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紅蓮斬


 馬車は4人を乗せて東へと走る。


「ルルナさん、すごいですね! 馬車まで操れるんですか!」

「ふふっ。私の実家の近くに牧場があってね。小さい頃から馬に乗って遊んでいたから」


 ルルナが少し得意げに笑って見せる。


「あれだよ、ルークくん。適材適所と言うだろう? 脳筋タイプに頭脳労働をさせるのはこの世の最も愚かな事のひとつだよ。ボクたちは出来る事を出来る者がする事で、Sランクパーティーになれたのだ」


「ミーア? 聞こえているんだけど? 今日、脳筋って言うの2回目だよね?」

「わーわー! ルルナ、前見て、前!! 安全運転希望だよ!!」


 【紅龍】の馬車は丘を上り始めていた。

 今回の目的地はグストナム丘陵。

 そこにある、廃図書館を目指している。


「今回も秘伝書探しなんですね。図書館にあるものなんですか?」

「ふむ。良い質問だ。ボクたちが目指しているのは、太古の昔に沼地に飲まれた古い図書館。今ではアンデット系のモンスターの巣窟になっているらしい。つまり、かなりの時をモンスターの住処として過ごしているのだよ。探索する価値は充分にある」


 ルークの向かいに座っているライカも「ふむふむ」と頷いて、口を開いた。

 彼女も見習いのために何かを付言してくれるのだろうか。


「ところでさ、ルークくん! そろそろ敬語、ヤメない? あとさ、わたしたちの事は呼び捨てでいいよ!」

「あー。ライカはすぐに話の腰を折る……。その分野にかけては天才的だ」


「でしょー? わたしとルルナは19歳だし、ミーアは18歳! ほんの少ししか違わないんだから、変な遠慮はなしなし!!」

「うむ。皮肉が全然通じていない。ボクもまだまだ修行不足だな」


 突然の申し出に困るのはルーク。

 【紅龍】の見習いになったとは言え、彼女たちは自分との実力差が大きすぎる、尊敬すべき偉大な冒険者。さらに年上。

 それを軽々に呼び捨て、タメ口で接しろとは、なかなか酷な注文だった。


 だが、その尊敬する冒険者の1人であるライカがそうしろと言っているのならば、それに従うべきではないかとも考える。

 眉間にしわを寄せて自問自答のルーク。

 そんな彼に、パーティーのムードメーカーであるライカは更に続けた。


「ほら、戦闘中とかさ! 咄嗟の時には呼び捨ての方が便利だし! あと、タメ口の方が指示もすんなり通るし、連携も捗るし!!」

「た、確かに! ライカさんの……ライカの言う通りで、じゃない! 言う通りだ!!」


 ルーク渾身の一撃は、確かにライカに届いていた。


「わぁー! なんかすごく仲良くなった感じがする! ルークくん、素直で偉い!!」

「ありがとうござ……ありがとう。慣れるまでは大変そうだなぁ」


「ふむ。確かに、端的な識別コードとして呼び捨ては優れている。タメ口と言う俗っぽい表現はボクの趣味ではないが、無駄な敬語は意思疎通に齟齬が生まれる。ボクもライカの提案に賛成だ」


「分かった。ミーアの事も、頑張って親し気に呼んでみるよ!」

「いや、親し気は求めていないのだが……。ふむ、君がそれでモチベーションを維持できるならば、まあ良いだろう」


 少しずつ中を深めていくルークと【紅龍】の3人娘。

 しばらくすると、馬車の運転をしているルルナが3人に告げた。


「そろそろ到着するよ! すぐに戦闘になるかもしれないから、準備を! 特にルークくんはきっちりと心構えをしておいてね!」

「はい! 分かりました、ルルナさん!!」


 ルルナは頬を膨らませてルークに抗議する。



「どうして私にだけ未だによそよそしいのかな? ……怒るよ?」

「ああ! すみません! ルルナさんってリーダーだから、つい! あっ、また!!」



 その後、沼地の手前でルークはルルナにお説教をみっちりと受け、気持ちが引き締まったのだとか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 グストナム丘陵の沼地は、実におどろおどろしい雰囲気を垂れ流していた。

 その奥には目的地の廃図書館も見えるが、そちらは景気よく不気味な雰囲気を放出しており、ルークはいささか尻込みをする。


「ミーア。この沼地って毒とかありそう?」

「ふむ。待ちたまえ。『リーブラ』。微量の毒と麻痺属性を検出したが、ボクたちの装備ならば問題ないだろう」


「じゃあ、早いところ駆け抜けちゃおう! 装備汚れるの嫌だし!」

「ライカはまた、そんな事を言って。装備なんて消耗品なんだから、汚れたら新しいものに変えればいいだろう」


「あー! ルルナこそまたそーゆう女子っぽくないこと言って! せっかく可愛い顔してるんだから、オシャレしなよー! ねー、ルークくん?」


「みんなすごく平然としてるけどさ、グールが両脇の森とか沼の中からいっぱい出てきてるんだけど!!」


 へっぴり腰のルークの先を行く3人娘。

 彼の言う通り、沼地の毒素が余程合うのか、元気なグールが20体ほど湧いて出る。

 グールくせに肌つやも良く、彼らにとってここは余程住み心地が良いらしい。


「ライカ! 先に10時の方向の集団を蹴散らして! ミーア! 浄化魔法で沼地の毒素を抜いて! じゃないとグールが延々と湧いて来ちゃうから!」


「はーい! じゃあ、やるね! 煉獄の炎よ、我が声に応えよ! 『インフェルノ』!!」


 ライカの放った火球が集団のグールの1体に当たると、冗談みたいな火柱で8体のグールが消し炭と化した。


「やれやれ。ライカの魔法は派手過ぎる。もっと厳かに行うものなのだよ、魔法と言うものは。詠唱省略、『クリアミストラル』」


 反対側では、ミーアが癒しの風と呼ぶにはあまりにも力強い浄化魔法で、淀んでいた沼地を魚が住めそうな澄んだ水に変えて見せる。

 これにはグールも不満顔。


 「何してくれるんだ」と言わんばかりに、先頭を行くルルナに襲い掛かる。


「へぇ、たった10体で私の相手が務まると思ってるんだ? だとしたら、ちょっとショックだな――はぁぁっ!」


 前述の2人の魔法は目で見ても凄さが分かるものだったが、ルルナの剣技の凄さは肌で感じるものだとルークは思う。

 まったく無駄な動きがない上に、ライカとミーアの魔法を完全に把握したステップで次々にグールを斬り伏せていく。


 初陣で成果を挙げるのはなかなか難しい。

 だいたいの者は醜態を晒し、それを今後の教訓として生かす。

 対して、優れた者ほど冒険者として華々しいスタートを見せる。


 ルークは多数派だったらしく、見習いらしく騒動の中心で何をしたら良いのか分からずに立ち尽くしていた。


「せやぁっ! ルークくん! 最後の1体はキミが倒すんだよ!」

「えっ!? それはまだ早いと思う! そんな急にモンスターと戦えないって!!」


「あははー。モンスターと戦う時は、だいたい急な事が多いよー? グールってなんだかあなたと名前似てるし! 怖くない、怖くない!」

「ふむ。ここで勢いをつけて新入りの尻を叩く作戦か。悪くないと思うのだよ」


 ルルナの指導はスパルタ式だった。

 そして、ライカとミーアもそんなリーダーを信頼しているため、あえてルークに手を貸そうとはしない。


 ルークは覚悟を決めた。


 この程度で怯んでいてどうする。

 自分は冒険者になって、夢を叶えるのではなかったか。

 ならば、ここで退くなどと言う選択を取れるはずないではないか。


「よ、よぉし! 来い、この野郎! 『紅蓮斬』!! うおわぁぁぁっ!?」


 ルークの放った《炎主剣士》の固有剣技は威力だけならルルナに並ぶ。

 見事にグールを一刀両断し、ついでに亡骸を火葬してあげるサービス付き。


「おおー! やっぱりすごいね、その技! ルルナと一緒に前衛で戦ってくれたら、わたしは安心して魔法が使えそうだよー」

「うむ。それに関しては同感だが。……まだしばらくは熟練度の向上に努めるべきだろうね」


 ルークは剣技の勢いに引っ張られ、沼地に頭から突っ込んでいた。

 ミーアが浄化してくれていて本当に良かった。


「確かに身のこなしは未熟だね! だけど、ルークくん! モンスター初討伐、おめでとう!!」


 【紅龍】のリーダーから贈られた賛辞は、ルークの成長速度を飛躍的に向上させた。

 その成果が現れるまで、それほど時間は必要としない。



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