先輩の申し出
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今日も四話投稿です!
「グス……す、すいません……」
しばらく大泣きした後、ようやく落ち着いた俺は、目をこすりながら藤堂先輩に謝罪する。というか、いきなり泣き出してかなりカッコ悪いな……まあ、それは今さらだけど。
「ほ、本当に驚いたぞ……だけど、何か理由があるのか? 私でよければ相談に乗るぞ?」
先輩は心配そうに俺の背中をさすりながらそう話しかける。
そして、先輩の俺を見るその瞳は柔らかくて、とても温かった。
「い、いえ……大丈夫です……!」
「そ、そうか……」
俺はこれ以上先輩に心配かけたくなくて、無理やり笑顔を作った。
先輩も俺の思いに気づいたのか、それ以上は何も聞いたりしなかった。
「さ、さあ! それじゃあ帰りましょう! ここから先は、俺と[ゴブ美]が露払いしますから!」
「あ、ああ、それじゃ任せるよ」
「はい!」
俺は気合いを入れるために、両頬をパシン、と叩いた。
「さあ! 行くぞ[ゴブ美]!」
『(コクコク!)』
[ゴブ美]も先輩の言葉が嬉しかったんだろう。
幽鬼相手に、かなり気合いが入っていた。
そして。
「ふう……」
領域の扉の前までたどり着き、俺は額の汗をぬぐった。
ここまで、幽鬼はそれなりに出現し、時には複数出現した場合もあったが、上手く一対一になるように戦略を立てながら戦ったおかげで、特に危なげなく倒すことができた。
これからの育成計画を踏まえても、対幽鬼の戦法が確立できたのは、大きな収穫だったな。
「望月くん」
俺が満足していると、藤堂先輩が真剣な表情で声をかけてきた。
「え、ええと、どうしました……?」
先輩のただならぬ様子に、俺はおそるおそる尋ねる。
「君がこの初心者用の領域に入ったのは、今日の授業での見学を含め、これが二回目だと思うが、間違いないな?」
「は、はあ……」
質問の意図が分からず、俺は気の抜けた返事をした。
俺、なにかやらかしたのかなあ……。
「君の幽鬼との戦い方は、明らかに一対一を想定したものだった。幽鬼と戦うのは今日が初めてであるにもかかわらずだ」
「あー……」
そういうことか……。
確かに、見学では五人……最低でも四人の班で見学するから、一対一で幽鬼と戦う機会なんてほぼない。
なのに、俺は苦もなく一対一で戦っていた。それも、手慣れた様子で。
「改めて聞こう。君は、どうしてこうも見事に一人で戦えたんだ?」
先輩は有無を言わさないとばかりに俺を見据える。
やっぱり……答えないと駄目かー……。
「……実は、担任の先生から、初心者用の領域の見学は一人でするようにって言われまして……」
「それはどうしてだ?」
「はい……」
俺は昨日と今日の出来事について話した。
昨日の教室での自己紹介の際に、クラスメイトや担任の先生から[ゴブ美]の見た目とステータスを馬鹿にされ、いたたまれなくなって勝手に教室を飛び出して家に帰ったこと。
そして、今日の見学についての説明の時、担任の先生から団体行動を乱した罰として、初心者用の領域を一人で見学するように指示されたこと。
「……だから俺は、見学の時も幽鬼と常に一対一で戦っていて、それで……」
「そうか……分かった、ありがとう」
先輩はそう言って頷いた。
だけど、真紅の瞳は怒っているようにも見えた。
「……なあ、望月くん」
「? はい……」
「君さえよければ、また一緒に領域の探索に付き合っても良いか? もちろん、この初心者用の領域だけでなく、“グラハム塔”領域なども含めて、な」
「っ!」
先輩の予想外の申し出に、俺は思わず息を飲んだ。
もちろんそれは、俺達が今後強くなる上で、ものすごくありがたい申し出だった。
「は、はい! もちろんです! ……ですが、多分俺は、しばらくはこの初心者用の領域を中心に探索……いえ、訓練をすると思いますので、ここ以外の領域の探索の時にお願いしてもいいですか?」
俺はせっかくの先輩の申し出に対し、申し訳ないと思いながらもそう答えた。
だって、俺達の最大の目的は、“ぱらいそ”領域にあるんだから。
「ふふ、もちろんそれで構わないとも。私はこの学園の領域はほぼ全て踏破しているから、君にとって有益だと思うぞ」
「! は、はい! ありがとうございます!」
俺は先輩に向かって深々とお辞儀をした。
それを見た[ゴブ美]も、俺にならってお辞儀をする。
「うん、やはり君達はいいな。これから楽しくなりそうだ」
そう言って先輩は優しく微笑むと、手を振りながら去っていった。
「さて……じゃあ行くか」
『……(コクリ)』
先輩の背中を見送り、俺達はまた初心者用の領域に入ってあの部屋へと向かう。
そして。
「さあて……いよいよだ。[ゴブ美]、準備はいいか?」
『(コクコク!)』
「よし、じゃあ行こう!」
俺と[ゴブ美]は、“ぱらいそ”領域へと繋がる扉をくぐった。
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