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鉄拳制裁


 普段と同じく低めのテンションで気怠い表情のミーア。

 だが、その瞳の奥には明らかに怒りの炎が燃えていた。


「はっ! ははっ! そのバッジは偽物に決まってる!! なぁ、お前らぁぁ!? なにしやがる! おい、引っ張るな!!」


 ニコラルドは鈍いようで、ミーアの静かな怒りに気付いていない。

 対して、彼のパーティーメンバーは敏感であった。


 「いや、我々はちょっとあっちに行きますんで! ごゆっくり!!」とペコペコ頭を下げて、バカなリーダーを引きずって行った。


「……やれやれ。相手の力量も見定められない者がリーダーのパーティーとは。仲間の彼らが少しばかり不憫だよ。なあ、ルークくん?」

「そうですね。ミーアさんの実力が分からないなんて!」


「あー。うー。……そうか。君は何と言うか、もっと冒険者として色々学んだ方が良い」

「はい! 頑張ります!!」


 自分の隣に立っている新たな仲間がニコラルドより鈍い事に気付いたミーア。

 彼女は「ルークの実力を舐めるな」と言う意味の発言をしたつもりだったのに、ルークはのんきな事を言っている。


 挙句の果てには「俺が【紅龍】のバッジ付けてたら、確かに偽物感がすごいですね! あはは!」などと言い出す始末。

 ミーアは「あー。ああー。……そうだな」とこめかみを押さえながら、ルークの手を取って冒険者ギルドの入口まで連れて行くのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「私が行った方が良かったんじゃないかな? あんな手合い、口で言っても分からないだろ?」

「ヤメてくれ……。ルークくんだけでも大変なのに、ルルナまで脳筋理論を口にしないでくれるかね。ボクの脳にだって処理能力の限界と言うものがあるのだよ」


「なっ!? の、脳筋って言うな! 私はただ、無礼なヤツらには鉄拳制裁が必要だと、シンプルな論理で!!」

「あっははー。ルルナ、そーゆうのが多分ね、脳筋って言うんだと思うよ!」


 【紅龍】の3人娘を見て、ルークは気付いたことを素直に口に出した。


「3人とも、この前と装備が違うんですね」


「そりゃそうだよー! この間はただのお出掛け! 今日はこれから冒険者としてのお仕事! ちゃんと装備を整えないと、すぐに命の危機だよ!!」


 ライカはブーツを履いている以外は、ブラウスにミニスカートという出で立ちで、あまり冒険者には見えなかった。

 ルークがその事を伝えると、ライカは反論する。


「失礼だなぁ! この服、とっても希少価値の高い糸の素材から作った法衣なんだよ! ちょっとの炎や氷くらいなら弾いちゃうんだから!!」

「へぇー! それはすごい!! じゃあ、ミーアさんの服も?」


 ミーアはインナーの上にローブを羽織り、手には杖を持っている。


「うむ。ライカと同じ素材で作られた法衣だ。それよりも、この杖を見たまえよ! 古代樹から切り出した木材とアシンドラと言う名の鉱石が魔力の底上げをしてくれるのだ! なにより、この見た目! ルークくんならば分かるだろう!?」


 いつになく興奮気味のミーアを見て、ルークも察する。

 「これは装備を褒めて欲しいんだな!」と思った彼の考えに間違いはなかった。



「なるほど! その杖で殴ったら痛そうですね!」

「あー。ああー。そうか、君もルルナと同じ、脳筋属性だったのか。残念だよ……」



 考えは間違っていたのに、吐き出す言葉を間違えたルーク。

 元の気怠い表情に戻ってしまったミーアを不思議そうに見つめる。


「ルークくん? どうして私の装備には興味を示してくれないのかな?」

「えっ? いや、だってルルナさんは見るからに騎士って感じだったので。いいかなって!」


 ルルナはレザーガードを身に纏い、腰には剣が差さっている。

 スカート丈にルルナのこだわりがあるのだが、当然ルークは気付かない。


「仲間外れ……。って、それよりもルークくん! キミの恰好の方が問題だ! 装備は!? 武器もない!!」

「一応、手持ちの服の中で1番丈夫そうなのを着て来たんですけど」


「冒険者としても自覚が足りてない!! ちゃんと秘伝書の時の報酬を支払ったでしょ? それで普通は装備を整えるよね?」

「ああ、あのお金なら、俺がいない間の店の維持費に当てさせてもらいました!」


 ルルナも額に指をあてて、苦いコーヒーを飲んだような顔をする。

 それを見て、ニコニコ嬉しそうなのがライカ。


「どうしてライカはそのように楽しげなのか、ボクに分かるように説明してくれるかね?」

「えー? だって、なんだかパーティー結成した時を思い出すなぁって! やっぱり、初めての冒険に出る子を見るのって、なんだか嬉しいじゃない!!」


 ライカの明るさは、いつも【紅龍】を照らしてくれる太陽のようであり、日の光を浴びてなお暗い顔をしているようではSランクパーティーは名乗れない。


「はぁ。もしかしたらと思って、馴染みの武具店に発注しておいて良かったよ。はい、これ。ルークくんの装備だよ」

「うわっ! いいんですか!? 俺、もう銅貨20枚しか持ってないんですけど!?」



「ルークくんにはパーティーの財布番だけは絶対にさせないからね」

「うむ。ルルナに同意するのだよ」

「あはは! わたしは楽しそうだからいいと思うけどなぁー!」



 そうしてルークはルルナから受け取った装備を身に付ける。

 インナーの上から着るタイプだったので、その場で事は済んだ。


「なんだかものすごく高そうな気配を感じますね」

「うん。ちょっとだけ奮発したよ。私のレザーガードと同じ、竜の外皮が素材だからね。それから、こっちがキミの剣。無銘だけど、良いものだよ」


 ルークは「自分の剣」と言う響きに魅了され、お礼を言うなりすぐに抜刀する。

 美しい刀身にしばし見惚れる。


「よかったねぇ、ルークくん! ルルナってばね、すっごく真剣に選んでたんだよ! ねー? ルルナもよかったね! 気に入ってもらえて!」

「う、うるさいな! ほら、もう行くよ! 馬車を外に停めてあるから!」


 ルルナが指さす先には立派な馬車があった。

 ルークがタベルトンから乗って来たものは馬車ではなかったのかと思いそうになるほどに、頑丈そうな造りをしている。

 馬も精悍な顔つきで、いかにも速く走りそうに見えた。


 その馬車の隣に、貧相な馬車も停まっていた。

 そこから顔を出すのは、先ほどルークに絡んで来たニコラルド。

 彼らのパーティーも出発するところらしかった。


「な、なんで、てめぇみたいな落ちこぼれが【紅龍】に入れたんだよ!? ……ははあ! 分かったぞ! さては弾避け用に買われたな!? だよなぁ! じゃなけりゃ、こんな落ちこぼれ、わざわざパーティーに入れたりなんかしねぇもんなぁ!!」


 ニコラルドはあくまでもルークを貶める。

 それは、ニコラルドにとっても【紅龍】は天の上の存在であり、自分よりも見劣りするルークがそこにいる事が気に入らなかったからである。


 ルルナが険しい表情になり、剣を抜いた。

 そこからはあっと言う間の展開だった。


「さっきからうるさいな――君は」


 ルルナはニコラルドを威嚇するように剣を振るう。

 最初から当てる気がない一振りではあるが、ニコラルドは確かに死の予感を感じた。

 この時点で力の差はハッキリと分からされる。


「なぁ!? ひ、ひぃぃぃぃ!? な、なにしやが……なにするんですかぁぁぁ!?」

「誰が落ちこぼれだって? 言っておくけど、【紅龍】に落ちこぼれなんていないから。早く行かないと、次は当てるよ?」



 ニコラルドはようやく理解した。

 喧嘩を売る相手を間違えていた事に。


「す、すみませんでしたぁぁ!! おい、早く出せ! もたもたすんな!!」


 貧相な馬車が、猛スピードで去って行く。


「俺のせいで無用なトラブルが……。申し訳ないです」

「別に。私が気に入らなかっただけだから。さあ! 私たちも行くよ!!」


 【紅龍】と見習い冒険者の4人は馬車に乗り込み、目的地へと走り始める。

 期待と不安の入り交じる中、ルークは初めての冒険へ向けて静かに闘志を燃やしていた。


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