出陣式
「魔族」が住むミゲルクルス大陸への、人間軍の総攻撃は、いよいよ明日に迫っていた。
蒸し暑い夜の20:00。今回の軍事作戦の出撃地点となる軍港のそばには、巨大な会場が設けられ、そこに何万もの人間の戦士たちが、集結していた。
これから人間軍の最高司令官(ガーセレン聖護国の皇帝)による演説が、始まるのである。
今回の軍事作戦には、人間の国家・全てが――30ヵ国以上の人間の国々が、参加していた。それゆえに、会場に集まった人間の戦士たちの格好はバラバラで、まるで統一されていなかった。さまざまな軍服や民族衣装が入り乱れ、肌の色や顔立ちまで、それぞれ違っていた。
ただ彼らに共通していたのは、心に激しく燃え上がる「戦闘心」と「魔族への憎しみ」のみであった。
この雑多な人間軍を、まとめあげ率いるのは、人間界の中でも最強の国である「ガーセレン聖護国」の若き皇帝ラズヘルク4世である。
会場に設けられた壇上には、皇帝ラズヘルクが、ただ1人、立っていた。そして彼は、眼下に広がる戦士たちを、鋭い目つきで見下ろしていた。
至るところに設置されている、かがり火が、戦士たちの横顔を、照らし出していた。
深く息を吸い込むと、皇帝ラズヘルクは演説を始めた。
「旧き伝説は、伝えている。魔族は『幸福の実』を食べ、そして我々人間は『不幸の実』を食べた、と。
『不幸の実』を食べた我々人間に課せられた、その後の運命は、たしかに不幸なものであった。
我々人間の歴史は、過酷で、そして血塗られた歴史でもあった。
人間は、お互いに争いを続け、さらに太陽の光さえも奪い取られた。
これらの悲劇は、人間が背負いこんだ全ての不幸は、悪しき魔法使いども――魔族が、もたらしたものである。
我々は明日、この呪いに、永遠に終止符をうつ。
我々人間が、歴史的呪縛から解き放たれる時が、近づきつつある。
『魔族』との歴史的な戦いが、今まさに、はじまろうとしている!」
ウォーという歓声が、戦士たちの間から上がった。
しばらくして歓声が落ち着くと、皇帝ラズヘルクは演説を続けた。
「これが、我々人間にとって『史上、最後の戦争』となるだろう。
明日から開始される『魔族との戦い』において、我々人間は、邪悪な魔族どもが巣くう『ミゲルクルス大陸全土』を、ついに制圧するだろう。
そして我々は『7色の神器』を、全て手に入れるだろう!」
再び大きな歓声が起きた。
皇帝ラズヘルクは、戦士たちに向かって、最後の檄を飛ばした。
「我々人間は、『7色の神器』を全て手に入れることで、『旧き力(太陽)』を取り戻し、『新しき力(魔法)』を手に入れる!
1300年に及ぶ『魔族』との、つらく長い戦いが、ようやくこれで終わる!
この歴史的集会に集った諸君!
この戦いに勝利せよ!
偉大なる戦勝を、自らの手で、つかみ取れ!
さすれば我々人間は、平和で豊かな生活を、手にできるだろう!
我々人間は、現世の、あらゆる苦悩から開放されるだろう!
そして再び昇る太陽が、我々の未来を、明るく照らし出すだろう!!」
ウォーーー!という大歓声が、会場をおおった。それは、遠く大海原にまで鳴り響いた。拍手は鳴りやまなかった。戦士たちをとらえた興奮は、いつまでも、おさまらなかった――