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祝勝


 【紅龍】は森の奥まで到達していた。

 そこでルビーゴーレムを5体ほど倒したのち、回れ右して今度は来た道と逆の方へと進攻する。


 その道中で別のパーティーと遭遇した。

 モンスターとは出会っていない。


「ああ、【紅龍】の! あんたたちが奥から出て来たって事は、これ以上先にはもうモンスターがいないってことだな?」

「うむ。ボクたちが片付けた分で奥地の魔物は終わりだったようなのだよ。見たところ、君たちも獲物を求めてこちらに来たように見えるが?」


 ミーアの質問に、リーダーと思しき青年が答える。


「そうだ。我々で手に負えるモンスターは全て討伐した。と言う事は……」

「うむ。どうやらこの森の大量発生していた魔物は全て退治し終えたようだな。では、入口に戻ろう。ギルドの責任者に報告をして、お仕事終了だ」


 ルルナとライカも同意して、【紅龍】ともう1組のパーティーは一緒に森から抜け出した。


 道中、青年に「ところであんた、どうしてその子を背負ってるんだ?」と質問されたルーク。

 当然の疑問だった。むしろ、聞かない理由を知りたい。


「ええと、これはですね。まあ、介護みたいなものです」

「せめて修行と言ってくれたまえ。常に体に負荷をかける事で、ルークくんの身体能力向上の手伝いをしているのだよ、ボクは」


 ミーアが屁理屈を解説していると、森の入口には全てのパーティーが既に集結していた。

 【紅龍】がその場に加わると、「わぁぁ!」と場が沸く。


「さすがだな! 【紅龍】さん! 4人とも怪我の1つもしてねぇぞ!!」

「ルルナさん、剣技見ました!! すっげぇ華麗でした!!」

「ライカちゃんの魔法も見たぞ! 相変わらず無茶苦茶だけど可愛いから良し!!」


 ミーアを背中から下ろして、ルークは大人気の2人を見る。


「ん? 私をじっと見て、どうしたの? もしかして、怪我でもした?」

「いや、ルルナとライカの知名度と言うか、有名人のオーラに圧倒されて」


 するとライカが「にっひっひー」と笑って、「よーく耳を澄ませてみて!」と言う。


「ミーアちゃん! 今度はオレの背中に乗ってくれぇ!!」

「ルーク! お前もすごかったぜ!! オレたち、ギルドに戻ったら周りのヤツらに言っとくよ! ルーク・ファシードは落ちこぼれなんかじゃなかったってさ!!」


 ルルナとライカに対する声援が多い事には変わりない。

 だが、少ないながらもルークへの称賛の言葉は彼に伝わり、それはずっと彼が続けて来た努力が小さいながらも実をつけた瞬間でもあった。


「ちょうどいい運動になったし、目的も達成できたようだね。私は報告に行ってくる」

「いってらっしゃーい! うむうむ、わたしも大満足の依頼だったよー!!」

「ふむ。ルークくんのお披露目としては、まずまずの成果なのだよ。……おや、あれは」


 ミーアの視線の先には、【雷の牙】の馬車があった。

 ボロボロになったジェフリーが、仲間を収容している。


 それを見て、ルークは思わず彼らに駆け寄った。


「……なんだ。笑いに来たのか!? ルーク、てめぇ!」

「いえ、怪我人が多いようなので。大丈夫ですか。俺の肩にどうぞ! ゆっくりで大丈夫です!! さあ、あなたも手を! 遠慮は無用です!」


 【雷の牙】のメンバーは、ルークに「すまねぇ。助かる」と感謝して「ギルドでは失礼な事を言ってすまなかった」と謝罪した。

 その様子を見ているジェフリーは、何も言わなかった。


 より正確な表現をすれば、何も言えなかった。


 逃げ去るように【雷の牙】の馬車は走り出していく。

 ルークは「怪我人をミーアに診てもらえば良かった」と思いながら、自分の馬車へと戻る。


「このお人好しめ。あれだけバカにされたヤツらに手を貸す理由が分からないのだよ」

「こーゆうとこがルークくんのステキなところじゃん! わたしは好きだよ!」

「ライカの意見に一票。じゃあ、私たちもハウスに帰ろうか。帰ったら祝勝会でもしよう」


 こうして、新生【紅龍】の初依頼は大成功で幕を閉じたのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから数時間後。

 ルドウィックにあるファシード家の屋敷では、ジェフリーの通信魔法によって、にわかには信じがたい情報がもたらされていた。


「なにをバカな! ルークが、あの【紅龍】のメンバーになっていただと!?」

「つまらない冗談はよして。《翻訳者》としてなら百歩譲って分かるけれど、剣を振るっていたですって!?」


 屋敷には当主でありルークやジェフリーの父であるダドリック。

 同じく母のアンネロッテ。そして次男のサイラルドがいた。

 ジェフリーからの通信魔法を受けたサイラルドが、慌てて両親を通信室へ連れて来る。


 それほどの内容であった。

 落ちこぼれだと判断し、家名を守るためにファシード家から追い出したルークが、帝国屈指のSランクパーティーの【紅龍】に加わっていると言う。


 冗談にしては笑えず、事実だとすれば聞くに堪えない内容だった。


「ジェフリー。お前、嘘をつくなよ。もっとユーモアのある弟だと思っていたのに」

『……嘘じゃねぇ。サイラルド兄さまだって、その目で見たら腰抜かすぜ。……あいつは、ルークは。……今じゃ立派な冒険者になってやがる』


 いつになく神妙なジェフリー。

 陽気でいつもルークを虐めていた三男が、落ちこぼれの末っ子を「立派な冒険者」と言う事自体が、彼の性格を考えると異常事態だった。


「これは……。早急に事実を確認せねばなるまい。万が一の場合は、実に面倒な事になる。くそっ。ジュリアスが不在だと言うのがまた間の悪い!!」


 ダドリックが憤るように、切れ者で優秀な長兄・ジュリアスがこの場に居合わせてくれれば、恐らく正しい答えを授けてくれたはずである。

 だが、彼は現在遠征中の身。


「あなた、ジュリアスに連絡を取りますか?」

「バカを言うな! これは間違いに決まっている! ジェフリー、見損なったぞ!!」


『父上、そう仰せになるのならば、ご確認ください。オレは今、リンガラムの街にいます。【紅龍】のハウスがどこにあるのかは存じませんが、この辺りに居ればそのうち出会えるでしょう。では、これにて』


 冗談好きのジェフリーが終始ニコリともせず、通信を終えた。

 ダドリックはサイラルドに申し付ける。


 怒りと戸惑いを隠そうともせずに。

 この冗談みたいな事実を冗談にして参れと。


「リンガラムへと急ぎ出立せよ! 【紅龍】の動向を探って来い! いいか、ルークにはもちろん、【紅龍】にも気取られるでないぞ!!」


「かしこまりました。まあ、ジェフリーの出来の悪い嘘をしっかりと見定めて参ります。恐らく、依頼に失敗でもして腹立ち紛れについた戯言でしょう。ふふ、まだまだあやつも子供ですな」


 余裕たっぷりのサイラルドは、その日のうちに身支度を整え、リンガラムへと旅立った。

 その表情から余裕が消え去り、顔色が真っ青になるまでそれほどの時間を必要としないのだが、それはまだ未来の話である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あんた! やったんだってね!? 飲みな! 一人前の仕事をこなした男には、酒を飲む権利がある!! さあ、飲みな!! そして歌いな! 騒ぎな!!」


 ストローツ村にある【紅龍】のハウスでは、村人まで巻き込んでの祝勝会が行われていた。

 今日の主役はもちろんルーク。

 料理番を務めるドロシーが彼に酒を勧める。


「いや、俺、酒は苦手で……」

「なんだとー! ルークくん、ボクの酒が飲めないと言うのかね!?」


「ちょ、ミーア!? うわっ、お酒くさっ!! どんだけ飲んだの!?」

「ルークくん、お姉さんがお酒注いだげるー。はい、どうぞー。あははは!」


「ライカ!? それ、俺じゃなくて立てかけてある装備!! ダメだこの2人!! ルルナぁ!!」

「うん? どうしたの?」


 ライカとミーアの酒癖は非常に悪かった。

 酒は飲んでも飲まれるなと言うが、彼女たちは戦場では無類の強さを誇るのに、アルコールを前にするとただのか弱い女の子になるらしい。


「2人が酔っぱらってとんでもない事に! 助けて!!」

「そうなんだ。じゃあ、ルークくんも酔わないと。はい、口を開けて? 私が飲ませてあげるから。大丈夫、怖くないよ? 酔ったら気持ちよくなるから、ね?」


 訂正事項がある。

 【紅龍】の3人娘は全員が最悪の酒癖だった。


 その晩の騒ぎは明け方まで続き、翌日になるとメンバー全員が激しい頭痛と吐き気に悩まされたと言う。

 モンスターに勝って、その祝勝会で酒に負けるとは、最強冒険者パーティーにも思わぬ弱点があったらしい。



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