寝坊
「おはようございます」
きっと何度もノックをしたり呼んでくれていたのね。
ハッと目が覚めたら、広い寝室内は陽光で満ち溢れていた。
一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。だけど、扉の向こうから呼びかけている声で思い出した。
そうだったわ。ここは、バリオーニ帝国の皇宮だった。
慌てて飛び起き、フカフカの布団をかきわけ、天蓋付きの立派な寝台から転がるようにしておりた。
「ど、どうぞ」
「失礼いたします」
明るい声とともに入ってきたのは、赤色のおさげ髪で丸メガネをかけた侍女である。
「公爵令嬢、おはようございます。フィオレ・ジャケッタと申します。公爵令嬢のお世話をさせていただきます。よろしくお願い致します」
すっごく明るい人だわ。
朝の陽光みたい。
気分が明るくなる。
「ナオ・バトーニです。どうかナオと呼んでください。この国じたいはじめてなので、いろいろ教えて下さい」
「お任せください、ナオ様」
「ところで、いまは朝、ですよね?」
恐る恐る尋ねてしまった。
昨夜、フランコがみずからこの部屋に案内してくれた。
結局、昨夜は遅くて彼女に会うことが出来なかった。
待っていてくれただろうから申し訳ないと思いつつ、部屋に入った。そして、あまりの豪華な部屋だったので驚き、見てまわった。
トランクに入っている服をクローゼットに運ぼうかな、とまではかんがえた。
でも、その前に寝台の寝心地を確かめてみようと……。
ハッと下を見下ろした。
わーっ!やってしまった。
お気に入りの、というよりかは数少ないお姉様のお古のドレスのまま眠ってしまった。
そういえば、一度目が覚めたような気がする。
暗かったので、まだ夜が明けていなかったに違いない。
肌寒いと思って、布団に潜り込んだ気がする。
そうよね。カーテンだって開けたままだし……。
「よほどお疲れだったのですね。陛下から、心ゆくまで寝かせてやればいいと言付かっております。ああ、そうでした。先程のご質問ですが、お昼の鐘がなったばかりです。そろそろお腹もすいてくる頃かなと。呼びかけて返事がなければ、出直すつもりでした」
「お昼、すぎ?」
われながら驚きである。
こんなにぐっすり眠ったのはいつぶりだろう。
フィオレはわたしの身づくろいを手伝ってくれ、トランクの中身をテキパキとクローゼットやチェストに移してくれた。
それから、遅い朝食、というよりかは昼食を運んで来てくれた。
それを、バルコニーでいただいた。
スープにサラダ、それから卵、チーズとハム、トマトとベーコン、カツ、フルーツと生クリーム、五種類のサンドイッチ。それらをブラックベリーティーとともにいただいた。食後には、ブラックベリーパイ。生地はサクッサクでブラックベリーのほどよい酸味がよくマッチしていた。
とにかく、出されたものはペロッと平らげた。
昼食後、やっとテラスから景色を眺める余裕が出来た。
手すりに肘をつき、森を眺めた。向こうの方に木々が広がっている。広大な森に違いない。
小鳥たちが、羽ばたいたり囀ったりしている。
どこにでもある森だけど、なぜか見ていて飽きない。
そのとき、ルーポのことを思い出した。
そうだわ。様子を見に行かなきゃ。
彼はわたしよりずっと賢くて適応力があるから、厩舎の人たちに迷惑をかけてはいないでしょう。だけど、環境がガラッとかわってしまったから戸惑っているかもしれない。
そのとき、扉がノックされた。
フィオレかと思ったので、どうぞと返答した。
扉が開き、だれかが入ってきた。
「やあ、ナオ」
寝室内に入って来たのは、フランコだった。
「陛下、いえ、フランコ様、おはようございます。ではありませんね。ご挨拶申し上げます」
陛下と言ってしまい、すぐに言い直した。しかも、すでにお昼をすぎているのに「おはようございます」、だなんて。スカートの裾を上げ、慌てて挨拶しなおした。
テラスから室内に入ると、彼はやわらかい笑みを浮かべた。
彼のその笑顔を見つめつつ、皇宮内では仮面はつけないのだろうかとふと思った。
「ああ、仮面のこと?」
やわらかい笑みがいたずらっぽい笑みにかわった。
「きみの心の中はのぞけないけど、そんなに凝視されたら推測するのは簡単だよ」
「も、申し訳ありません」
顔が火照るのを感じる。それを隠すのもあって、頭を下げた。




