誰の指図も聞きません。私が正義です
「皆の者に宣言する!
僕はルクレッツィア・レイモンド公爵令嬢との婚約を破棄する!!」
会場に入るなり宣言したのは、この国の王太子エリアス・ヴァレーだった。その傍らにはべったり寄り添うシャルロット・ゾディ男爵令嬢。
「理由を聞かせてください」
冷静に返答するルクレッツィアに対してエリアスはイライラしていた。
「何があっても冷静な冷たいお前がイライラするんだ!僕は優しくあったかいシャルを愛しているんだ!これこそ真実の愛だ!彼女を正妻にする!」
「お気持ちは分かりますがシャルロットさんは男爵令嬢です。側室ではダメなのですか?」
「ダメに決まっているだろう!僕はシャルを愛しているんだ!そのシャルを側室にするなんてありえない!シャルは正妃に決まっている!」
エリアスの言葉で周囲はざわついていた。
婚約者が居るのに真実の愛とほざいたり、その婚約者を否定して婚約破棄を突きつけたりと。
立場も弁えず、何やってんだ。この王太子は……と。
「婚約破棄は承知出来ません」
「な、何故だ?そんなに王太子妃の座が欲しいのか!?」
「ルクレッツィア様、私とエリアス様は愛し合っているんです!婚約破棄を認めてください!!貴方はエリアス様を愛して無いでしょう?」
儚げなシャルロットは瞳いっぱいに涙を溜めルクレッツィアに詰め寄った。
「この婚約は王家が決めた王命だとお忘れですか?」
「それがどうした!父は僕の愛を分かってくださるはずだ!」
「話は聞いていた」
王妃と共に会場入りした国王が言葉を発した。
「父上!」
「エリアスよ、婚約破棄を認めて欲しいか?」
「もちろんです!」
「認めれば、貴様は王位継承権を剥奪され、王族籍からも排除されると分かっていての言動か?」
「そ、そんな?何故ですか?僕は愛する人と結婚したいだけです!」
「ルクレッツィア嬢とは王家とレイモンド公爵家との結束の証の婚約だ。
個人の感情だけで、勝手に破棄するなど許される訳がない。
王族が感情だけで動けば、国が滅ぶと何故分からない?そんな者に王位継承権を預けられると思うか?答えは否だ」
王の言葉にその場に居た者達は納得し頷いていた。
王太子と一人を除いては……。
「そんなのおかしいです!だって愛し合っている者同士が結ばれないなんて…」
「結ばれないとは言っておらん。格差のある愛なら、愛を取るのなら、身分を捨てろと言っているだけだ」
王は優しく諭した。そんな言葉を聞く耳を持たないかの様にシャルロットは王に詰め寄った。
「それがおかしいと言っているんです。王太子の立場で何故愛を諦めないといけないのですか?」
王が諭しても聞く耳を持たないシャルロットに皆が驚いて言葉を失っていた。
静けさの中言葉を発したのはルクレッツィアだった。
「シャルロットさん、正妃になるのは諦めなさい。私がエリアス様を伴侶に決めたのです。だからこそ、三男のエリアス様が王太子になったのですから。
エリアス様、貴方も本当は私を愛してるのでしょう?」
エリアスはルクレッツィアの言葉にビクッとした。
「私は貴方の弱い所も情け無い所も、そして出来ない事を出来ないと言わないで努力する姿が愛しいです」
「ルクレッツィア…。僕は、僕は何でも出来る君に嫉妬して、出来ない自分に失望して、何でも褒めてくれるシャルロットに逃げていたんだ。ごめんなさい」
「素直な貴方も愛していますわ」
床に座り込んだエリアスに笑顔で手を差し伸べた。
「な、なんなのよ!どうなってんのよ!?エリアス様、私を愛してるって言ってくれたじゃ無いですか!」
二人の様子を見て信じられないシャルロットだった。
「シャルロットすまない。僕は君に逃げただけなんだ…」
「私は女神の加護を受けて生まれたのですもの。私の思い通りにならない事はないし、私が正義なのです。
だって加護を持って生まれた者を虐げる者も国も滅ぶと言われていますから」
「その通りだ。ルクレッツィアの意思に反する事は国王である私でも出来ん。ルクレッツィアが、この国にいてくれるからこの国は女神の加護で潤っているのだ。もしルクレッツィアが他の国に行くと言ったら誰も止める事は出来ん。
今この国に居てくれるのは奇跡なのだ」
「女神様の加護を持って生まれたなんてずるいだけじゃないですか!」
女神の加護持ちのルクレッツィアにズルいと言い切るシャルロットに会場内は青ざめた。
「それが何か?ズルくて何が悪いのかしら?私が正義なのだから仕方ない事よ。それとも神罰が降りたいの?」
シャルロットは言葉を失い座り込んだ。
「シャルロットさん、エリアスの事諦めて下さいね。エリアスからの慰謝料は王家が払いますから安心してくださいね」
シャルロットに微笑みながら伝えた。
そして、ルクレッツィアは再びエリアスに手を差し出した。
「僕で良いの?」
「貴方が良いのです」
いつも凛としているルクレッツィアの優しい笑顔にエリアスも周囲の者達もキュンとしていた。
一年後ルクレッツィアとエリアスの結婚式は国を上げ行われ、ルクレッツィアはエリアスとの間に一姫、ニ王子を産んだ。
エリアスは国王になり、政務の能力は無かったが、政務はルクレッツィアが担当し、エリアスは子育てとルクレッツィアを癒す能力を発揮していた。国としてもルクレッツィアにしても下手に表に出たがる男より控えめなエリアスに満足し、ルクレッツィアは国を豊かにし幸せに暮らしました。
シャルロットはちゃっかりルクレッツィアの腰巾着に落ち着き、見目の良い旦那様を見つけて貰いこちらも幸せに暮らしています。
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