先輩同士の賭け事
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――ザシュ。
第一階層に出現する幽鬼、“グリーンスライム”を藤堂先輩の[関聖帝君]が一刀に切り伏せると、その姿を幽子とマテリアルへと姿を変えた。
「あ……レベルが上がった」
幽子は先輩と半分ずつに分けられてしまうが、それでも初心者用の領域にいる幽鬼よりもかなり上の強さであるため、その幽子の量も倍以上みたいだな。
「ふふ、やったな」
「はい!」
俺はガイストリーダーを眺めながら、微笑む先輩に返事をした。
「しかし、君の[ゴブ美]は大分偏った成長の仕方をしているな」
ガイストリーダーに表示されている[ゴブ美]のステータスを眺めながら、先輩はそう言った。
「あはは……ど、どうしてでしょうかね……」
俺は誤魔化すように、苦笑しながら頭を掻いた。
先輩になら、“ぱらいそ”領域のことについて話してもいいんじゃないかとは思っている。
でも……あの領域の攻略に必要となる最低レベルは八十。それも、五人編成のパーティーが全員そのレベル以上っていう条件だ。
いくら先輩でも、今の段階で危険にさらすわけにはいかない。
俺が強くなって、先輩の横に立てるようになるまでは……。
「? 望月くん?」
「へ? あ、ああいえ、つい考えごとをしてしまいました……」
「ふむ、そうか。だが、あの初心者用の領域だけでよくぞここまでレベルを上げたな。本当に……君はすごい」
「あ……」
先輩の言葉に、俺は自分の胸襟をギュ、と握る。
ああ……先輩は、本当に俺が欲しい言葉をいつもくれる。
俺も、先輩にこの恩返しをしないと、な。
「先輩! 行きましょう!」
「ふふ……ああ!」
俺は先輩と共に、第一階層を見学した……んだけど。
「ゲッ!」
「…………………………」
「あ! 望月くん!」
……よりによって、加隈達と鉢合わせしてしまった。
「へえ……生徒会長様が直々に今回の一年生の引率に名乗りを上げたって聞いたけど、まさかそんなゴブリンの面倒を見るためだったなんてね」
夏目先輩はチラリ、と[ゴブ美]を見やると、口の端を持ち上げながら先輩にそう話しかけた。
「ふふ……そうだな、君の言う通りだ」
先輩はそっと目を瞑ると、微笑みを浮かべながら首肯した。
「ふーん……アタシには、彼にそんな価値はないと思うけど?」
「…………………………」
俺の傍に寄ると、背の高い夏目先輩は前かがみになりながら俺の顔をジロジロと覗き込んだ。
というか、少し感じ悪いな……。
「ふ……だとしたら、君の見る目がないのではないか?」
「へえ……言うじゃん」
先輩がニヤリ、と笑うと、夏目先輩も同じく笑みを返した。
「なら、アタシと勝負しない? この彼のゴブリンが一学期終了まで……そうだね、可哀想だから一年生の平均くらいまでステータスが伸びたら、アンタの勝ち。平均に届かなかったらアタシの勝ちってことで」
そう言うと、夏目先輩がニタア、と口の端を吊り上げた。
あー……これ、[ゴブ美]のステータスを加隈か悠木のどちらかから聞いたな。
「先輩、こんな賭けに付き合う必要……「いいだろう」……ちょ!? 先輩!?」
俺はこの分が悪い賭けを断るよう先輩に告げる前に、アッサリと了承してしまった!?
いや、もちろん俺も強くなるつもりだけど、それでも一学期終了までに平均値は想定してなかったんですけど!?
「キャハハ! すごい自信だね!」
「もちろんだ。彼は……望月くんは、私の期待に応えてくれるはずだ!」
先輩も先輩で、自信満々に答える。
「キャハハハハハ! そんなに自信があるんだったら、彼ができなかった時にはアンタに何してもらおっかなー♪」
夏目先輩は伸ばした人差し指の先を口元に当て、鬼の首を取ったかのように嬉しそうに考える仕草をした。
「そうだ! じゃあこんなのどう? 彼が達成できなかったら、アンタは生徒会長を辞めるの! まあ、学園長の娘だからって、その特権活かして就いた役職だから、別にいいよね?」
まるで勝ち誇るかのように、夏目先輩……いや、夏目は先輩の顔を覗き込む。
「ああ、もちろん構わない」
「! 聞いた? 君達も聞いたよね!」
言質を取ったとばかりに、木崎さん達三人へと振り返って同意を求めると。
「ハイっす! 俺、確かに聞きました!」
「……ええ、生徒会長はハッキリと言ったわ」
「そ、そうですね……」
加隈は嬉しそうにビシッと敬礼ポーズを取り、悠木は含み笑いをした。
そんな中、木崎さんだけは困惑した表情を浮かべながらも、それを認めた。
「キャハハ! 彼等が証人だからね! 今さら『ヤッパリ無理ですー』なんて、通用しないから!」
「ふふ、だから構わないと言っている。むしろ君こそ、彼が達成できた時は何を差し出してくれるのだ?」
「いい度胸じゃない! その時は、アタシが素っ裸でアンタと彼に土下座してあげるわよ!」
ええー……というか、そんなの俺や先輩にとって何もメリットないじゃん……。
「ふふ、君の裸と土下座なんて何の価値もないけど、その条件で構わないぞ」
「っ! キャハハ! 言うじゃない! あー、早く一学期が終わらないかなー! さあみんな、もうこの二人には用はないから、早く行きましょ!」
「「はい!」」
「は、はい……」
嬉しそうにこの場を離れていく夏目達。
そんな中、木崎さんだけは心配そうな表情で何度もこちらを振り返っていた。
はあ……木崎さん、癒される……って!?
「せ、先輩! ほ、本当にいいんですか!?」
「ああ、構わない。だけど……これは私と彼女、二人の賭けだから君は勝敗なんか気にしなくていい。ただ君達は、今まで通り一生懸命強くなるために頑張るだけでいいんだ」
そう言って、先輩はニコリ、と微笑む。
先輩があんな風に言ったのだって、俺達が弱いせいなのに……俺達のこと、気遣って……。
「……先輩、お願いがあるんです」
「ふふ……何だ?」
「休日はこの学園が閉まっているから、領域に入ることができません。ですので、俺が休日でも入ることを許可していただけませんか?」
「ああ、私が学園と掛け合おう」
「それと……その時は、先輩も一緒に来てくれませんか?」
「ふふ、もちろんだとも。君の成長を、是非とも傍で見させてくれ」
元々主人公が転校してくるまでに、強くなるって決めていたんだ。それが、ほんの二か月程度早まっただけだ。
だから、それまでに絶対に強くなってみせる。
俺を信じてくれた、先輩のために。
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