グラハム塔領域
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それから俺は、毎日初心者用の領域をひたすら踏破するとともに、“ぱらいそ”領域で疾走丸を[ゴブ美]に飲ませ続けた。
で、今のステータスはこうだ。
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名前 :ゴブ美
属性 :ゴブリン(♀)
LV :20
力 :G
魔力 :G+
耐久 :G
敏捷 :B-
知力 :F+
運 :G
スキル:【集団行動】【繁殖】
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くそう、レベルを二十まで上げたのに、疾走丸で伸ばした『俊敏』以外、ほぼステータスが変わってねえ……
と、とはいえ、やっぱり疾走丸を毎日十個ノルマで飲ませ続けたおかげで、他のステータスと比べて圧倒的に成長した。継続こそ力だ。
「それで……一応、[ホブゴブリン]にクラスチェンジできるけど、あくまでも[レッドキャップ]を目指す。それでいいな?」
俺は改めて[ゴブ美]に問い掛ける。
レベルアップに必要な幽子量が少ない[ゴブ美]でも、初心者用の領域の幽鬼ではレベル二十までに一か月かかった。
[レッドキャップ]にクラスチェンジするとなれば、さらにあと三十のレベルアップが必要だ。しかも、レベルを一つ上げるごとに必要となる幽子の量はさらに多くなる。
つまり、俺は[ゴブ美]にその覚悟を問うたのだ。
だけど。
『(コクコク!)』
うん、[ゴブ美]はアッサリ首を縦に振った。それだけ[ゴブ美]の意志は固いんだろう。
……いや、それは俺も同じ、だな。
「よっし!」
俺は気合を入れるため、パシン、と両頬を叩いた。
「じゃあ今日も、初心者用の領域の踏破と“ぱらいそ”領域で疾走丸の入手をするぞ!」
『(ブンブン!)』
はは、[ゴブ美]も棍棒を振り回して気合い充分だ。
と言っても、レベルアップに関しては明後日からのゴールデンウィークが明ければ、一つの目途が立つんだけどな。
だって……いよいよ“グラハム塔”領域が解禁になるんだから。
「[ゴブ美]……強く、なろうな」
『♪』
そう言って頭を撫でてやると、[ゴブ美]は気持ちよさそうに目を細めた。
◇
ゴールデンウィークが明けてすぐの月曜日。
一年生はいよいよ、二年生に進級するための条件の一つ、“グラハム塔”領域への攻略が始まる。
「ふふ、楽しみだな」
「先輩!」
“グラハム塔”領域の扉の前で緊張していると、藤堂先輩がポン、と俺の背中を叩いた。
「ということで、今日の見学は君と私で行くぞ」
「はい!」
うん、あらかじめ先輩からは教えてもらってはいたけど、先輩と一緒に回れるってだけで安心感が半端ない。
それに……先輩にこの一か月の成果を見てもらうんだ。
「よし! では一-一から入れ。今日の目的はあくまで見学だから、第一層までだからな」
一番手の班が、二年生の先輩と一緒に領域内へと入って行く。
なお、今日の見学は基本的に一班当たり一年生三人に引率の二年生一人という編成だ。
といっても、俺は先輩と二人きり、だけどな。
理由? 察しろ。
「ふふ、“グラハム塔”領域は私ならソロで危なげなく攻略できるからな。望月くんは安心していい」
「はは、もちろん心配なんてしていませんよ」
「本当か? さっき声をかけるまで、結構緊張していたように見えたが?」
先輩がニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。
くそう、その通りですよ。
「ふふ……だが、時には強がりだって必要な時もある。それに、そんな強がりを言えるということは、初心者用の領域での訓練、上手くいっているのだろう?」
「あはは……」
あー、どうやら先輩には全てお見通しみたいだ。
本当に、かなわないなあ……。
「次、“夏目”班!」
「「「「はい!」」」」
お、どうやら木崎さん達の班が中に入って行くみたいだ。
なお、木崎さん、加隈、悠木の三人に、二年生の“夏目ハルカ”先輩の四人編成となっている。
そしてこの夏目先輩も、もちろんメインヒロインの一人だ。
モスグリーンのメッシュが入ったウルフカットで長身スレンダーのモデル体型。
『攻略サイト』によると、そのサバサバしたボーイッシュな性格は男女共に人気が高いらしい。
「次、藤堂班!」
おっと、俺達の班が呼ばれたぞ。
「ふふ、では行こう!」
「はい!」
俺と先輩は、“グラハム塔”領域の扉を意気揚々とくぐると。
「おお……」
初めて入る“グラハム塔”領域の雰囲気に、俺は思わず声を漏らした。
この“グラハム塔”領域は六十階層で構成されており、一層当たりの広さは初心者用の領域の約二倍。
出現する幽鬼も上の階層に進むにしたがって強くなっていく。
なお、この領域の踏破に必要となるレベルの目安は三十となっている。
「つまり……俺にとってはレベルが九十あったとしても踏破は難しい、ってことだ」
俺は正面を見据えながらポツリ、と呟く。
クラスでの俺の評価からも分かる通り、俺とパーティーを組んでくれるような奴がいるわけがないからな……。
であれば、俺はソロでこの“グラハム塔”領域を攻略しないといけないってことだ。
そうなると、[ゴブ美]のステータスも考慮して踏破に必要なレベルの二倍……いや、三倍は必要になる。
すると。
「……心配するな。この私が、必ず君を強くしてみせる。必ずだ」
先輩が俺の背中をバシン、と強めに叩き、力強く頷いた。
「先輩……はい!」
そうだ。
俺にはこんなに優しくて、強くて、綺麗で……最高の先輩がついているじゃないか。
それに、あの『まとめサイト』だってある。
ギュ、と拳を強く握りしめ、俺は“グラハム塔”領域の踏破に向けての第一歩を踏み出した。
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