聖護国の実力者
「エクラーザという名の、魔族の少女」が囚われている地下牢は、今回の軍事作戦の出撃地点となる軍港から歩いて10分ほどのところにあった。
地下牢の入口まで来たバルに対して、警備兵が敬礼した。
バルも軽く敬礼した。
この20代の若い警備兵は、いま若者の間で流行っているワニ革のブーツをはいて、両耳には大きめのピアスをつけていた。ファッションには、うるさい男で「こんなダサい警備服、イヤだ」と、よくグチをこぼしていた。
このオシャレな警備兵が、いたって陽気な調子で、バルに声をかけた。
「ようバル、
またエクラーザって子に、会いに来たのか?」
「ああ」
「それにしても最近、よく来るな」
「別に俺だって、来たくて来てるわけじゃない。
仕事だから、しょうがないだろ?」
それを聞いたオシャレ警備兵は、ニヤリとして言った。
「仕事?それホントかよ?
仕事じゃなくて本当は、個人的に会いたくて、来てるんじゃないのか?
あのエクラーザって子、魔族とはいえ、なかなかカワイイ子だからな!」
それを聞いたバルは、声を上げて笑って言った。
「アンタも知らない間に、冗談が上手くなったな。
そんなわけ無いだろ。こっちは、こんな面倒な仕事、さっさと足を洗いたいぐらいなんだ。
それに・・・・・・魔族との恋愛関係は、レッキとした犯罪行為だ」
「そりゃ、そうだがな・・・・・・
ああ、そうだ、デュークって人が下で、お前のこと待ってるぜ。
なんでも、お偉いサンだそうだ」
「デューク!?
まさか、聖護国の幹部の、あのデュークか!?」
「ああ、
なんか、そうみたいだな。知ってるのか?」
「一応な。もちろん直接、話したことは無いが・・・・・・
悪い評判しか、聞かないヤツだよ。
聖護国の実力者だけど、皇帝の権力を利用して、私腹をこやしてるとか、
自分に盾つくヤツ、気に入らないヤツがいたら、容赦なく収容所へ放り込むような事を平気でする、汚いヤツとか・・・・・・
そんな黒いウワサが、絶えないヤツだ」
「へえ、そんな感じには見えなかったけどな。
でもアンタにそう言われてみれば、そんな気もしないでもないな。
でも相手は、お偉いサンなんだから、ここはイイとこ見せれば、昇進につながるかもしれないぜ」
「どうかな・・・・・・
それにしたって、デュークのヤツは、なんでココへ来たんだ?」
「いや、詳しい事は聞いてないから、分からん」
バルは、強い不安感に襲われた。
「まさか・・・・・・エクラーザの説得が、うまくいって無いから、オレの事を処罰する気じゃないだろうな?
相手は、よりによって、あのデュークだから・・・・・・
何をしでかすか、分からないな・・・・・・」