ゲームの世界
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新連載第二話!
「くあ……」
うるさく鳴り響くスマホのアラームを止めて欠伸をすると、俺はベッドから降りて窓のカーテンを開ける。
「うむうむ! 絶好の入学式日和だな!」
そう、今日はいよいよ俺が“国立アレイスター学園”に入学する日だ。
“国立アレイスター学園”は、俺と同じ精霊使いが一堂に集まり、通常の高校で学ぶことに加え、精霊に関する様々なことを学び、鍛える我が国有数の養成機関だ。
そして、晴れてこの学園を卒業した暁には、その後は国の要職に就くなど、第一線で活躍することになる。
まあ、この学園に入学が決まった時点で、既にエリートへの道が約束されているのだ。
「ムフフ、可愛い女の子はいたりするかなー……って」
そういえば、『攻略サイト』には主人公の彼女候補となるヒロインがかなりいたなあ。
まあ、さすがにそこまで偶然一致するなんてことはないだろうけど。
俺は学園指定の制服に着替え、リビングへと向かう。
すると。
「「あ……」」
俺を見るなり、父さんも母さんも、気まずそうな表情を浮かべる。
そんな両親の態度は、俺の精霊が発現してからこの一年間ずっとだ。
俺も無言でテーブルに着くと、用意されていた朝食のうち、トーストだけをかじる。
というか……相変わらず気分悪い。
「……ごちそうさま」
結局俺は一口だけトーストをかじり、あとは全て残した。
そして、無言のまま洗面台に向かって歯磨きと洗顔を済ませた。
「おし!」
俺は気合いを入れるために両頬をパシン、と叩いた。
何つっても、今日は入学式で学園生活初日だからな。他のみんなに後れを取る訳にはいかない。
ということで、俺はヒューズボックスを背負って玄関に向かうとスニーカーを履く。
「行ってきます」
聞いているかどうかも分からない両親にそう告げると、返事を待たずに俺は家を出た。
……心配しなくても、寮が決まればこんな家、すぐに出て行ってやるよ。
◇
「おおー!」
学園の校門に着くなり、俺は思わず校舎を見上げた。
さすがは国の威信をかけて設立した学園だ。
周辺にある建物と比べても、圧倒的に立派だった。
おっと、こんなところでボーッとしててもしょうがない。
サッサと中に入って、俺のクラスとか確認するか。
だけど。
「……まさか、『攻略サイト』に載ってたように、“一-二”だったりしないよな……?」
いや、もちろん俺も『攻略サイト』なんて信用してないし、絶対にあり得ないと思ってるけど……その、なあ……。
俺はおそるおそる下駄箱の前に張り出されているクラス名簿を確認する。
「マ、本気かよ……」
俺のクラスは、“一-二”だった。
「じゃ、じゃあクラスメイトは!?」
慌ててクラス名簿の名前を確認するが……『攻略サイト』に載っていた、ヒロインや主人公の仲間になる奴の名前が確かにあった。
「は……はは……」
何だよコレ……そんなことって、あんのかよ……。
俺は乾いた笑みを浮かべたまま、フラフラとした足取りでこれから世話になる教室へと向かった。
教室に入ると、『攻略サイト』に載っていた特徴通りのヒロイン達がいた。
黒髪ロングで眼鏡を掛けた、クラス委員長の“悠木アヤ”。
少しチャラい感じのお調子者で、主人公の親友となる“加隈ユーイチ”。
そして……銀髪をハーフアップにまとめ、後に“アレイスターの聖女”と呼ばれる“木崎セシル”。
他にもヒロインや仲間キャラは多くいるが、残りはクラスや学年が違っていたり、先生だったりするから、クラスメイトではこの三人だ。
「じゃあ……本当に……」
俺はポケットからスマホを取り出し、ブクマしてあった『攻略サイト』を開く。
そして、俺のことが記されているページにある評価。
『主人公が転校した時に真っ先に絡んでくるクソザコモブ』
俺は……本当にクソザコモブなのか?
……って、イヤイヤイヤ! こんなの偶然! 偶然に決まってんじゃん!
そんな言葉を信じたくなくて、俺は打ち消すように必死でかぶりを振る。
その時。
「みなさん、入学おめでとうございます」
教室に入ってきた、栗色の髪をボブカットにしたものすごい美人。
もちろん、俺はその女性を知っている。
「これから一年間、あなた達の担任となります“伊藤アスカ”です」
そう……そして、主人公の恋人となるヒロイン候補の一人でもある。
「詳しい自己紹介は後でします。まずは、これから入学式ですので講堂に向かいましょう」
先生は教室の前で俺達を出席番号順に整列させると、先生を先頭に講堂へと向かう。
すると。
「よう、なんか顔色悪いぞ?」
隣の男子生徒が、少し心配そうに声を掛けてきた。
「いや、別に……」
「あ、そう」
それどころじゃない俺は適当にあしらうと、その男子生徒は少し不機嫌そうに前へと向き直った。
男子生徒には悪いが、本当に俺はそれどころじゃないんだ。
俺は必死で頭の中で考えを巡らせるが、どう考えても導き出される答えは一つになってしまう。
もう認めるしかない。
――ここはゲームの世界で、俺達はそのゲームのキャラクターなんだと。
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