バカは余計だ
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「ワタクシはもう、ルーシには帰りませんワ! この国で、ヨーヘイと添い遂げますノ! ですから、『レイフテンベルクスカヤ家』の継承権も放棄するのですワ!」
「「「はああああああああああああ!?」」」
サンドラの爆弾発言に、プラーミャだけでなく、俺と先輩も一緒になって絶叫した。
というかサンドラ!? メチャクチャ話がでかくなってない!?
「ままま、待て!? そそ、そもそもお前達はまだ未成年なのだぞ!? そんな話がまかり通るわけがないだろう!」
藤堂先輩がプラーミャを差し置いて、すかさずサンドラに抗議する。
「そ、そんなノ! その時が来るまで待ちますワ! ネエ、ヨーヘイ!」
「うあ!?」
こ、ここで俺に振るのか!? こんなのどう答えりゃいいんだよ!
サンドラの奴は俺を睨みながらしきりにウインクしてプレッシャーかけてきやがるし、先輩は先輩で俺を凝視してるし!?
「ヨ・ー・ヘ・イ・?」
く、くそう……このまま逃げ出したい気分だ……。
先輩……こ、これはあくまでも演技ですからね? 分かってますよね? くれますよね? ね!
「そ、そうだ……お、俺はサンドラと、その……添い遂げる、です……!」
チクショウ、プレッシャーで声は震えるわ、手汗がヒドイわで、正直ロクな状態じゃない。
そして、先輩の俺を今にも殺してしまうんじゃないかというほどの【威圧】、シャレにならない。お願いですからスキルは使わないでください。
「本気……なノ……?」
プラーミャが、震える声でサンドラに尋ねる。
それを受け、サンドラは……力強く頷いた。
「ソウ……分かった、パパとママには私から話しておきまス……」
「プラーミャ……ありがとうですワ……」
イヤイヤイヤ、二人共しんみりしてるけど、コレ、茶番だからね!? 俺、そんなつもりないからね!? ね!
「……先に進もう」
先輩は絞り出すような声でそう言うと、無言のまま歩き出した。
俺達も、その後に続く……んだけど……。
「「「「…………………………」」」」
……完全に終末を迎える世界に絶望するかのような雰囲気だ。
俺はサンドラをチラリ、と見ると……うん、目が合った瞬間、しきりに謝る仕草をしやがった。本当に後で覚えてろ。
一方で、プラーミャは唇を噛んでずっと俯いたままだ。そりゃあヤンデレシスコンの彼女からすれば、到底納得できないだろうなあ……。
そして、第十階層へと続く階段を昇り切ると……これより下の階層とは打って変わり、幽鬼はただの一体も出現しなかった。
というか、領域ボスの話、完全に言うタイミングを逃したままここまでたどり着いちまったなあ……。
「おかしい……この階層、何故幽鬼がいない……?」
「ほ、本当ですワ……」
先輩とサンドラが辺りを警戒しながら、そう呟く。
は、早く言わないと……っ!?
すると、突然プラーミャに腕をグイ、と引っ張られてしまい、俺は思わずよろめいた。
「プ、プラーミャ!?」
「……ネエ。アナタ、本当にサンドラと添い遂げる気なノ?」
プラーミャは琥珀色の瞳に涙を湛えながら、ジッと俺を見て問い掛ける。
というか、正直耐えられそうにない。
「私が言うのも何だけド、サンドラは名門『レイフテンベルクスカヤ家』の中において、その資質は歴代の中でも特に劣っていまス。パパとママは、サンドラのことを“欠陥品”だト」
「…………………………」
「そんなサンドラが、『レイフテンベルクスカヤ家』の庇護を失ったらどうなると思いますカ? それでも、アナタは無責任にサンドラと添い遂げるのですカ?」
プラーミャは俺に必死で訴えかける。
まるで……サンドラは出来損ないだから、オマエじゃ面倒見切れないから諦めろ、とでも言うように。
「……プラーミャはサンドラのこと、そう思ってるのか?」
「ハイ」
「そっか……」
はは、何だよソレ。
「フザケルナ」
「……アナタ?」
「フザケルナ! アイツの……サンドラのこと、本当に知りもしないで! 勝手なことばかり言いやがって!」
「ッ!? ヨーヘイ!?」
「望月くん!?」
俺の怒鳴り声に、サンドラと先輩が困惑しながら反応した。
はは……俺が馬鹿にされた時でも、木崎に嵌められた時でもこんなことなかったのに、今の俺はどうしようもないくらい頭にきてる。
「オマエ、本当に双子の妹かよ。今までサンドラの何を見てきたんだよ」
「…………………………」
「……オマエに言っといてやるよ。『レイフテンベルクスカヤ家』だっけ? そんなクソみたいな家に、今後絶対にサンドラを関わらせたりしねーからな!」
何だよ……サンドラの頑張りを、想いを、苦しみを、何も知らないくせに……!
『まとめサイト』でサンドラのことを知ってるからじゃない。教室で最初に絡んできたあの日から今まで、俺がこの目でサンドラを見てきたんだ!
サンドラは、すごい奴なんだ!
「ヨーヘイ……」
名前を呼ばれてそちらを見ると……サンドラはアクアマリンの瞳からぽろぽろと涙を零していた。
「……行こうぜ」
俺はサンドラの頭を少し乱暴に撫でてやると、領域ボスのいる部屋へと足早に向かった。
すると。
――ポン。
「……先輩」
「ふふ……私も、サンドラがすごいことは理解しているよ。だから、これからは君と私で彼女を支えてやればいい」
「はい……!」
隣に並ぶ先輩に力強く頷き、さらに奥へと進んで行く。
「ヨーヘイ……」
「……おう」
「ワタクシ……ワタクシ、頑張るかラ……! モットモット、頑張るからア……!」
「はは、何言ってんだよ。もう、充分過ぎるほど頑張ってるじゃないか。というか、あまり頑張られ過ぎると、俺の立つ瀬がないんだけど?」
泣きじゃくるサンドラに、俺はわざとおどけてそう言うと。
「フフ……ヨーヘイのバカ」
「バカは余計だ」
「見てなさいヨ? アッと驚かせてやるんですかラ」
「おう、そりゃ楽しみだ」
そして……俺達は領域ボスの待つ、部屋の扉を開けた。
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