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燃える闘志


 翌日。【紅龍】のハウスでは、日が昇る前からルークが剣を振っていた。


 昨日受けた依頼のためにここを発つのが午前10時。

 まだ4時間以上も猶予があるにも関わらず、ルークは無心で剣を振る。


 気負いはもちろんあったが、それよりも衝動に突き動かされた。

 古書店を営んでいた頃から朝のトレーニングは日課だったものの、今日はまた特別な力の入りようである。


「おはよう。まさか私より先に起きて修練してるなんて。ちょっとビックリだな」

「……ルルナ。ごめん、もしかしてうるさかったか?」


 ルルナは質問に答える代わりに、自分の剣を見せる。

 どうやら、彼女もルークと同じ目的での早起きだった様子。


「やっぱり、毎日素振りをしておかないと勘が鈍るからね。ルークくんも気合が入っているみたいで、良い感じだよ。ただ、私の気配を察知できなかったのは減点かな。剣士はいついかなる時でも周囲に気を配らなくちゃ。理由は分かる?」


 ルークは剣を鞘に納め、汗を拭いながら少し考える。


「剣士は魔法みたいに遠距離攻撃に優れた技が少ないから、敵の接近を許す前に身構えておかないといけない……から?」

「正解。もっと自信を持って回答していたら100点をあげたのに」


 そう言って、ルルナがルークと入れ替わるように素振りを始めた。

 その姿は修練と言うにはあまりにも研ぎ澄まされており、ルークは思わず見惚れる。


「……ルークくん? なんだか視線をすごく感じてやりづらいのだけど」

「あ、ごめん。でも、ルルナの型はすごく綺麗で。出来れば勉強させてもらえたらって!」


 ルルナは長い髪をかきあげて、少し照れくさそうに言った。


「ま、まあ、見る事も大事な修行だからね。別に構わないよ。ただ、変なとこを凝視しないように!!」

「もちろん! 剣捌きにしか興味ないから!!」



「……むぅ。キミは何と言うか、ちょっと乙女心についても学んだ方がいいと思う」

「うん? 乙女心? それはもしかして新しい剣技に繋がったり!?」



 ルルナはため息をついて「そういうところだよ」と諦めたように呟いた。

 ファシード家では上流階級の教育を受けていて、追放されてからは生きるために必死だったルークにとって、同世代の女子の心を理解するまでの道のりは長い。


 冒険者として名を馳せるまでと、果たしてどちらが早いだろうか。

 実に難しい問題である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 出発時刻になり、【紅龍】は場所を走らせリンガラムの街の門へと向かっていた。

 早朝のトレーニングのおかげか、ルークの心は落ち着いている。


「おや。君、たった1度の冒険でなんだか表情が引き締まったように見えるが。ふむ。これが噂に聞く、男子三日会わざれば刮目して見よというヤツか」

「だって、ルークくんは伸び盛りだもんね! きっと今回の依頼をこなしたら、もっともーっと自信が持てるよ! だから、頑張ろう!!」


 ミーアもライカも、今回の依頼はルークが主役だと考えている。

 ルークもその厚意には気付いている。

 もちろん、馬車を運転するルルナだって同じ思いだ。


「時間より早く着きそうだよ。3人とも、着いたら馬車から降りてしっかり体をほぐしておいてね。依頼書によると、ここから近隣の森に移動するみたいだから。準備出来る時にしっかりとしておくのが冒険者の基本!!」


「はいはーい! 了解です、リーダー!!」

「何と言うわざとらしい説明口調。これではルークくんにバレてしまうのだよ」



「なるほど! 勉強になるな!! メモしておこう!!」

「……前言撤回なのだよ。ルークくんは世渡りが下手なタイプなのだね。うむ」



 リンガラムの門には既に馬車が2輌ほど停まっていた。

 責任者へ到着の報告から戻ったルルナが「今回は合計で5つのパーティーが参加するらしいよ」と教える。


 ルークは早速、2時間ほど同じ姿勢でいた体をストレッチでほぐしにかかる。

 それが済むと、今度は少しばかり周辺を走り始めた。


 そんな彼を冷たい言葉が呼び止める。


「ルーク! どうしてここにいやがる!? お前には言ったはずだぞ!! オレの邪魔だけはするなと!!」


 声の主はルークの兄、ファシード家の三男。ジェフリーだった。

 今回も委縮してしまうのかと自問するルークだったが、彼の心は答える。

 その立ち向かう魂に、応える。


「ジェフリー兄さま。昨日とはずいぶんと話され方が違いますね」


 物怖じしない弟の様子を見て、唾を吐くジェフリー。

 ファシード家の上流階級の教育の品位がグラついてくる事案である。


「あれは、オレのパーティーメンバーが傍にいたから、仕方なくだ! どうしてお前なんぞに気を遣わねぇとならんのだ! 馬鹿馬鹿しい!!」

「俺は俺で、しっかりと冒険者のパーティーに所属しています。ですので、お気遣いなく」


「ちっ。お前が入れてもらえるパーティーがまだ帝国領にあったとはな! ならば、その馬鹿どもと一緒に今すぐ帰れ! 家名だけに留まらず、オレの顔にまで泥を塗る気か!?」


 ルークの奮戦を陰から見守っていた乙女が3人いた。

 彼女たちは静観するつもりだったが、3人が3人とも思わずルークとジェフリーの間に割って入ってしまう。



 彼女たちは自分の仲間が不当に貶められるのを黙って見てはいられない性分なのだ。



「やや、これはルークくん! なんだ、またキミは絡まれているのか?」

「ぷっ。ルルナ、演技が下手すぎ! ルークくん! 帰りが遅いから心配になっちゃったよぉ!」

「やれやれ。トラブルを引き寄せるタイプなのかもれんな、君は。まあ、冒険者向きの性質と前向きに考えたまえよ」


 ルークは決まりが悪そうな顔をして、頭をかいた。

 まさか、彼女たちに見られていたとは。


「ええと、これは俺の兄です」


「ふーん? そうなんだ。私はまた、どこの馬の骨とも分からない男かと思ったよ」

「だよねー。全然ルークくんと似てないもん!」

「遺伝と言うものは実に興味深い。先天的な特徴も似ていなければ、後天的な性格は真逆になるとは。面白いのだよ」


 ワイワイとはしゃぐ弟たちを見て、面白くないのはジェフリー。

 だが、彼は知っていた。

 目の前にいる少女たちが帝国領内でもトップクラスの冒険者、【紅龍】である事を。


 さらにジェフリーを混乱させるものが彼の目に飛び込んで来る。



 ルークの胸にも【紅龍】のバッジが付いているではないか。



 「これは一体、どういうことだ?」と混乱を重ねるジェフリー。

 それを解消してくれるのは、心優しき【紅龍】のリーダーだった。


「ジェフリー……まあ、一応さんを付けておこう。一応ね。ルークくんの兄なのだから。では、ジェフリーさん。うちの大切な仲間があなたたちに迷惑をかける事は、万に一つもありませんので、安心してください」


 凛とした態度で、ジェフリーに「これ以上ルークに何か言えばそれ相応の対処をする」と告げるルルナ。

 彼は沈黙を守る事で、己の身も守る事を選んだ。


 それからしばらくして5つのパーティーが揃った。

 各々が馬車に乗り込み、魔物が大量発生していると言うリンガラム近隣の森へと出発する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ルークは気まずそうに、だがパーティーメンバーとの間に隠し事をしたくない一心で、おずおずと口を開いた。


「あの、実は俺、ファシード家って言う名家の出で……。それで、何て言うか、実家を追い出されているんだ。勘当、放逐、追放。どれも全部、俺に当てはまる」


 すると、ライカが明るく答えた。


「知ってたよ?」

「えっ!? 知ってた!?」


 面白そうなので、ミーアも参加する。


「君も知っているだろう。その事実を新聞にまで載せられて、オマケに顔写真付きで。ボクたちが新聞を読んでないと思っていたのかね? 情報収集も冒険者の基本なのだよ」

「ちょ、ちょっと待って! それなら、どうして俺をパーティーに加えてくれたんだ!? 俺なんか入れたって、面倒事の方が多いのは明らかじゃないか!!」


 馬車を操るルルナが、リーダーらしく不毛な議論を締めくくる言葉をルークに告げる。



「キミの事を私たちが気に入ったから。そんな理由じゃ不服かな?」



 ルークは胸の底から湧き上がる感情の名前を見つけられずにいた。

 だが、人生で初めての気持ちを力に変えて、この依頼で結果をもって3人に謝意を示そう。


 右手をギュッと握りしめて、静かに闘志を燃やすルークであった。



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