた。
公爵令嬢の父親、つまりガンドルフィ公爵は宰相らしい。その地位を強固にするため、娘を嫁がせようとした。もちろんフランコに、である。
婚約者にしようとした。
フランコは断った。そのつもりはない、と。だけど、宰相はあきらめなかった。もちろん、娘もあきらめなかった。あの手この手で迫った。
政治的なこともある。政治的な権力を握る宰相の娘を無碍にするわけにもいかない。それに、軍事的なこともある。左将軍ジルド・ベニーニはフランコとカストの異腹の兄で、そのジルドの母親が宰相の姉の夫の妹のいとこの夫の母方の祖母の孫にあたるらしい。
その関係を、五回ききなおしてしまった。でも、結局覚えられなかった。途中から、適当になっていると思う。っていうか、教えてくれたジェラルドも繰り返す度に微妙に違っていたような気がした。たぶんそれは、わたしの気のせいね。
っていうか、それってほぼ他人みたいなものじゃないのかしら?
とにかくそういう血縁もあり、宰相が左将軍ジルドの後ろ盾をしているらしい。
それと、後ろ盾をしているもっと重要な理由があるらしい。
それはともかく、フランコは、デボラの猛烈なアタックとその父親の宰相からの政治的圧力から、仕方なく婚約をした。おりをみて、何か理由をつけて婚約を破棄するつもりだったらしい。
だけど、ほどなくして婚約は破棄された。
気の多いデボラが、一夜の火遊びをしたのである。
その相手というのが、かくいうジルドである。
ジルドがどんないい男かは知らないけれど、フランコと無理矢理婚約をしておきながらジルドといい仲になるなんて、気が知れないわね。
宰相は、それもあってジルドをますます押すようになったらしい。
宰相自身も娘をフランコとくっつけようとしていたのに、何をかんがえているのかしらね。
まぁ、子も子なら親も親ってところかしら。
いずれにせよ、フランコにとってはいい理由になったというわけね。
そのデボラが、わたしに牙を剥こうとしている。
それでもやはり、行かなければ。
フィオレたちの反対を押し切り、お茶会に行くことにした。




