運命の日
その日は雲一つない青空だった。
ルークが明るい未来を思い描くには、おあつらえ向きの天気。
「……俺だって。そうさ、俺だって! 父上や兄上たちのように優秀な冒険者に!!」
この世界では、17歳になると神からスキルを与えられる。
そのスキルの良し悪しで、今後の人生が決まると言っても良い。
ルークにとっての運命の日。それは今日だった。
「そうさ! この日のために準備をして来たんだ! 体だって鍛えた! 魔法についても学んだ! あとは、良いスキルを貰うだけだ!!」
河原で寝転がり、理想に燃える少年。
ファシード家の末っ子としてこの世に生を受けた瞬間が彼の戦いの始まりだった。
ファシード家は王都からほど近いルドウィック地方の名家であり、代々優れた冒険者を輩出している。
現当主、つまり彼の父親も、今は引退しているが素晴らしい冒険者として名を残し、3人の兄たちも皆、系統は違うものの人がうらやむスキルを得ていた。
ルークも幼少期から、将来を嘱望されていた。
それは当然の流れであり、彼もそうなるものと思い、来るべき日に備えて研鑽の日々を過ごしていた。
だが、一方で漠然とした不安があった。
兄たちには「冒険者としてファシード家の名をさらに国に轟かせる」と言う、隠す事のない野心が満ちているのに対して、自分にはそれがなかった。
もちろん、「優れた冒険者になって誰かを救いたい」と言う希望は胸に秘めていたが、兄たちのようにギラついた炎を心に宿してはしなかった。
成長するにつれてその事実に気付いていくルーク。
彼は心細かった。
「もしかして、俺は兄上たちとは違うのではないのか」と言う疑念が常について回り、それを振り払うように毎日修練に明け暮れていた。
「よお! ルークじゃないか! まだ神官様のところに行かなくてもいいのか?」
「さすがはファシード家の人間! 余裕だな! うらやましいぜ!!」
「おっ、テッドにダスティン! 奇遇だな!」
先に声をかけてきた体格の良い方がテッド。
身長が高くヒョロリとした方はダスティン。
2人はルークと同い年であり、先日、神からスキルを付与されていた。
「僕は《砲撃手》だからな。外れだよ。まさか、この恵まれた体を生かせないとは。実に残念だ!」
テッドは《戦斧》や《重装兵》などの、肉体を駆使して戦うスキルを求めていたが、与えられたのは《砲撃手》であり、スキル付与の日からしばらくは落ち込んでいた。
このように、当人の望むスキルが与えられるわけではない点が、この世界の神のいじわるなところである。
「いいじゃないか! 重たい砲弾だってテッドなら軽々運べるだろ? きっと、神がそんなところに適性を見出してくれたんだよ!」
「まあ、そうだよな。いつまでもふて腐れてても始まらない。僕も気持ちを切り替えたよ! 時々、冒険者とは関係ないスキルを与えられる人もいるらしいと聞くし」
「そうなったら悲劇だよなー」
「こいつ! お前は良いよな、ダスティン! 昔から乗馬が得意だったところに《騎馬兵》のスキルなんだから! 恵まれたヤツだぜ!」
ダスティンのように、得意としている事と与えられたスキルの内容が重なるパターンが最良とされており、彼は既にいくつかの冒険者パーティーから誘いを受けているのだとか。
「どうしたんだ、ルーク。なんだか口数が少ないが?」
「お前でも緊張するのか? 心配するなよ! なんてったって、あのファシード家の血を引いてるんだからな!」
ルークは「顔に出ていたのか!?」と気付き、慌てて取り繕ろう。
「いや、どんなスキルでも俺は気にしないよ! それがその人間の運命なんだから、抗うよりも受け入れるべきだろ!」
まるで、自分に言い聞かせているような気になりながら。
だが、それは彼にとっての本心だった。
「どんなスキルだって、俺が一流に磨き上げてやる」と言う、強い信念が彼にはある。
「ひゅー! やっぱりルークは言う事が違うぜ! もし僕がくいっぱぐれたら、パーティーで拾ってくれよな!」
「バカだな、テッド! ファシード家の人間とパーティーが組めるなんて、ただの平民のオレたちには縁のない話だ!」
「はははっ! もしかしたら、俺の方がお願いする事になるかもしれないよ! ……さて、そろそろ教会に行こうかな。とびきり活きのいいスキルを貰って来なくちゃ!」
テッドとダスティンに「頑張れよ!」とエールを送られ、ルークは立ち上がる。
尻についた草を払って気合を入れたら、向かう先は教会と言う名の戦場である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
スキルの付与の方法は地方によって異なるが、ルドウィックの地では魔法石に手をかざす事で神との間に契約が結ばれる。
その仲介を行うのが、神官の役割。
「ようやく参ったか、ルーク・ファシード。待ちかねたぞ」
「すみません。少し用事を済ませていまして」
「草原で寝転がるのが用事かね? まったく、ファシード家の者が何をしておる。お父上に知れたらどうするつもりかね」
ルークは慌てて尻を叩く。
まだ草が付いていたとは思わなかった。
「そこではない。右の肩だ」
「あっ! これはなんとも、いや、はっはっは! お恥ずかしい!」
教会の中にいたルークの同い年と思われる少女たちから「くすくす」と笑いが起こる。
それはルークの緊張をほぐすことになり、彼は「河原で寝そべるのも悪くないな」と思い直した。
「まあ、良い。スキル付与の儀を執り行う。魔法石の前に来るように」
「はい!」
「大丈夫だ。空は青いし、頬を撫でる風は心地よかった。こんな日に悪い事が起きるはずがない」とルークは考える。
そして、意を決して右手で魔法石に触れる。
「……ふむ。おお、これは珍しいスキルが現れた! 私がこれまで見たこともないスキルだ!」
「ほ、本当ですか!? レアスキルですか!?」
「うむ。君のスキルは《翻訳者》だ」
翻訳者――その聞き慣れない単語に。
ルークは数秒間、反応できずにいたのだった。




