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きまぐれの神様はひとつ願いを叶えてくれた。1


 季節は12月。今年は雪が降るのが早かった。雪国に住む人々は文句を言いながら朝早く起きて雪かきをする。


 ここに冬の寒さに布団で立ち向かう少女が1人。ぬくぬくとまだ夢をみてるようだが、ふいに部屋のドアが勢いよく開く。


「こよみ! あんたまだ寝てるの? 学校でしょ? 起きなさい!」


「あと5分寝かしてぇ」


「そう言っていつも起きて来ないじゃないの! いいから起きなさい!」


 母親に叩き起こされた少女、時任(ときとう) (こよみ)。来年には札樽高等学校(さっそんこうとうがっこう)の2年生だ。


「うーん…わかったよぉ」


「ご飯出来てるから早く降りてくるんだよ!」


「はぁい…ふぁぁ」


 暦は母親の呼び掛けに大きなあくび混じりで返事をする。そして嵐のように母親が去っていく。これが暦の朝のルーティーンだった。


 暦は先ほどまで親友と化していた布団に惜しみながらもさよならをした。


「今日も寒いなぁ…」


 そういいながら朝の準備をして下の階に向かう。味噌汁と納豆、卵焼きといういかにもな朝御飯をテレビを見ながら食べていく。


「暦! 今日も雪降るらしいから暖かくして行くんだよ!」


「はいはい! わかったよぉ」


「はいは一回でしょ? 一体だれに似たんだか!」


 暦はいつもの母親の憎まれ口もひとつのBGMかのように聞き流す。朝御飯を食べ終わり、学校に行く準備を整えた。


「それじゃいってきます!」


「はぁい! いってらっしゃい!」


 玄関を開けると辺り一面が真っ白な雪に覆われていた。


「また降り積もったなぁ…」


 暦は新雪をサクサクと音を立てながら一歩ずつ進む。至る所で家の前の雪かきが行われている。雪国に生まれた暦には見慣れた光景であった。


 イヤホンを耳にはめ込みお気に入りの音楽を聴きながら通学するのが暦の日課である。周りの音は聞こえず自分だけの世界に浸る。


 しばらく歩くと肩を叩かれる感触がした。暦が後ろを振り返るとそこに親友の音無 こずえ(おとなし こずえ)がいた。暦はイヤホンを外す。


「暦おはよ!何回も呼んだんだよ!」


「ごめん!全然気付かなかった!」


 黒髪ショートカットですこしボーイッシュな暦とは違い、こずえは茶髪がかった髪のふんわりパーマをかけた女の子だ。

 

 こずえとは昔から家が近いこともあっていつのまにか親友と言えるほど仲良くなっていた。


「こずえは今日も朝から元気だね!」


「だって明日から冬休みだよ? テンションあがるでしょ?」


「あぁそうだっけ?たしか担任がそんなこといってたっけ?」


 暦は笑いながらとぼける。


「暦は人の話聞かないんだからぁ! おねぇさん将来が心配だよぉ」


「こずえのほうが妹っぽいよ?」


 二人は笑いながら冗談をいい合う。しばらく楽しく話していると学校に到着した。二人とも同じクラスで決められた席に座る。


 そのうち先生が来て、終業式の流れを説明する。暦はぼうっとしながら明日からなにしようか考えていた。


 いつもの見慣れた光景でこれが当たり前だと思っていた。終業式もおわりお昼には帰る支度を行う。


「明日から冬休みだが羽目を外さないようにするんだぞ!」


先生がテンプレートのような言葉をみんなに投げ掛ける。


「暦!一緒にかえろ!」


 暦はいつもお互いに用事の無いときはこずえと二人で帰っている。


「うん!帰ろ!」


 昇降口を出るとまた目の前には雪景色だ。


「そういえば暦! クリスマスはなにしてるの?」


「うーん…特に予定もないはずだよ? どうして?」


「それならうちに来なよ! 親もいないから二人でクリパーしよ?」


「うん! いいね!」


「じゃ決まりね!」


 二人は無事にクリスマスの予定も決まり他愛もない話に花を咲かせた。途中でこずえと帰り道が別れそこでバイバイする。


「暦! じゃまたクリスマスね!」


 こずえはまた元気よく手を振った。


「うん! またね!」


 暦も手を振り、お互いの家に帰っていく。しばらく歩くと家の前で母親が雪かきをしているのが目に入ってきた。


「暦おかえり! あんたも手伝いなさいよ!」


「やだよ! もうあとすこしで終わるじゃん!」


 暦は家の中に入っていく。後ろから「まったくもう」と母親のぼやき声が聞こえたが聞こえない振りをした。家に入り暦は一直線に自分の部屋に向かい制服から部屋着に着替えた。


 しばらくベッドの上で携帯で動画を見たりとゴロゴロしていたがいつのまにかに意識がなくなり眠ってしまった。


 そして母親の声に暦は目を覚ました。


「暦ご飯できたわよ!いつまで寝てるの起きなさい!」


「あと5分…」


「もう夕方よ!そんなこといってるとご飯抜きよ!」

 

 いつのまにかに日が落ち時刻は7時をまわっていた。


「うーん…わかったぁ…すぐいくぅ」


 暦は布団からとぼとぼと歩きだし、リビングに向かう。食卓にはオムライスと惣菜がいくつか並んでいる。暦は椅子に座りまだ働いていない頭でご飯を食べだした。


 両親はすでにご飯を終えて父親はテレビを見ながらソファでビールを飲んでいる。暦はふとこずえの言葉を思いだし話を切り出した。


「クリスマスこずえの家にいってくる! たぶん泊まりになるから」


「クリスマス? ダメよ? その日は家族でご飯に行くのよ! お父さんも昇進したんだから」


「いやでも約束しちゃったし…」


「レストランに予約もとったんだからダメよ!」


「なんで勝手に決めるの!」


「話を聞いてない暦が悪いんでしょ!」

 

 暦と母親の言い争いは段々とヒートアップする。母親の言葉ももっともなことは頭ではわかっていた。それでも暦は言葉を止められなかった。


「あぁもうみんな消えちゃえばいいのに!」


 そういって暦は自分の部屋に帰っていく。最後の言葉は本意ではなかった。ただ勢いで口から出てしまったのだ。


 母親との言い争いで疲れ果て、またベッドに横たわりふて寝をした。


 その時外が一瞬光ったことは彼女は気付くはずもなかった。




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