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廃図書館にて


 澄んだ水になった沼地を抜けると、廃図書館がルークを待ち構えていた。

 まるで魔界の門が口を開けているように思えて、一歩後ずさりするものの、先ほどの「冒険者としての決意」を思い出し、二歩ほど前に足を踏み出す。


 心構えだけは既に冒険者としての条件を整えつつあるルーク。


「うわぁー。まだ入口なのに、真っ暗だねー。よぉし! わたしの炎魔法で明かりを灯すよ! 任せといてー!!」


「ま、待って! ライカ、ここ図書館だよ!? 分かってる!?」

「そうだ! 君の無茶苦茶な火力の魔法を使われて、万が一貴重な古書に火が燃え移ったらどうする!? それがもしも秘伝書だったら……。ああ、ボクは想像だけで疲れて来た。ルークくん、悪いがおんぶしてくれるかね」


「おんぶ!? 俺が!? だって、ミーアは女の子だし!」


 たじろぐルークを見て、「ふふん」と笑うミーア。


「ボクの事を女の子扱いしてくれるのは素直に厚意として受け取っておこう。だがね、ルークくん。冒険者をしていると、仲間が負傷する事だってあるのだよ? そんな時に、君は相手が女子だからと言って助けるのをヤメるのかね?」


「た、確かに……。俺が間違っていた。さあ、ミーア! 背中へどうぞ!!」



「うーん。ルークくんはアレだね。女の子に騙されやすいタイプかなぁ」

「その優しさは貴重だけど、仲間限定にしてもらいたいね。彼、色仕掛けとかにすごく弱そう」



 せっかくミーアの力になろうとしたのに、何故だかライカとルルナからはじっとりとした視線で見られるルーク。

 いささか不憫である。


「うむ。なかなか乗り心地は悪くない。では、お礼にボクが照明係を受け持とう。光魔法、『ライトウェーブ』。どうだね、この魔法は。古代に失われたものだぞ」

「おお! 一気に明るくなった! こんな便利な魔法がどうしてなくなったんだろう?」


「ふっふー。それはね、ルークくん! ズバリ、たいまつ持って来れば済むからだよ!!」

「うむ。この魔法は光の波を走らせるだけの効果しかない。オマケに燃費も悪い。ボクの魔力なら2時間は余裕だが、普通の術師だと15分もすれば魔力が空になるだろう」


 失われるものにも理由はある。

 逆説的に、それだけ世の中の技術が進歩し、便利になっている証明でもあるのだが、ミーアの趣味は珍しい魔法の習得。

 そこに利便性や汎用性を求めるのは無粋だと彼女は言う。


「てぇやっ! はぁぁっ! ほら、3人とも早く先に進むよ! モンスターの気配も多いから、気を付けてね!」


 ルルナは既に3人よりもかなり先へと進んでいた。

 そして、来訪者を歓迎するアンデット系のモンスターが、自己紹介すらさせてもらえずに切り倒されていく。


 ルークは「やっぱりルルナはすごいな!」と尊敬しながらパーティーの最後尾を歩く。

 目指すは最奥にあると思われる、貴重な古書を保管してある部屋。

 事前に【紅龍】が得た情報だと、そこは賢者の部屋と呼ばれているらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 呆気なく廃図書館の最奥にたどり着く【紅龍】の乙女たちと見習い1人。

 だが、いささか面倒な事になっていた。


「ううむ。これは参った。まさかここまで広いとは。本だけでも500……いや、1000冊あるかもしれない。さすがは賢者の部屋。……全部持って帰りたい」

「あ、俺も同じことを考えていたよ。貴重な古書ばかりだから、翻訳してじっくり読みたいね!」


 ルークとミーアは秘伝書探索チーム。

 では、ルルナとライカはと言えば。


「ちょっとぉ! 2人して古書に魅了されてないで、早く秘伝書見つけてよ! 『インフェル……』って、炎魔法はダメだった! じゃあ、『エアロスパイラル』!!」

「くっ! 見た事ないモンスターだから、効果のある攻撃の判断がつかない! しかも、私との相性は最悪だ!!」


 2人は骨のモンスターと戦っていた。

 ちなみに名前はガルゲイラス。

 太古の怪鳥が毒に蝕まれ骨だけになり、怨念だけで動き回るアンデット。


 彼女たちが知らないのも当然であった。

 この廃図書館の環境下で生まれた、ご当地モンスターである。


 骨で構築されているため空を飛ぶことはないが、その代わりに斬撃が通じない。

 厳密に言えば1度バラバラになるものの、すぐに元の姿へと復元される。


 結果、ルルナの攻撃はほとんど通じず、時間稼ぎにしかならない。

 ライカの魔法は効果があるのだが、彼女も前衛に出ているため、強力な魔法を使う溜めの時間が作れない。

 その結果、戦況は硬直状態にあった。


 より正確を期す表現をすれば、ジリジリと2人が押されていた。

 ガルゲイラスは7体。いくらルルナが砕いてもすぐに次が襲ってくる。

 ライカの魔法も初等術では致命傷を与えられない。


「むぅぅ! この辺りにあると思ったのだが、見当たらないぞ! ルークくん、そっちはどうだね? これは急がなければまずいと思うのだよ!」

「それっぽいのを確認してるけど、見つからない! くそっ! 本の扱いくらいしか能がないのに、役に立てないなんて!!」


 普段は冷静なミーアが焦っている。

 つまり、相当まずい状態である事をルークも察する。


「きゃっ! いったぁー!」

「ライカ!? 大丈夫!? このぉ! てぇぇい!! せぇぇやぁ!!」


「ミーア! 秘伝書は俺が探すから! ライカの治療に行ってあげて! 大丈夫、これでも本の専門家だったんだから、必ず見つけてみせる!!」

「うぐぅ。今回は君の意見が正しいとボクも判断するよ。では、すまんがこっちは任せたぞ。ライカ! 『キュアリー』! それからボクにできるのは、壁を作る事くらいなのだが……。『リフレクト』!!」


 同時に2種類の魔法を使いこなすミーア。

 《治癒士》のものではない支援魔法まで扱えるのはさすがの一言だが、専門外のため耐久性に少々難がある。


「ありがと、ミーア! 時間さえ稼いでくれたら、わたしだって強い魔法が使えるんだから! 大地の守護者よ、怒りに震えよ! 『グラウンドクエイク』!!」

「ちょっ! ライカ! ダメだ、土属性の魔法なんか使ったら! ここは図書館なんだよ!? しかも、すごく古い!!」


 ルルナの警告は少しばかり遅かった。

 「あ、あははー」とライカが苦笑いを浮かべるのと同時に、激しい揺れが廃図書館を襲う。


 ガルゲイラスもこれには怯み、動きが止まる。

 だが、1番のダメージを受けた者は他にいた。


「あだっ!? 痛たたたたたたっ!! ほ、本棚に潰される!! くっ、落ち着け! 俺には重要な任務がある! こんな本棚に負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」



 独りクライマックスのルーク。相手は本棚。モンスターですらない。



 だが、世には禍を転じて福と為すと言うことわざもある。

 倒れた本棚の裏の壁。

 そこには明らかに他の古書とは違う雰囲気の本がはめ込まれていた。


「……これか!? ええと、タイトルは《氷結剣士》! 念のため中身も確認……やっぱり! みんな、秘伝書があったぁぁ!? ま、またこの感じか!?」


 ルークが既視感を覚える現象。

 体の中で電流が走り回り、言い表せない衝動が湧いてくる。


 続いて、苦労して見つけた秘伝書がやはりと言うべきか、消失する。

 最初の秘伝書は燃え尽きたが、今回は砂のようにサラサラと崩れ去った。

 「秘伝書が消えてなくなった」と言う事実に絶望しているルークにとっては、消失の仕方などどうでも良かった。


 彼は思考を切り替える。


 秘伝書の1ページ目。

 唯一解読できた文言があった。


 「汝、剣を地面に突き立てよ」と記されており、仲間の危機を救うために取り得る行動は、ルークにとって秘伝書の一文に従う事しかなかった。


「みんな! 今から多分、秘伝書のスキルが発動するから、避けて! 俺にも何が起きるのか分からないから!!」


 ルルナがミーアを抱えて賢者の部屋の端へとジャンプする。

 ライカは飛翔魔法で反対側の壁際まで退避。


「何でも良いから、みんなを助けてくれよ! うぉぉぉぉりゃあぁぁぁっ!!!」


 ルークの突き立てた剣が青白く発光する。

 次の瞬間、氷が地面を走る。

 ミーアの創り出した『リフレクト』を突き破って、そのままガルゲイラスに襲い掛かった。


 気付けば、ルルナとライカがあれほど手を焼いていた太古のモンスターが一瞬で氷漬けになっていた。

 流石のガルゲイラスと言えど、カチコチになってしまえばどうしようもない。


「ルークくん、ボーっとしてないの! 行くよ!!」

「あ、ああ! 俺も戦闘に加わる!!」


「違うよー! こーゆう時は、逃げるんだよ! 早く、早く!!」

「ルークくん、ボクを背負って出口まで全力疾走だ! 頼むから置いて行かないでくれ!」



 一流の冒険者は引き際を心得ているものであり、【紅龍】も帝国内で五指に数えられるSランクパーティー。

 実に潔い撤退だった。


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