クラス代表選考会 決勝戦②
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「“賀茂カズマ”、か……」
俺は、目の前で勝ち名乗りを受けて声援に応える一―一のクラス代表を眺めながら、ポツリ、と呟く。
というのも、この“賀茂カズマ”って奴について、俺は何の情報も持ち合わせていないのだ。
まあ、そもそも『ガイスト×レブナント』の仲間キャラに、こんな奴はいないからなあ。
とりあえず今日の夜にでも、『攻略サイト』に少しでも情報が載ってないか確認するとしよう。
「さあ! 次はいよいよ俺の番だぜ!」
そう叫ぶと、加隈がガッツポーズをしながら立ち上がった。
「立花! 俺は先にクラス代表に選ばれる! だから……待ってるぞ!」
ビシッ! と立花に指を突き付け、歯を見せながら不敵に笑う加隈。
それに対し、立花はというと……。
「あ、あー……うん……」
ものすごく気まずそうな表情を浮かべ、サッと目を逸らす立花。
その姿は、家族でファミレスにご飯を食べに行った時に、たまたまクラスの知り合いと遭遇してメッチャ気まずい気分になった時のようだった。
うん、立花は今、いたたまれないんだろうなあ……。
「それじゃ……行ってくる!」
「「「「…………………………」」」」
加隈はクルリ、と踵を返し、颯爽と舞台上がる。
それはまるで、物語の主人公のようなムーブではあるんだけど、その……加隈がすると似合わない。
まあ、『ガイスト×レブナント』でもお調子キャラの三枚目設定だもんなあ……。
「……キモチワルイ」
ああ、加隈よ……お前に対する立花の好感度は、下がる一方だぞ……。
「ヨッシャアアアアア! 今の俺は、どんな奴が相手でも負ける気がしねーぜ!」
オイオイ加隈、その根拠のない自信はどこから出てくるんだよ。
「ハア……偉そうに言ってるけど、結局のところアンタはあれだけ馬鹿にしてきた“ゴブリン”が強くなった途端、尻尾振ってるだけじゃん」
「はあ!?」
対戦相手である女子生徒……ええと、なんて名前だったっけ? い、一応最初の二か月は同じクラスだったから、見覚えはあるんだけど……うん、知らね。
でも、その煽り方はできればやめて欲しかったなあ……。
だって。
「……あの女子生徒、よほど死にたいらしいな」
「ふふ……[ポリアフ]の【スナイプ】でひと思いに仕留めますか?」
「あはは……彼女、面白いこと言うね」
先輩、氷室先輩、立花の三人がそれはもうすさまじい殺気を放っているせいで、まるでマンガみたいに俺の視界がグニャリ、と歪んで見える……ような気がする。
それにしても俺の評価って、一―二では今でも“ゴブリン”のままなんだなあ……。
「なあオマエ……アイツのこと馬鹿にすんの、ヤメロよ」
「はあ? 尻尾振って飼い犬みたいになった途端、アイツの擁護? ダサ」
ああもう、加隈もそんなバカはもう構うな。そうじゃないと、俺がこの三人を抑える自信がないぞ。
「ハハ……つーかオマエの言う通り、俺はダセーよ。散々アイツのこと馬鹿にしてきたくせにアッサリとやられて、その後もふてくされて、勝手にアイツや立花に絡みに行って……」
「なんだ。理解してるなら、せめてこの決勝、辞退したら? アンタが代表だなんて、恥ずかしいだけなんだから」
唇を噛みながら俯く加隈に、女子生徒がなおも失礼な言葉を投げかける。
ハア……担任を含めて、本当に一―二の連中はクソだな。
「加隈! いいからそんなクソ野郎、サッサと叩きのめしちまえ!」
気づけば、俺は舞台に向かって大声で叫んでいた。
大体、俺のことがそんなに気に入らないんだったら、加隈なんかに絡んでないで直接俺に行って来いよな。
「ハハ……アイツ、本当にしょうがねーよな……! 分かったよ! ヨーヘイ!」
今度は加隈の奴が、苦笑しながら俺の名前を叫びやがった。
というか、なんで俺のことを下の名前で呼んでるんだよ。
「コホン……では、両者構え!」
このままだと収拾がつかないと思ったのか、審判を務める学年主任の先生が咳払いをした後、少し時間が早いけど試合を始めることにしたみたいだ。
そして。
「始め!」
「来い! [ロキ]!」
「フン! [カマソッソ]、来なさい!」
開始の合図と共に、加隈と女子生徒が互いに精霊を召喚する。
女子生徒の精霊は、半分だけ仮面を被ったショートカットの女性で、コウモリのようなマントを羽織り、両腕に鉤爪の武器を装着していた。
そして、その仮面から覗く表情は、どこか心が壊れているかのような不気味な印象を受けた。
「ハッ!」
女子生徒のそんな掛け声と共に、精霊……[カマソッソ]はマントを広げて飛翔する。
へえー……飛行タイプの精霊なんて、珍しいな。
「アハハ! それじゃ、この私がアンタをギリギリまでいたぶってアゲル! 感謝しなさい!」
そう言うと、[カマソッソ]が空中から[ロキ]に向かって急降下をした。
「【ニードルスピアー】!」
両手の鉤爪を突き出し、きりもみしながら[ロキ]の頭部を狙う。
だけど。
「っ!? 消えた!?」
突然[ロキ]が視界から消え、女子生徒が戸惑う。
「ハハ! ワリイな、[ロキ]はコッチだよ!」
いつの間にか[カマソッソ]の背後にいる[ロキ]が、その手に持つ杖を向けると。
「【マドハンド】!」
地面から腕が生え、[カマソッソ]の足首をつかんだ。
「な、なんなのよコレ!? は、離せ!」
「バーカ、離すわけねーだろ。つーか、このまま引きずり込まれろ」
加隈は皮肉を込めてそう言い放つと、ずる、ずる、と[カマソッソ]の身体が地面にめり込んでいく。
「わ、分かった! 謝る! さっきの言葉は取り消すから!」
「は? ワリイ、聞こえねー」
懇願する女子生徒を無視し、加隈が小指で耳をほじる仕草をした。
その時。
「それまで! 勝者、“加隈ユーイチ”!」
もう女子生徒は戦闘不能だと判断した学年主任の先生が、ここで加隈の勝ちを告げた。
まあ、あの女子生徒は恐怖で泣きじゃくってるし、このまま続けてもアレだから、いい判断だと思う。
「どうだ! これが、俺の[ロキ]の強さだ!」
舞台の上で嬉しそうにガッツポーズをする加隈。
そんなアイツを眺めながら、俺は思わず苦笑した。
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次回は今日の夜更新!
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