伝説の魔女エルミレア
【紅龍】の馬車はハウスのあるストローツ村から、さらに南西へと進む。
ルークが解読したプレートに書かれていた座標へと向かうためである。
「もう1回だけ言うけどさ。あのプレートは昔の人の表札みたいなもので、行っても収穫なんてないかもしれないよ? 俺が見たところ、帝国領の地図座標しか書かれてなかったし」
まだまだ駆け出しの冒険者であるルーク。
自分がきっかけで仲間たちに無駄足を踏ませる可能性について危惧していた。
ちなみに彼が「もう1回だけ」と言ったのは既に5回目である。
男子たるもの、せめて2回くらいでヤメておくべきではないのか。
「分かってないなぁ、ルークくん! 別にね、わたしたちは常に成果や収穫を求めて冒険者をしているわけじゃないんだよ?」
「でも、ライカの力が。ミーアとルルナもそうだけど、優秀な力が無為に消費されるのはもったいないと思うんだ」
ライカは「もぉー。ルークくん、意外と効率重視でロマンがないなぁ」とため息をつく。
話の続きはミーアが引き取った。
「ふむ。ルークくんのノブレス・オブリージュな思想も実に結構。だが、ボクたちは知的好奇心を優先する事もあるのだよ。秘伝書を集めている事についてもそう。常に明確な目的を持っていると、肩が凝ってしまうとは思わないかね? 時には本能のまま突き進む事もまた、面白きことなのだよ」
ルークもようやく「まあ2人がそう言うなら」と納得する。
ちなみに、その言葉が彼女たちに届くことはなかった。
「ミーアは肩凝らないでしょ! だって、胸がスラっとしてるもんねー!!」
「む、むぅ! 胸部に無駄な脂肪を付けている分、俊敏性に難があるライカに言われたくないのだよ! それから言っておくが、ボクは頭脳労働に栄養を使っているから! 胸部に回す栄養がもったいないのだよ!」
「あー!! 今、わたしの事を胸に栄養が行ってるからバカだって言ったでしょ!?」
「ほほう。ライカにしては実に察しが良いではないかね。もしかしてこの間に胸が萎んだのでは?」
何やら不毛な言い争いが始まったため、ルークは馬を操るルルナの隣へと移動した。
このまま2人の会話を聞いていると、数分後には「「ルークくんはどっちがいい!?」」と、どちらを選んでも大けがする質問を投げつけられる未来を見たからである。
ルーク・ファシード、世界中の文字だけではなく空気も読めるようになってきた。
「お疲れ様、ルルナ。地図を見ようか?」
「大丈夫。実はもう既にかなり近くまで来ているんだ。ただ、湿地帯が広がるだけで特に何もないね」
「あそこに見えるのは? なにかの遺跡? ……いや、墓地かな?」
「うん。この辺りの目に付く建造物はあれだけだね。近づいてみよう」
帝国領の国境付近。人気のない湿地帯にある墓地。
こんな条件が揃えば、当然アンデット系のモンスターがわらわらと湧いている。
名もなき墓地も多分に漏れず。
ゾンビの類だと思われるモンスターがそこらを我が物顔で歩いていた。
「よし! ここは俺が! 『紅蓮斬』なら効果的だと思うし! 任せといて」
「詠唱省略! 『インフェルノ』!! それぇー!!」
ルークの熱意はゾンビの群れと一緒に、ライカの超魔法によって灰になった。
これで中等魔法だと言うのだから、彼女の魔力は恐ろしい。
馬車から顔を出して、ひょいと巨大な火球を放つライカ。
無邪気な表情でルークにウインクする。
「ルークくん、なにか言った? ごめん、爆発音で聞こえなかった! えへへー!」
「いや、何も言ってない。自分の修行不足を痛感したところ」
【紅龍】は無人の湿地帯となった名もなき墓地の探索を開始した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ライカが飛翔魔法で空から周囲を見渡して、ミーアは感知魔法で辺りのモンスターに警戒する。
ルルナとルークは唯一の建造物である巨大な墓石を調べていた。
「ものすごく立派な墓石だなぁ。ん、何か書いてある。いてっ!?」
「もう、不用意に近づかない! これ、結界が張ってあるね。お墓に結界って、すごく珍しいよ。……せぇぇやぁっ!!」
「えっ!? 結界は!?」
「大丈夫。今、私が斬ったから。もう近づいても平気だよ」
「いや、何と言うか、お墓だし。道徳的に問題はないのかなって」
「何言ってるの? 遺跡なんかは古代のお墓な事も多いし、そんなこと言ってたら冒険者なんてやってられないよ」
ルルナの言う事が正しい。
だが、心情的にはルークの意見にも同意したくなる。
ルーク・ファシード、冒険者として二律背反に遭遇していた。
「おーい! 空から見たけど、やっぱりこの辺りには何もないよー!! となると、やっぱりこのおっきいお墓が怪しいね!」
「ボクの感知魔法にもモンスターは引っ掛からないのだよ。ライカの魔法で全て消滅してしまったようだ。」
4人が墓石の前に集合した。
墓石を調べたミーアが「何の鉱石かボクにも分からないのだよ」と告げる。
そうなってくると、いよいよお宝の匂いが強くなってきた。
ならば、記されている文字を解読せねば。
《翻訳者》の出番である。
「ええと、これは……。エルミレア、ここに眠る。だって」
ルークの流れ作業のようなあっさりとした解読に、3人娘が抗議の声を上げた。
「エルミレアって、あの伝説の魔女のエルミレア!? うそー!! もう死んじゃってたんだぁ……。いつかわたしが倒そうと思ってたのにぃー」
ライカの落胆が大きかったため、ルークは一応確認する。
「有名な人なの?」
「まったく、古書店の元店主がなんと嘆かわしい。魔女、エルミレア。閃光の魔女と言う異名を持つ、何百年も生きていた魔女なのだよ。冒険者の間でも生きているのか死んでいるのか不明だったのだがね。まさか、こんな寂しいところに埋葬されていたとは」
ルーク古書店は魔導書の鑑定業務を行ってはいたものの、積極的に魔導書を仕入れてはいなかった。
理由はシンプル。ルークが魔法を使えなくてなんだか悲しくなるからである。
「よっ、と! みんな、見て。明らかにここの足場だけ材質が違う」
「ホントだー。これはもう、間違いなくなにかあるね!」
「うむ。伝説の魔女の墓にしてはお粗末な造りなのだよ」
ルークにはサッパリ分からないが、3人娘には違いがハッキリと分かると言う。
彼の名誉のために言っておくと、普通の人間には絶対に分からないレベルの微差である。
つまり、【紅龍】がおかしい。
「さあ、掘り出そう。私が持ち出すから、ライカとミーアは並べてくれる? ルークくんは解読の方をよろしく」
リーダーの指示に3人が了解する。
墓荒らしの時間がやって来た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから1時間ほど、念入りにエルミレアの墓を調査した【紅龍】。
出て来たものは、魔女の遺骨と思われるものが入っていた壺と、古びた本が1冊。
だが、ルークが開こうとしても表紙が溶接されているかのようにピタリと閉じたまま、どう頑張ってもビクともしない。
「これは……。封印魔法が施されているのだよ。貸してみたまえ。『アープ』。うむ。これで良いだろう」
万能《治癒士》ミーア・カートレット。開門魔法もお手の物。
もはや治癒魔法を使う事の方が少なくなっている。
「おお! 開ける! ええと、表紙には禁術の書って書いてある。さて、中身は……ぐっ!?」
次の瞬間、ルークの体に異変が起きる。
過去に2度秘伝書を解読しようとした時に似ていたが、明らかに違うのは「魔力が体を逆流してくる」と言う感覚をルークがハッキリと認識した点であった。
「ぐっ、ぐぁぁあぁぁぁっ!? うぅ、あぁぁぁぁっ!!」
禁術の書から逆流して来た魔力は、ルークの体の中に住まいを構えたようであった。
人間の体には自分のものではない、例えば他人の臓器を移植した際などにそれを排除しようとする反応が時折起きる。
それを拒絶反応と言う。
今のルークはまさしく未知の魔力に対する拒絶反応を起こし、ふらりと力なくその場に倒れ込んだ。
「きゃっ!? る、ルークくん!? わわっ、すごい熱! ミーア、回復! 回復!!」
「う、うむ。『キュアリー』! ……おかしい。効果がないのだよ。『ダズ・キュアリー』!! これは、回復や治癒魔法でどうにかできる状態ではなさそうだ」
高等治癒魔法を受けても、ルークの容体に変化はない。
ルルナも内心は穏やかでなかったが、リーダーとして努めて冷静さを保ち、適切であると思われる判断を下す。
「とにかく、ハウスに帰ろう! 2人は馬車に荷物を載せて! 私はルークくんを抱えていくから!」
そこからの行動は実に迅速。
馬に無理させて、最短距離を選び、【紅龍】はストローツ村へと急ぎ帰参する。
ハウスに帰りついてもなお、ルークの意識は混濁していた。
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外れスキル《目覚まし》~雑魚スキルだと言われて実家から追放されたけど、実は眠っている神々を起こすことができるスキルでした。今更帰ってこいと言われても遅い。これからは目覚めた神々と最強の領地を作ります~
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