強くなる理由
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教室を出た後、俺と藤堂先輩は食堂へとやって来た。
国が誇るアレイスター学園だけあって、食堂で提供される料理は一流のレストランにだって負けないくらい美味い……らしい。
というのも、俺はまだ食堂で食べたことはないのだ。だから、今日が初体験というやつだ。
「ふふ、望月くんは何にしたんだ?」
「俺ですか? 俺はBランチにしました」
「そうか。私は迷ってAランチにしたんだが、君がよければ、その……」
先輩が上目遣いでおずおずと尋ねる。
というか先輩……そんな仕草、反則ですよ。
「あはは、でしたら食べ比べしましょうか」
「! う、うむ!」
俺の言葉に、先輩の表情がぱあ、と明るくなった。
うわあ……たまらないなあ……。
食券と交換してランチを受け取り、俺と先輩は席に着く。
「しかし……君もお人好しだな。君が止めなければ、あの男にもっと言ってやったものを……」
先輩は開口一番、そんなことを言って苦笑した。
「イヤイヤ、それこそ止めてください……」
「む、どうしてだ? あの男は、相応の報いを受けるべきだろう?」
俺がそう言うと、先輩は少し不満そうな表情を浮かべる。
「そ、その……俺の勝手な思いですけど、先輩にはあんなこと、して欲しくないんです」
「……それは、どうしてだ?」
「はい……俺の中の先輩は、凛としていて、優しくて、強くて、綺麗で、カッコ良くて……その……あ、憧れなんです……って、先輩?」
「あ、あうあうあうあう……」
見ると、いつも自信満々な先輩が顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。
「そ、その、君はいつもそんなことを誰かに言っているのか……?」
「まさか! こんなこと言うのは先輩だけですよ!」
「あうううう!? ……わ、分かったからもうこれ以上は……!」
「?」
先輩が両手で顔を覆ってしまった……と、とにかく先輩も嫌がっているし、これ以上余計なことを言うのはやめよう。
「そ、それで、先輩は俺に何の用事があったんですか?」
俺は話を逸らすため、先輩にそう尋ねる。
「あう!? あ、そ、そうだったな……コホン、実は君のクラスの担任の伊藤先生のことだ」
「先生の?」
ああー、そういえば先生、体調崩してしばらく来ないんだっけ。
「うむ。彼女は今回の件の責任として、中間テストが終わるまで謹慎処分となった」
「……アレ? 先生は急病だって、堀内先生から聞きましたけど?」
「ああ、さすがに本当のことを言うと、生徒達に影響が出ることを考慮して、表向きにはそういう理由にしているんだ」
「ああ、なるほど」
確かに、先生が処分を受けて謹慎になりましたー、なんて知れたら、その後の先生と生徒の関係がおかしなことになるもんなー。
「本当は、担任そのものをすげ替えるという話もあったんだが、いかんせん君達が入学してからまだ四日しか経っていないからな。代わりを務める先生の確保を含め、さすがに厳しかったみたいだ」
「ですよねー……」
いや、俺としては担任が替わろうが替わるまいが、今さらどうでもいい。
だって……いずれは強くなって、見返してやるつもりだから。
「だけど先輩、そんなこと俺に教えても良かったんですか?」
「ん? ああ構わない。むしろ、当事者である君は知っておくべきだからな。君のお母様にも、教頭先生から改めて処分結果を伝えることになっているしな」
「そうですかー……」
うん、とりあえずこの件は、これで終わりかな。
「おっと、話ばかりしていて、食べるのを忘れてしまっていたな。さあ、食べよう」
「はい! いただきます!」
「うむ、いただきます」
それから俺と先輩は、談笑しながらランチを楽しんだ。
……あ、もちろんランチはシェアしたけど、ね。
◇
先輩とのランチを終えた俺は、教室へと戻って来ると。
「「「「「…………………………」」」」」
……うん、見事に空気が重い。
まあ、先輩に一喝されたらそうなるよなあ。それに、確かあの[関聖帝君]には【大喝】スキルもあったし。
「…………………………チッ」
んで、一番の被害者である加隈は、俺を見るなり顔を背けて舌打ちした。
朝やさっきみたいに、いきなりゴブリン呼ばわりされるよりかはましか。
「…………………………」
悠木も悠木で、いつもみたいに俺の席の横をわざわざ通り過ぎて皮肉を言ったりすることもなく、ただ俺を睨みつけている。というかいっそ見るなよ。
…………………………ハア。
俺は机に掛けてあるヒューズボックスを取ると、無言で教室を出て行った。
こんな雰囲気の中で授業を受けたいなんて到底思わないし、それに俺達には、強くなってアイツ等を見返してやるっていう至上命題があるんだからな。
いや、それ以上に。
「俺を信じてくれる先輩に報告するんだ。強くなった、俺達を」
そう呟いてから気づく。
強くなろうって決めてからまだ四日しか経ってないのに、いつの間にか強くなるための理由が増えてしまっていることを。
「……ハハッ」
俺は思わず笑うと、軽い足取りでいつもの初心者用の領域へと向かった。
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