最高の笑顔
ご覧いただき、ありがとうございます!
「ソコ! その“メリー”はベッドの上でショ!」
荷ほどきをしながらプラーミャの荷物を整理している中、何故かプラーミャはひたすら俺に指示を出す。いや、というか自分の荷物なんだからお前が率先してやれよ!?
しかも、たった今指示出されたぬいぐるみ……どうやら“メリー”という名前らしいけど、コレと同じぬいぐるみが他にも四体あるんだけど?
「スマン……俺にはぬいぐるみの違いが分からん……」
「コラ! 私の家族をぬいぐるみ呼ばわりするナ!」
……理不尽が過ぎる。
「マ、マアマア……そ、それじゃヨーヘイはコッチの荷物をワタクシノ……「おーい、サンドラ、この椅子、勝手に分解してしまったのだが、良いのか?」……って、アアアアア!?」
おっと、どうやら先輩が何かをやらかしたみたいだ。おかげでサンドラが血相を変えて先輩の元へと飛び出して行った。
「ヨーヘイ! 何してるノ!」
「……ハイハイ」
それからプラーミャに小突かれながら部屋の片付けをすること二時間。
何とか部屋の床が少し見えるようになってきた。
でも。
「うあー……コレ、今日中に終わるのかよ……」
まだまだ高く積み上げられた荷物を眺め、俺は思わず声を漏らした。
「ホラ! 次はこの荷物! これをサンドラの部屋に持って行っテ!」
「へーい……」
俺はプラーミャの指示により、サンドラの荷物だというダンボールの箱を抱えると、リビング伝いにサンドラの部屋……って、どれだ?
というか、サンドラの家って無駄に広くて部屋数も多いから、どれがどれだか分からないんだよなあ……。
「ア、ヨーヘイ!」
お、ちょうど良いところに。
「サンドラ、これ、お前の荷物らしいんだけど、サンドラの部屋ってどれだ?」
「? ワタクシの荷物……って、フエエエエエエエエエエ!?」
「うあ!?」
サンドラは突然奇声を上げたかと思うと、俺から荷物をひったくった。
「ななな、中を見てないですわよネ!」
「中? お、おう、見てないけど……」
「ソソ、ソウ……!」
俺がそう答えると、サンドラはあからさまにホッとしていた。
……一体あの箱の中に、何が入ってるんだろうか。
「ト、トニカク! この箱はワタクシが片づけますから、ヨーヘイは早くプラーミャのところに戻……っテ!?」
「あ! お、おい!?」
すると、サンドラがつまづき、箱を放り投げながら倒れ……っ!
「あ、危ねえ!」
「ア……ヨーヘイ……」
間一髪、俺はサンドラが床にこける前に抱き留めることができた。
ハア、全く……。
「大丈夫か?」
「フエ!? ア、ウ、ウン……」
「そっか、それなら良かった」
俺はサンドラを立ち上がらせようと……っ!?
――フニュン。
「フエエエエエエエエエ!?」
「うあああああああああ!?」
し、しまったああああああ!? つい、サンドラのお尻を!?
「む、望月くん、サンドラ、どうした?」
「サンドラ!? 何があったノ!?」
俺達の叫び声を聞き、先輩とプラーミャが一斉にコッチにやって来た。
「あ、あああああ!? いいい、いえ、何もない! 何もないです!」
「……ほう?」
俺は慌ててそう言うが、先輩の視線がやけに鋭い……。
「ヨーヘイ……アナタ、私のサンドラ、に何をしたノ……?」
「うあ!?」
見ると、プラーミャは[イリヤー]を召喚し、今まで見たことがない怒りの形相を浮かべていた!? イヤ、なんでそこまで!?
だが、その理由はすぐに分かった。
だって……サンドラが自分の身体を抱えながらしゃがみ込み、顔を真っ赤にしてそのアクアマリンの瞳に涙を湛えているんだから……そりゃあ、ヤンデレシスコンのプラーミャからしたら、ブチ切れるのも当然……って!?
「死ネエエエエエエエエエエエエエエッッッ!」
「うあ!? 待て!? 違う!? 違うから!?」
俺はプラーミャにズタボロにされ、リビングに転がったまましばらく動けなかった。
「……見損なったぞ、望月くん」
「先輩!?」
色々と蔑まれ、つらい思いをしてきた俺だったけど、この時ほど心が挫けたことはなかった。
◇
「シクシク……」
「ホ、ホラ、もう泣くのはやめなさイ……」
俺はサンドラに慰められながら、引っ越しの手伝いを黙々とこなしていた。
ただ、先輩はいまだに口もきいてくれず、プラーミャもあの始末。もはや今の俺にとって、味方はサンドラただ一人だった。
まあ、今となってはみんなの反応は正しくもあるんだけど。
だって、サンドラは涙目だわ、辺りにはサンドラがこけそうになった際にぶちまけた下着の数々が散乱してるわで、誰がどう見ても疑うよなあ……って、アレ? ひょっとして、悪いのはサンドラ?
「そ、それよりモ、この荷物を部屋に運ぶのを手伝っテ!」
「お、おう」
サンドラに頼まれ、俺はサンドラと一緒に家具を部屋へと運ぶ。
すると。
「っ!」
俺は、サンドラの部屋の机に立てかけてあった一枚の写真に気づく。
それは……子どもだった頃のサンドラが、家族と一緒に撮った笑顔の写真。
「ア……フフ、アレが、ワタクシの家族、ですワ……」
「そっか……」
サンドラは、少し恥ずかしそうにしながら写真に映る家族を紹介してくれた。
俺はその写真を見て嬉しかった。
だって……あの写真こそ、サンドラを闇落ちから救うアイテム、『思い出の写真』なのだから。
そしてそれは、サンドラの心が救われていることの証明でもあるんだ。
「はは……!」
「? フフ……急に笑って、おかしな人ですわネ」
「んだよ、サンドラだって笑ってるじゃん!」
「じゃあ、お互い様、ですワ」
サンドラは、その写真に映る子どもの頃のサンドラ達に負けないくらい、最高の笑顔を見せてくれた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜更新!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!




