きまぐれの神様はひとつ願いを叶えてくれた。3
それから家に着きリビングに入るとソファの上に仔猫をおろす。
「さぁついたよ!」
仔猫は見たことない場所にすこし戸惑い、周りの匂いを嗅いでいた。
「落ち着くまですこしかかるかな?」
仔猫はそのままにして、キッチンに向かう。袋からお弁当を取りだし、レンジにいれて暖めている間に、他の食料は冷蔵庫にしまった。
チンっと音をたてて温め終わったお弁当をレンジから取り出す。仔猫用のちくわを細かくちぎってお椀にいれたものとお弁当をリビングに持っていく。
「さぁごはんだよ!」
仔猫をみるとソファで寝心地のいいところを見つけたのか丸くなって寝転がっていた。その姿をみるとすこしだけ微笑ましくなる。
お椀をカーペットの上に置いて仔猫に呼び掛ける。
「おなか空いてるでしょ? 今日はこれしかないから我慢してね」
仔猫はミャーとひと鳴きしてソファから降りちくわを食べ始めた。
「よしよし! それじゃ私もいただきます!」
暦もお弁当を食べ始めた。
「これからどうしよ…まさかずっとこのままなのかな?」
暦はこれからのことを考えるがまさかの出来事になにも手立ては思い浮かばなかった。
「お母さんとお父さんもこずえも、みんなどこいったんだろ…」
暦は心細くなり声が弱々しくなる。心配してくれてるのか仔猫が身体を暦にすり寄せてくれる。
「慰めてくれてるの?」
仔猫はミャーとひと鳴きする。
「そっか…ありがとうね…そういえば名前はないよね?」
仔猫をざっと確認するが首輪など名前がわかるものは見当たらなかった。
「名前つけてあげるよ。 なにがいいかな?」
仔猫を抱き上げよく見てみる。 男の子であることがわかった。
「うーん…ぶちとかはどうかな?」
暦は毛の色でそのまま名付ける。仔猫もひと鳴きしたため名前はそのまま決まった。
「じゃぁ今日からぶちだね!」
暦はぶちを撫でると目を細めて気持ち良さそうにする。
おなかがいっぱいになり、ぶちはそのまま暦の膝の上で眠った。
「寝ちゃったか…私も眠くなってきた」
ぶちを抱き上げてソファに寝転びそのまま暦も目を瞑った。
翌朝鳥たちの鳴き声で暦は目を覚ます。
おなかの上ではぶちがまだ寝ていた。
おなかの上から起こさないように退かそうとするとぶちは目を覚まし多く背伸びをする。
「ぶちおはよ!おこしちゃったねぇ」
ぶちはミャーとひと鳴きするとあくびをする。暦はぶちの頭を撫でながら微笑みかけた。
「今日はぶちのごはんとか買ってくるね! 大人しく待っててね」
ぶちは撫でられたのが気持ち良かったのか目を細めている。
暦はぶちのご飯と自分のご飯を適当に済ませ、外にいく準備を済ませた。
「じゃぶちいってくるね! いいこにしてるんだよ」
暦はぶちに挨拶をして家をあとにした。
昨日と変わらず雪かきをしてる人は誰もいなかった。すこし雪は積もってザクザクと音をたてながら前に進む。
「猫のごはんってどこにあるのかな? スーパーとかならあるかなぁ」
暦はぶちのご飯を買いに近くのスーパーに買い物にいく。問題は開いてるかどうかだった。
「開いてるかなぁ…」
スーパーについて自動ドアの前にたつ。
軽快な音と共に扉があいた。
「良かった…開いてた! でもやっぱり誰もいないか」
広い空間に1人でカートを押しながらぶちの必要な雑貨を探す。
「ぶちの歳がわかんないけどこれくらいかなぁ」
ごはんとペットシーツを選んで、またレジにお金を置いていく。ふとスーパーで流れている音楽で気がついた。
「今日はクリスマスイブか…まさかこんなことになるなんて…」
クリスマスの音楽を聞くまではそれどころじゃなかったため暦はすっかりと忘れていた。暦はぶちのごはんとシーツを持ちながらまたとぼとぼと歩きだした。
「私が変な願いをしたせいで…」
暦は後悔していた。たまたまぶちが現れなければ暦の心は壊れてしまっていたかもしれない。
「はやく帰ってあげよう…ぶちが待ってる…」
暦の歩くスピードは新しく出来た家族のために自然と早くなる。
時間はすでにお昼を過ぎていた。
しばらく歩いて家の前についた。
「ぶちただいまー」
リビングに向かったがそこにはぶちの姿は見当たらなかった。
「ぶち? ごはんかってきたよ?」
暦は名前を呼びながら家の中を探す。どこにもぶちの姿は見当たらない。
「そんな…ぶち? ぶち!」
暦は焦り家中を見て回るがやはり見当たらなかった。
「まさか…外に出ていったのかな!」
暦はあわてて荷物を置いて家を飛び出した。
「ぶちー! ぶち!」
家の近くを名前を呼びながら探していく。なりふり構っていれなかった。
「せっかく家族になったのになんで......みんないなくなっちゃうの…」
暦は心が寂しくなり寒空の中を涙を流しながら名前を呼んで探していく。
「やだよ…居なくならないで…」
しばらく歩いて探したが見当たらなかった。
すこし日も傾いてきた頃一度帰るためとぼとぼと帰路につく。
手袋をしている手は長時間の寒さに感覚がなくなっていた。
「ぶち…どこいったの…」
家に入るとさらに寂しさが込み上げてくる。自分の部屋に入って気が抜けたように座り込む。
「お父さん…お母さん…ぶち…なんで皆いなくなるの…」
考えるとどんどん寂しさが込み上げ、それが涙となって溢れ出す。
「帰ってきてよ…もういやだよ…」
するとベットの下から声がした。聞きなれたミャーという鳴き声。
「ぶち?」
ベット下を覗くとそこに丸まっているぶちの姿があった。
「ぶち! なんでそんなところに? おいで…」
ぶちは暦の声に反応してベットの下から抜け出した。暦は嬉しさでぶちを抱き締める。
「まったく心配したんだから…良かった…」
ぶちはまたミャーと声を出して暦の身体にすり寄った。
「ぶちあたたかいね…ほんとに…」
暦はかじかんだ手と心があたたまる気がした。
「ぶちもう勝手にどっかいっちゃだめだよ?」
ぶちは抱き締められながら暦の指にじゃれついていた。
「まったくこの子は…。. .....やっぱり一人は嫌だな…」
暦は家族を思い出す。
口うるさいお母さんも無口なお父さんもかけがえのない友達も、一人一人の声を思いかえす。
「嫌だよ…帰ってきてよ…神様世界を元に戻してください…」
暦は誰に聞かせる訳でもなくぽつりとつぶやいてベットに横になる。
「神様お願い…」
暦は探し回り疲れ、ぶちを抱き締めて目をつぶった。また外が一瞬光につつまれたことを暦は知るよしもなかった。
外はすでに朝日がさして小鳥がさえずっている。
そして暦の隣では暦を起こそうとぶちが顔に身体をすり寄せていた。
「ぶちくすぐったいよ…」
ぶちはミャーとひと鳴きする。暦は愛らしいその姿につい頬を緩める。
「うん! ぶちおはよ! おなかすいたの?」
ぶちはまたひと鳴きする。
「ちょっと待ってね?」
暦は身体を起こしてリビングに向かう。するとリビングからガチャガチャと音がした。
「えっ? まさか…」
急いで階段を降りる。
リビングの扉を開いてキッチンの方をみるとそこには見慣れた光景があった。
「暦? 珍しく今日は早いじゃないの」
いつのまにか暦の母親が帰ってきた。昨日強く願ったことが現実になった。
「お母…さん…」
「どうしたの? 死んだひとでも見るような目をして」
「ううん! お母さん…おはよ!」
「おはよう」
暦は泣きながら母親に抱きついた。
「本当にどうしたの?」
「ううん…なんでもない…でもこの間ひどいこと言ってごめんなさい」
「ううん…いいんだよ…もう暦も子供じゃないものね…」
暦は小さくうなずいたが、また話を続けた。
「それでもごめんなさい…」
母親は暦を抱き締めかえした。
「いいのよ!」
母親が暦の頭を優しく撫でた。
「そういえば暦はクリスマスなにが欲しい?お父さんに伝えとくわよ?」
「ううん…なにもいらないよ…」
「まだ甘えられるうちは甘えときなさい」
「うーん…それなら…」
暦は足元にいるぶちを抱き上げる。
「この子飼ってもいい? ぶちっていうの!」
「あんたいつのまに! まぁしょうがないね…」
「うん! お母さん! ありがとう!」
暦は自然と笑顔になった。
心のなかで家族が当たり前にいることの幸せをこれでもないくらいに暦は感じていた。
そしてこれからは心にもないことを言うことを止めた。
神様が気まぐれで1つ願いを叶えないように…