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雷霆使いの欠陥魔術師  作者: 樹齢二千年
第三章 階級昇格編
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84話『黄泉返り』

 鳥たちの声が鼓膜を叩き、地面の冷たさが、意識を水底から現実へと引き上げる。


(────私、生きてる)


 目を開き、ゆっくりと上半身を起こす。

 目覚めた彼女の傍にあったのは、焚火の跡と、眠りこける二人の男女の姿だ。

 片や、近くの大木に身体を預ける青年。

 もう片方は、焚火の近くで雑魚寝している紫髪の少女。


「……それに、これって」


 手に伝わる硬い感触。

 視線を向けると、手の中に感触赤く煌めく鉱石のような物が握られていることに気付く。

 そして──認識すると同時に、彼女の脳内に奇妙なイメージが映像として流れ込んだ。


「────ッ!!」


 思わず額に手を当て、歯を食いしばる。

 脳内に流れたのは、燃え盛る炎の中で狂乱し、人間を貪り食う牛頭の魔神の姿。その神はブロンズの体躯を持ち、彼に平伏す人々の姿まで鮮明に映し出した。


 中には、我が子を贄に捧げられて涙を流す者もいた。

 しかし、誰一人抵抗することなく、豊穣のために祈りを捧げ続ける。

 恐ろしき存在であれど、神は神。

 彼らが生きるためには、目の前に鎮座する魔神にただ縋るしかなかった。 


 彼女が握っている「核」に残された、遥かな過去──神の時代の記録だった。


 その神が一体誰なのか、彼女はとうに知っている。

 つい一晩前、己が命を賭して戦いを挑んだ相手が接続していた「冥界の神」だ。


「……これが、モレクの姿。ってことは、この石みたいなのは……」


「……ん、起きたのか……って、クロノお前、もう動けるのか!?」


 目を擦りながら起きたアウラは目を剥き、第一に彼女の身体を心配する。

 傷口こそ塞がっているが、ヴェヘイアに貫かれた腹部──とりわけ内部の方が完全に治療できているかは気がかりな部分だったのだ。

 聞かれた当のクロノは自分の腹を軽くさすってから、


「はい、不思議と……魔力の方はカツカツですけど、血もちゃんと通ってますし」


「なら良かった……」


 心の底から安堵の声を漏らすアウラ。

 続けて、


「俺とカレンがもう少し早く到着していれば、ここまで重傷にはならなかっただろうに」


「謝らないで下さい、私は全力で司教と戦った。その上で負けたんですから、そこに後悔はありません。それに、得るものもありましたから」


 言いながら、クロノは手の中に大鎌を顕現させる。

 刃が帯びる群青色は、不思議と以前よりも深い。

 彼女が愛用している、神の時代にまで遡る代物だ。


「得たものって、戦術的な意味で?」


「勿論それもあります。神言魔術の使い方も、自分がどれだけ吹っ切れていなかったかも、色々と自分を見つめ直す切っ掛けになりました。──それから、この鎌の名前も」


「クロノの、鎌────あ」


 彼女に言われると、アウラは思い出したように言葉を漏らした。


「そういえば、ずっと名前だけ思い出せなかったって言ってたもんな」


「ほんと、ようやくです。どうやら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしくて」


「クロノがヴェヘイアの冥界を垣間見たから、その条件を満たしたってことか。……いやそれ、普通に考えたら誰もクリアできないだろ」


「私の御先祖様が一体何を考えてたんだか、さっぱりですよ。実家に戻っても、知ってる人間がいるかすら分かりませんし」


「──確かに、アンタの家はただの農家って言ってたものね。考えられるとすれば、クロノの先祖は元々は貴方みたいな人間を生み出すことを目指してた魔術師か、それとも神の祭祀に関わる一族だったか……いずれにせよ、気になる部分ではあるわよね」


 いつの間に起きていたのか、カレンが会話に参加する。

 彼女は立ち上がって伸びをした後、


「一時はどうなるかと思ってたけど、一旦は安心しても大丈夫そうね。……正直、ここまで回復したのにはちょっと驚いてるけど」


「やっぱり、モレクの核を魔力源にしたのが大きかったんだろ。確か、クロノの手に握られてたと思うんだけど」


「あ、はい。これですよね……って、あれ?」


 クロノが、手の中にあった赤い鉱石のような物質──冥界神モレクの神骸(しんがい)

 つい先刻までは血のように深い赤色を纏っていたが、気が付けば色は抜け、ただのヒビの入った石に成り果てていた。

 手に持っている当のクロノも、


「おかしいですね、さっきまでは僅かながら魔力が残ってたんですが……」


「見た感じ、全部使い切ったって感じだな。ロギアも「別に破壊しても良い」みたいに言ってたし、特に問題はないだろ」


「魔術の触媒として使った後の残りも余すことなくクロノが吸い取ったってワケね。アンタ、どんだけ食いしん坊なのよ」


「いやぁ、それほどでも……ありますかね?」


「少なくともこの中じゃ、魔力の総量はアンタが一番多いわよ。魔術だって、神の時代のルーン魔術なんて代物をバカスカ使えるのもクロノぐらいだし」


 照れ臭そうに頭を掻くクロノに、冷静にカレンがツッコむ。


 強化の魔術とルーン魔術の併用を長時間行えるのは、クロノ自身の魔力量の多さ、そして周囲に漂うマナの変換効率の高さによるものだ。

 意図的に火炎や氷塊を現出させる基礎的な魔術──属性魔術は無論、ルーン魔術や奥の手である神言魔術など、手数の多さも彼女の強みである。


「これは私の師匠のお陰ですよ。それより、暫くはこの辺りで待機する感じですか?」


「そこはクロノ次第よ。歩けるなら出発するし、難しそうなら先にギルドに向けて使い魔を飛ばしても良いかもね。アウラはロギアさんから何か聞いてる?」


「あぁ、ロアさんとミズハが先に街のギルドに戻って報告に行ってるってさ。後で教会やら冒険者やらの調査が入るだろうから、多分俺達はその対応になると思う……ついでに、俺とカレンが捕縛した盗賊たちも連行してもらうか」


「古城の玄関には魔術で錠をしておいたし、あとはイェレドのギルドの人間に任せても大丈夫でしょう」


 立ち上がり、カレンはつま先でトントンと地面を叩く。

 続くようにアウラとクロノの二人も立ち上がり、歩きだしたカレンの後をついていく。

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