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雷の牙


 リンガラムから馬車で30分ほど走ると、今回の依頼書の目的である「大量発生している魔物の討伐」の場所、近隣の森へと到着する。


「ところで、その魔物ってどんなヤツ?」


「あれ? ルークくん、依頼書見てないの?」

「ルルナ、見せてあげてないのぉ!? ひどいんだー!!」

「ライカもボクも見せてあげていないのだよ」


 ルルナが「ごめん。いつもの調子でやってしまった。気を悪くしないでくれるかな?」と、ルークに「ぼっちにしてごめんね」と謝る。

 彼はまったく気にする様子もなく、依頼書を見せてもらった。


「なるほど。バレットドールの大量発生か。これってアレだよね? 無機物系モンスターで、水を銃弾みたいに集束させて攻撃してくるって言う」

「わぁー! ルークくん詳しい! どうして知ってるの?」


 ライカがパチパチと手を叩いてルークを褒める。

 どうやら、ルルナはスパルタ方式で彼を鍛えるつもりらしいが、ライカは褒めて伸ばす方針のようである。


「古書店をやっていた時に何冊かモンスター図鑑の解読もした事があって。それで、自然と頭の中に情報が残っていたと言うか」

「ふむ。記憶力に優れているのは稀有な才能なのだよ。瞬時に情報を頭の中からアウトプットする事は、自分はもちろん仲間の助けにもなるのだからね」


 ちなみにミーアは「勝手に育っていくのを見守るのだよ」的な方針である。


「話が早くて助かるな。ただ、図鑑の情報と実際に立ち会った時のモンスターは、当たり前だけど違うよ。この魔物はルークくんを基準にすると結構強い。気を引き締めてね」

「分かった! 足を引っ張らないようにする!! ところで、質問してもいいかな?」


「よぉし! ライカお姉さんが答えてあげる! 何でも聞いて!!」

「もしかしたら初歩的な事なのかもしれないけど。この、討伐数に応じて報酬を分配ってあるじゃない? それをどうやって数えるのかなと思って。自己申告?」


 ライカは腰に手を当てて「ふっふっふー」と笑う。


「それはだね、冒険者ギルドにはだいたい観測魔法の使い手が常駐しているのだよ。『ディストラ・スカウト』と言う魔法が一般的に用いられる。彼らもそれ専門で食べているのだから、計測値に誤差はないのだよ。安心して討伐したまえ」


「ちょっとぉー! なんでミーアが答えるの!? 今、わたしが教えてあげようと思ってたのにー!!」

「ふふふ。質疑応答と言うものはスピード勝負なのだよ、ライカくん」


 ライカは「後で絶対にわたしもイイとこ見せるから!!」と悔しそうに頬を膨らませる。

 そんな2人を「まあまあ」と宥めているルーク。


「じゃあ、私たちも行くよ! もう出発しているパーティーもいるみたいだからね!」

「了解!! よし! 気合入れていくぞ!!」


 ルークの士気の高さを見て、3人娘は嬉しそうだった。

 そこそこの難易度の依頼なのにこの余裕は、さすがのSランクと言ったところか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁぁぁぁっ!! せやっ!! 思っていたよりも硬度が高い! ルークくんは秘伝書の剣技を使った方がいいよ!!」


「くぁぁぁぁっ!! いっ、痛い……! 手が痺れた……!!」


 ルルナの忠告はわずかに遅かった様子。

 ルークはバレットドールに斬りかかり、その斬撃を弾かれていた。


 同じ剣を扱う戦闘でも、やはり地力の差と言うものは生まれてしまう。

 だが、ルークはめげない。


「バレットドールは無機物系だけど、水を扱うから……。どっちの秘伝書の剣技も通じるはず! まずは使い慣れた方から!! うぉぉぉりゃ! 『紅蓮斬』!!」


 爆炎の剣技がバレットドールに襲い掛かる。

 まるでバターをナイフで裂くように滑らかに剣が通り、ルークの一刀両断が決まる。

 今回は勢い余って転げる事もなく、自己採点は100点だった。


「うむ。やはり凄まじい威力なのだよ。このレベルのモンスターを一撃で仕留めるのは、誇っても良いとボクは考える。素晴らしいじゃないか」

「そうだね。今のままでも充分に強い。だけど、訓練すればもっと威力も上がるよ。それに、魔力の消費も抑えられるはず」


 ルルナの指摘は正しく、ルークはまだ魔力を上手く扱えない。

 そのため、攻撃する時には常に全力で魔力を放出する事になり、燃費が非常に悪い。

 『紅蓮斬』ならば、今のルークの使い方で計算すると4発程度で魔力が枯渇する。


 今後の課題である。

 だが、強くなるための道筋がハッキリと見えるのは彼のモチベーションを上げる要因になっていた。


「みんな、避けて!! 揺蕩う魔の力よ、この手に集いて大砲と成せ! 『クリムゾンカノン』!!」



 7体いたバレットドールが全て蒸発して消え去った。



「ふっふっふー! どうだぁ! ライカちゃんの超絶魔法だよ!! ルークくん、見ててくれた!?」

「あ、はい」


「えーっ!? なんでちょっと引いてるの!? どうしてー!?」

「ライカ。ちょっとくらいは加減して。ほら、ミーアが頑張って延焼させないように鎮火作業してるよ。森の中で火炎魔法は撃たないで。そりゃ、ルークくんだって言葉を失くすよ」


「まったく、どうしてライカは少しくらい慎重になれないのかね。ボクは今回の依頼、ずっと見学しておく予定だったと言うのに。『ライフシャワー』。回復の水で消火活動させられるとは思わなかったのだよ」


「ふぇぇっ! ごめんってばぁー! ルークくん! こ、今度はスマートに実力見せるからね!? 次が本番だから! 今のは練習!!」


 【紅龍】の快進撃は止まる気配を見せず、ルークにとっても良い経験が得られる事は間違いなかった。

 彼らはさらに森の奥へと進んでいく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、ルークの兄であるジェフリー。

 彼のパーティーは10人編成と大所帯である。名前は【雷の牙】と言う。

 由来はジェフリーが優れた《雷魔師》であることから。


「ちっ! おい、お前ら! モンスターを1か所に集めろ!! 3匹がウロチョロしてたら、オレの魔法が当たらない!!」


「そうは言うが、隊長! こいつら硬いんすよ! 自分たちの剣じゃ、弾かれちまう!」

「こっちは押さえきれない! 仕方ないから、1匹見逃すぜ!」

「それなら向こうに回り込んでくれ! ぐあっ! この水弾を防ぐには、《重装兵》じゃないと無理だ!!」


 【雷の牙】は苦戦していた。


 この手の依頼は、パーティー同士が協力し合うのが通例である。

 だが、今回は5つ全てのパーティーがそれぞれ違う方向へと進軍していたため、このように窮地に陥ったパーティーがあっても助け合いの態勢が取れない。


 原因はルークとジェフリー。主にファシード家にあった。


 まず、ルークの所属する【紅龍】は別次元のパーティーのため、「うちと組みましょう」などと恐れ多い言葉を吐く者がいなかった。

 さらに、【雷の牙】はジェフリー、つまりファシード家の三男が率いている。


 ファシード家の人間に関わって、何か問題が発生すれば実に面倒な事になる。

 冒険者ならば知っていて当然の基礎教養であった。


「うぉらぁぁ!! 詠唱省略! 『エレキスパーク』!!」


 ジェフリーの雷魔法がバレットドールを1体撃破した。

 盛り上がるパーティーメンバー。


 だが、その熱は凶悪な業火によってかき消される事になる。


「うわぁぁぁぁ! 隊長! なんかヤバいヤツがいます!!」

「いてぇよ……。ジェフリー。助けてくれ……」


「おいおいおい。マジかよ。こんなモンスターが出るなんて、聞いてねぇぞ!!」


 【雷の牙】の前に現れたのは、ルビーゴーレム。

 真っ赤な宝石のような体の中に、燃え盛る核を持つ強力な魔物だった。


「全員、オレに続け! 1度撤退して態勢を整える!! 怪我人には手を貸してやれ!!」

「りょ、了解!!」


 引き際を心得ている点に関しては、ジェフリーを「さすがファシード家の人間」と褒めるべきだろう。

 だが、彼のミスはそもそもこの依頼を受けた事であった。


 ジェフリーも察している。


 結成して間もないパーティー。

 功を焦るあまり、身の程を弁えずに高難易度の依頼を安易に選んでしまった。

 悔やんでも悔やみきれない過ちである。


 そして、悪い事と言うものは得てして重なるのがこの世の理。


「……マジかよ。は、はははっ」


 【雷の牙】が走って行ったその先には、ルビーゴーレムの群れがいた。

 踵を返そうにも、彼らはそのルビーゴーレムから逃げてきた結果、この場所にたどり着いたのだ。

 当然の事だが、振り返れば、そこにもルビーゴーレム。


 気付けばジェフリー達は完全に囲まれていた。



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