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竜帝の読書友達に

「なるほど。では、おれは出来損ないの聖女をつかまされたわけだ」


 フランコは、わたしの話を聞き終えると笑いながら言った。


 わたしの隣でカストも笑っている。


「カスト。ドラーギ国に行って、左竜将軍に代わって統治してくれないか」

「では、左竜将軍に崩壊後のアロイージ王国の統治をさせるつもりなのですか?」

「そうだ。アロイージ王国に攻め込むなら、おまえにさせるところだがな。左竜将軍なら、王族をとんでもなく痛めつけるだろう。頃合いをみて、帰還するよう命じる」

「兄上、そんなにうまくいきますかね?あいつは、狂犬です。何事に対しても見境がありません。王都に入った瞬間に蹂躙し、王族は即斬首しかねません」


 二人の不穏すぎる話に驚いていると、カストが説明してくれた。


 フランコとカストは同腹の兄弟で、左竜将軍は異腹の兄であること。その異腹の兄は残虐で野心的で傲慢なところから、皇帝にはなれずに左竜将軍の地位に甘んじていること。

 彼は、つねに皇帝の座を狙っていて軍内部だけでなく皇宮や官僚たちを使嗾していること。


 いずれ決定的な打撃を与えなければならない。


「アロイージ王国の出身であるナオには申し訳ないが、本来ならわが帝国軍が攻め滅ぼすべきだ。だが、自滅してくれればそれにこしたことはない。そうだな……。カスト、たしかにおまえの言う通りだ。まぁ、いますぐのことではない。王族への処分と統治については、おいおいかんがえよう。カスト、さしあたって工作員を大量投入してくれ。王都だけでなく、王国内全域にな。それで、密かに流させるんだ。「困ったら、バリオーニ帝国を頼れ」、と。実際、頼って来たら惜しみなく援助しよう。物資や労働力などすべてのな。国王の愚かさは、民衆には関係のないことだ。ナオ、かんがえられる災厄はなんだ?」

「陛下、一番かんがえられるのは水害です。アロイージ王国の中央に山脈があるのですが、そこが水源です。雨が降りやすく、ダムを築いています。かなりの規模です」

「雨が降り続ければ……」

「ええ、カスト。ダムは決壊し、各地は水浸しになる。そうなれば、農作物がダメになってしまう。もちろん、それ以外でも。甚大な被害を被ることになるわ」

「カスト、いいな?」

「あらゆる事態を想定し、対応出来るようにしておきます」

「というわけだ、ナオ。出来るだけ民には被害がでないよう努力はする。きみは、なにもかも忘れて、というわけにはいかないだろうが、出来うるかぎりここでゆっくりすればいい。これまで孤軍奮闘し、耐え忍んできたんだ。のんびり気ままにすごしたってかまわないだろう?」

「ですが、陛下。わたしは……」


 フランコの申し出はありがたいけれど、それを受けてのほほんとするわけにはいかない気がする。


「ならば、おれの読書友達になってくれないか?」

「はい?」

「カストも本は読むが、感想を述べあったり共感しあったり、なんてことはしてくれない」

「当然です。本について、男どうしでべちゃくちゃ語り合うのですか?バカバカしい」

「バカバカしいとはなんだ?」

「バカバカしすぎます。ったく、兄上。素直じゃないし、まわりくどいんですよ」


 カストは、つぶやきつつ立ち上がった。


「なんだって?きこえなかったぞ。って、どこへ行く?」

「官舎に戻るのです。もう夜も遅いですからね。兄上も、いいかげん公爵令嬢を開放して下さいよ」


 カストは、わたしを見下ろした。可愛い顔にいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。


「公爵令嬢」

「ナオと呼んでください」

「では、ナオ。兄の読書友達とやらになってやってください。それで、二人で大いに本について語りあってやってほしいのです」

「え、ええ」

「うるさいぞ、カスト。行くのならはやく行け」

「ナオ。ようこそ、バリオーニ帝国へ。どうか第二の人生を満喫してください」


 彼はさっと床に片膝をつくと、わたしの手を取り口づけをしてくれた。


「とっとと出て行け」


 フランコの苦笑交じりの怒鳴り声に、カストは追われるようにして出て行った。


「まったくもう。ああ、カストは小柄でのほほんとしているように見えるが、この帝国一の剣士なんだ。しかも、個の武だけでなく用兵にも長けていてね。いまの地位は、けっして皇族だから手に入ったわけではない。自分の力で手に入れたものだ」


 フランコは、カストが出て行ったばかりの扉を見つつ説明してくれた。


 その彼の顔は、じつに誇らしげである。


 兄弟二人の仲の良い関係が、ちょっとだけうらやましかった。


 

 この日、わたしはバリオーニ帝国の皇帝の読書友達になった。


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