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一人ぼっちの彼と孤独の私③

ご覧いただき、ありがとうございます!

■藤堂サクヤ視点


 その後、私はこれでもかというほど説教した。この私をここまで心配させたのだから当然だ。

 だが、それ以上に彼から聞かされた内容は衝撃的だった。


 まさか……あの女が、望月くんを無理矢理第二十一階層へと連れ出し、さらに階段を封鎖して閉じ込めてしまったとは……!


 私はギリギリと歯噛みすると、あの女を八つ裂きにするために保健室を飛び出そうとした。

 だが、彼に止められてしまい、私は思わず詰め寄ってしまった。

 理由を尋ねると、彼は自分が強くなって見返すことで、今日のあの女の行為を後悔させてやるのだと、そう言った。


 到底納得できる話じゃない。だが、他ならぬ彼がそう決めたのだ。私は従うほかなかった。

 私は、つい皮肉を込めて彼に失言をしてしまった。


 私は、部外者である(・・・・・・)、と。


 すると彼は、今にも泣きそうな表情を浮かべ、私に縋りついてきた。

 部外者なんて言わないで欲しいと、必死に訴えながら。


 ああ……私は彼に、なんてひどいことを言ってしまったのだろう。

 仮に私が彼から同じ言葉を投げられてしまったら、それこそ私も平静でいられるはずがない。なのに私は……!


 私は自分の失言を必死に否定すると、彼はその瞳から大粒の涙を(こぼ)した。

 当然だ。彼はあの“グラハム塔”領域(エリア)でクラスメイトに裏切られ、その心をズタズタにされてしまったのだから。


「望月くん……っ!」


 思わず彼を抱きしめる。

 強く……ただ、強く。


 せめて彼の悲しみのほんの一部でも、受け止めてあげるために。


 しばらくすると彼は泣き止み、私の背中をポンポン、と叩いて顔を上げた。

 その涙で(にじ)んだ彼のガーネットのような瞳は強さと意志を(たた)え、ただ……綺麗だった。


 あんなことがあったのだ。私は今日の領域(エリア)攻略はもう中止しようと伝えると、初心者用の領域(エリア)だけ行かせて欲しいと頼んできた。


 正直、初心者用の領域(エリア)ですらも行かせたくなかったが、それ以上にそこまでしてあの領域(エリア)にこだわる彼が気になった。


 尋ねると、望月くんは私に彼の精霊(ガイスト)のステータスを見せてくれた。


 異常だった。

 『敏捷』のステータスだけが、この私の[関聖帝君]を凌駕するほどの能力を有し、それ以外はこれだけレベルアップしているというのに、ほとんど成長が見られなかったのだから。


 そして、彼は理由を教えるので一緒について来て欲しいと言った。

 もちろん私に否やはない。結局、彼と一緒に初心者用の領域(エリア)へと向かった。


 そこで、また私は驚くべきものを目の当たりにした。


 なんと、初心者用の領域(エリア)の何もない部屋に、さらに別の領域(エリア)へと繋がる扉が現れたのだから。

 しかもその扉の先は、まるで楽園のような世界が広がっており、そこに似つかわしくないほど禍々しく、圧倒的な強さの幽鬼(レブナント)がいたのだ。


 彼に腕を引かれ、幽鬼(レブナント)をやり過ごすと、私はまた彼を叱った。だが、彼は私に叱られる義務がある。

 本当に……この私に心配ばかりさせて……。


 さらに先へと進み、彼に連れてこられた場所は、行き止まりだった。

 そこに、木箱がポツン、と置かれていた。


 私はその木箱に近づき、蓋を開けると……中には疾走丸が入っていた。

 そして……この時初めて、彼の精霊(ガイスト)の異常なステータスの秘密を知った。

 だが、彼がしていることはあまりにも無謀で、あまりにも無茶で、あまりにも苦痛を伴うものだった。

 危険と隣り合わせながらあの幽鬼(レブナント)をやり過ごし、この何の変哲もない疾走丸を手に入れる。

 それも、めまいがするほどの膨大な数をこなして。


 彼は……彼は、誰にも負けない心の強さを持ち合わせていたのだ。

 この私すら、到底敵わないほどに。


 ふふ……私も負けていられないな……。


 そんな素晴らしい彼を見つめながら、私も決意を新たにするとともに、そんな彼の隣に立てることに幸福を感じていた。


 ◇


 それからというもの、私は彼が初心者用の領域(エリア)に行く時も常に同行するようになった。

 まあ、あんな危険な場所で彼一人にさせるわけにはいかないからな。


 ……本音は、彼と共にありたいから、だが。


 そして、彼の精霊(ガイスト)が幾度目かの疾走丸を飲み込み、ステータスを確認すると……とうとう、『敏捷』のステータスが“S”に到達した。


 嬉しかった。彼のあり得ないほどの努力が報われたのだ。

 でも、それでも彼にとっては通過点でしかない。

 次の目標はクラスチェンジ。彼(いわ)く、レベル五十でクラスチェンジ可能ということだから、後は“グラハム塔”領域(エリア)で幽子を集めるだけだ。


 望月くんと私は、意気揚々とこの領域(エリア)の出口を目指す。

 嬉しさのあまり戻すのを忘れてしまった、[関聖帝君]も一緒に。


 あの幽鬼(レブナント)が待ち構える十字路にたどり着き、いつものように幽鬼(レブナント)が背中を向けている隙に通過しようとした瞬間、幽鬼(レブナント)がいつもと違う挙動を見せた。

 その時、私は自分の過ちに気づいた。


「ふふ……もちろん私だって易々とやられるつもりはない。だから……君は逃げるんだ」


 死を覚悟し、私は彼に笑顔でそう告げた。

 せめて……この大切な後輩が逃げ切る、その時間を稼いでみせる。そう思って幽鬼(レブナント)へと向き直ると……何故か彼は逃げようとせず、私の隣に並び立った。


「……俺は先輩が一緒じゃない限り、絶対に逃げませんから。逃げるなら、先輩と一緒ですから」

「望月……くん……」


 彼の決意のこもった言葉に、私は彼の名をポツリ、と呟く。


 それは、彼に対する申し訳なさで。

 彼が死んでしまうかもしれないという不安で。

 彼が私の指示に従ってくれない怒りで。

 そして……彼の私への想いに対する嬉しさで。


 それ以上、私はもう何も言えなかった。


 ただ……彼は……望月くんは、この私が命に懸けても守ってみせる!

お読みいただき、ありがとうございました!


次回はこの後更新!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価をよろしくお願いします!

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